第23話【ゴボウって、もはや木だよね?】

 ノリノリのムサシが巾着袋から出したのは、なんとゴボウだった。


 待て待て待て! 菜箸の次はゴボウだと?


「え? ゴボウ? マジ舐めてんの? そう思った人は多いと思うけどぉ、実はゴボウって結構固いんだよ? ゴボウ舐めてると大怪我するから。これはもはや木だから。じゃあ、二人目もサクっと倒しちゃうぞ♪」


 コメント録りを終えて、ムサシはスタスタと道場の中央へ戻った。そこには、この道場が誇る最強の門下生、山田三郎の姿があった。


「ムサシ殿、田中氏を破るとはお見事です。この山田、師範代の一番弟子として、これ以上柳生の看板を傷つける訳にはいきません。女性相手とは言え、容赦は致しませんよ。全力にて、貴女の野望を打ち砕きます」


 山田さんは竹刀を手にした。


 本気だ。彼は本気でムサシと立ち合うつもりだ。


 その気構えを感じたムサシは、「おお~、これは失礼のない様に、あたしもちょっとだけ本気だしちゃうぞ~」と楽しそうな笑顔を見せた。


「これより第二試合を始めます。双方前へ」


 山田さんとムサシは、蹲踞の状態から互いに一礼し、スクッと立ち上がった。その体格差は圧倒的で、例えるならクマVSウサギだ。


「始め!」


 審判の掛け声で第二試合が始まった。


 開始直後、山田さんは上段に構え、「オオオォォォ──────!」と鼓膜が揺れる大声で気合いを発する。山田さん、相変わらず声デカイっすね。


 一方、ムサシは先ほどと同じく下段の構えで相手を見据える──


 『人を射る、異相の双傍』と云われた目は、今にも「イタズラしちゃうぞ~」と言わんばかりの好奇心に溢れたキュートな目に。不動像を彷彿とさせる、怒髪天は、ローズピンクのキューティクルに包まれたポニーテールに。そして、静虚たる風体と言わしめた巨体は、今にも「抱っこぉ~」と言わんばかりの幼児体型に。しかも、可愛いだけではない。令和の世に現れた宮本武蔵は、しっかりと大地に根を張り、どんな状況にも負けない、たおやかさがある。山田さんの気合いに怖じけづく事なく、ゼリーの様にプルルルンとした唇には、微笑が浮かんでいる。 


 両者一歩も動かず──


 第一試合のデジャブ発生。また硬直状態に陥りそうだ。心の中で山田さんに対して、ディスを交えた独白を始めようとしたその時、その彼が先に動いた。


「ドリャアアアアァァァ────!」


 上段の構えから、下段にシフト──意表をついた逆袈裟斬りを繰り出した。その太刀筋はムサシの左脇腹を直撃した──かの様に見えた。


「なっ!」


 声を上げたのは山田さんだった。


 なんと、ムサシは左の足裏で打突を止めたのだ。そして、低姿勢になっている彼の左即頭部へ、ゴボウを思い切り叩きつけた。


 ゴン! という鈍い音が道場に響いた。


「い……一本! 勝負あり!!」


 一撃。勝負はまたもや一撃で決着がついた。

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