第27話【侵入】
数時間後、AM二時──
いわゆる丑三つ時になっても、俺は眠れずにいた。ベッドの中でゴソゴソと身悶えながら、様々な思考が頭の中を過る。
SNSで天下無双を目指すか……突拍子がないというか、無謀というか。でも、ある意味大剣豪宮本武蔵らしい破天荒な野望ではあるな。それに関われる俺もワクワクしてるし。
しかし、それとは別に、完全にムサシに対して女を感じている自分がいるのも事実だ。これはもう、ワクワクではなく、ムラムラという表現の方が適している。中の人は宮本武蔵だとしても、見た目がアレだ。あんなにも可愛い女の子が、隣の部屋で眠っているのだ。思春期の青年にとって気が気ではないのは当然だろう。
今まで女子を意識したことは何度かあるが、それは常に家の外での出来事。家の中に居るとなると、話は百八十度違ってくる。恋心があろうがなかろうが、タイムスリップしてきた大剣豪だろうが、可愛い女の子がこの家に居るという事実に抗える訳がない。
あぁ、眠れない──
どうすりゃいいんだ? てゆーかさ、抱きついてきたりなんかするから、こんな事になってんだよ。
この煩悩にまみれた頭をスッキリさせる方法は……うん。自家発電以外にあるまい。 しかしだ、隣でムサシが眠っているという現実を意識すると、何となく緊張してその工程に至れない。
まいったな。つか、俺はどうしたい? 今、何をしたい? 夜這い? いやいや、それは良俗に反する行為だ。じゃあ? じゃあどうする? 賢者モードになって睡眠を摂るにはどうしたらいい? 自分自身に問いかけた──
その結果、色々譲歩して渋々決定した。
煩悩解消行動は、『ムサシの寝顔を見る』だ。
忍び足──家屋が古いので、踏みしめる床板によってはかなりの音を立てる。クソ……こういう時の音ってのは、かなり気になるからな。
彼女が目覚めてしまったり、母さんに気付かれたら、寝顔を見るという目的が破綻してしまう。摺り足に集中するんだ、俺。
たった一メートル弱の扉までが、やたらと遠く感じる。何とか部屋の前に到達し、次なる難所、ドアノブに挑む。幸いな事に鍵はついていないので、部屋には入れる。しかし、このドアノブ、かなりの音を発生する。故に全神経を集中させて作業に臨まなければならない。
ああ──心臓がバクバクだ。ゆっくりドアノブを回した。
慎重に、慎重に。これはもはや盗人の心境だ。
よし、なんとか無音でドアノブを回すことに成功した。ゆっくり、ゆっくりだ。ここで焦ってはならない。何故ならば、ヒンジ部分に使用されている蝶番が錆びているのが原因で、ドアを開ける際にかなり大きな音が発生するからだ。
というわけで、ミリ単位でドアを開け始めた。それはまるでジェンガの棒を引き抜くように──
よし……最終関門突破だ。身体を滑らせるように部屋へ侵入。そして、入り口で現状を確認した。
部屋の電気は全て消されている。まいった……これでは寝顔を確認するのは困難だ。しかし、電気を灯すのはリスクが高い。暗闇に目が慣れるまで、少しその場で立ち止まった。
──数分後。
暗闇に目が慣れてきた。ドアの隙間から入ってくる僅かな月明かりを頼りに、ベッドまでのルートを確認をした。
床には雑然と置かれた段ボールや雑誌等が、トラップとして機能していやがる。これを踏まないルートを通るしかない。生まれて初めて、リアル抜き足差し足忍び足を実践し、ベッドまでの近くて遠い距離を慎重に進んだ。
……よし、もう少しで目的地に到達だ。心音が部屋の中に鳴り響くのではないか? と思うほど大きくなっている。ルーブル美術館でモナリザを生で見る人々の心境は、きっとこんな感覚なのだろう。知らんけど。
さて、どんな寝顔をしているのだろうか? 枕元へ視線を合わせた。
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