第2話 【宮本武蔵?】

 おい。おいおいおい。




 これは一体どーゆー状況だ?




 非常識過ぎて、これはもうホラーと言っても過言じゃないぞ。




 とりあえず冷静を保つ為に、購入したばかりのコーラを一口飲んだ。




「……ふぅ。さてと」




 まず、じっくりと考察してみるか。ゴミ箱に人が突き刺さっている……いや、ゴミ箱の中から足が出ているとも言えるな。断言は出来ないが、一つだけ確実なのは、コンビニのゴミ箱に八墓村状態の光景があるという事だ。生足で靴は履いていない。結構色白で、見た目からすると女性、女の子の可能性が高いな。




 考察を終えて、第二フェーズへと移行する。




 そう、生存確認だ。




突き刺さったままピクリとも動かない。事件性はありそうだが、ここは人命救助という名目で声を掛けてみる。




「すいませーん。大丈夫ですか~?」




 反応無し。仕方ない。




 ゴミ箱に近付き、人差し指で太もも辺りをツンツンとつついてみた。




「……」




 これも反応なし。結構柔らかい足だ。女の子という確証は高まった。指先に僅かなぬくもりを感じたので、死んでいる事はなさそうだ。




 ならば……と、もう少し強い刺激を与える事にした。人差し指を親指に重ね、力を込めて太ももに向かってデコピンの要領でピシッと弾いた。すると、ビクン! と両足が波打った。




 生存確認完了なり。




 さて、第三フェーズだが、これはもうシンプルに引き抜こう。サイズ的に小柄っぽいし、抜けない事はないだろう。




「……よし」




 両足首をむんずと掴み、昔、じいちゃんの畑で引き抜いた大根の収穫を思い出しながら、一気に真上へ引き抜いた──




「……おや?」




 眼前に現れたのは赤ふん、真っ赤なふんどしだった。




「男……の子? いや、女の子だ……」




 このまま宙吊りにしておくのもあれなので、とにかくゴミ箱の中から引きずりだそうか。




「……ゴクリ」




 地面にそっと横たわらせた女の子の様子を静かに伺う。ちなみに「……ゴクリ」と声に出して言ったわけじゃない。生唾を飲み込む音が大きかっただけだ。




 しかしこの娘、とてつもなく可愛いぞ。薄汚れた着物? 着流し? よくわからない和風の衣服を纏い、薄桃色の髪をポニーテールにしている。長いまつ毛にポッテリとした唇。体型は小柄な幼児体型で、胸の膨らみは大き過ぎず小さ過ぎず、丁度手頃なサイズだ。これは可愛いなんてもんじゃない。超絶世の美少女だ。




 様子を伺っていると、少女は「……ん、んん~」と吐息混じりの声を発した。どうやら気がついたみたいだ。




 そして、ゆっくりと目を開けた── 




 その瞳の色は鮮やかなエメラルドグリーン。大きな目をキョロキョロとさせて、周囲を見渡すと、上体をお越して女の子座りの体勢になった。




「…………」




 どうやら自分の置かれている状況が理解出来ない様子だ。俺は意を決して「大丈夫?」と少女に問いかけてみた。




「は……」 




「は?」




「は……腹が減った」




 空腹を訴え掛けるという、よくある開口一番だが、「腹を減らした猫と女の子には優しくせい」という、じいちゃんの遺言(まだ存命だが)を思い出して、ビニール袋の中から天むすを取り出した。




「これで良ければ」




 差し出した天むすを受け取った少女は、マジマジと天むすを見つめるも、一向に食べようとしない。




「あ、あの、食べないの?」




「これは……如何なる物でござろうか?」




 ござろうか?




「いや、天むす……名古屋名物のおにぎりだけど」




 そう伝えると、少女は天むすを再びマジマジと見ながら、




「おにぎり……おむすびの事でござろうか? しかし、拙者はこのようなゴワゴワした布に包まれたおむすびなど、見た事も聞いた事も……」




 は? 何言ってんだこの娘。コンビニのおにぎり食べた事ないのか?




 このままでは埒があかないので、一旦少女から天むすを返してもらうと、包装袋を開け、中身を出してから再び手渡した。




 少女は鼻を近づけ、匂いを嗅ぐと、一口かじりついた。




「う……」




「う?」




「旨い!」 




 そう叫ぶと、一気に天むすをバクバクと食べ始めた。




「ぐむっ!」




 胸を右拳でドンドンと叩き出した。どうやら喉に詰まったみたいだ。俺はコーラのキャップを開け、「飲みかけだけど」とコーラを差し出した。少女は奪い取る様にコーラを両手で持つと、ゴキュゴキュと喉を鳴らして一気に飲み干した。




「げふぅ」




 小気味良いゲップ炸裂。可愛い娘のゲップ、結構好きかも。




「あ……」




「あ?」




「甘ぁい…………喉がヒリヒリするでござる」




 え? コーラも飲んだ事ないのか?




 それにまた「ござる」って言った?




 明らかに言動がおかしいぞ。まあ、それよりも何よりも、可愛いんだが。




「あ、あの、君は何でゴミ箱に――」




 質問しようとした瞬間、少女は正座になり頭を下げた。




「食物を恵んで頂き、かたじけない。このご恩は必ずやお返し致します。申すも憚りあることながら、貴殿の名を教えて頂けぬか?」




「え? あ、あぁ。俺は柳生拓海だけど」




「柳生……もしや、柳生新陰流の?」




 よく知ってんなこの娘。




「う、うん。一応実家は道場やってるけど……あのさ、良かったら君の名前も教えてくれる?」


「……失礼、武士ならばこちらから名乗るのが礼儀でござったな。我が名は武蔵、宮本武蔵と申す」






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