第32話 決着の果てに
エラアを倒す方法はないのか?
何か強いキャラで……そうだ。バグキャラのオソロシイを使おう。
ウヨネたちを悪戦苦闘させたからな。
僕はオソロシイをコピーしてエラアの側に置いた。
オソロシイは動き出したが途中で止まってしまった。
「バグか。バグとはいえデータだ。私はバグを止めることができる。残念だったな」
と言ってエラアは不敵な笑みを見せた。
クソッ! 僕は思いきり机を叩いた。
ダメだ。エラアはキャラじゃないんだ。ラスボスじゃないのかもしれない。
とにかくエラアは後回しだ。
僕は勇者とウヨネの戦いを見ることにした。
どうすればゲームクリアになるんだ? エラアは倒せない以上、ウヨネを倒すしかないのか? コアが破壊されるとゲームオーバーになるのか?
ウヨネの流れ星のような攻撃で勇者は飛ばされてコアにぶつかり消滅した。
残りの勇者が戦っている。
エラアが倒せないなら……じゃあ、ここにオソロシイを出せばいいんだ。
もしかしたらオソロシイがウヨネを倒してくれるかもしれない。勇者は巻き添えをくらうかもしれないが。
コアを守るためだ。
僕はオソロシイをコピーして勇者とウヨネが戦っている空間に置いた。
が、動かない。
動け、動け、動け。僕は念じるようにオソロシイを見つめながら歯を噛みしめた。
「この世界のどこにいても、私はそいつを止めたり動かせたりすることができる。無駄な悪あがきはよせ」
エラアの声がする。それはとても冷たく、重く。
……まだだ。僕はウヨネをもう一度コピーしてウヨネと戦わせることにした。
相打ちになればコアは守れる。
僕はコピーしたウヨネに戦う理由をつけ足した。
【ウヨネは悪の元凶で倒せば世界は#・$%&?*】
え? 入力している途中で文字がバグってしまう。文字が書けないっ!?
まさか?
エラアは僕に不気味な笑みを見せていた。
僕は何もできずキーボードから手を離した。そして、その戦いの行く末をただ見ているしかなかった。
勇者は再び魔法を使った剣技をやった。その剣を振り上げて空を切る。氷と炎と稲妻の混ざったすさまじい竜巻がウヨネを目掛けて飛んで行く。
ウヨネはそれに向かって拳を出して突っ込んで行った。
ウヨネの体は切り刻まれていく。勇者はウヨネが目の前に来ると再び剣を振り下ろした。
ウヨネの拳が剣に当たり剣が砕かれる。その勢いで勇者を殴りながらコアまで突っ込んで行った。コアを守る壁が破壊されて、コア自体を勇者もろとも貫いた。
ビビビーー!! と物凄い音がするとコアは破壊された。コアの凄まじい破裂が巻き起こり画面の映像は乱れ歪んでいる。
そこで画面は真っ暗になり音も何も聞こえなくなった。
……え? どうなった?
しばらく待っても何も出てこない。
カチャカチャと適当にキーボードを叩いても反応がない。
僕は真っ暗な画面を見ながら考えてみた。
最初は普通にゲームをプレイをしていた。そしてあるときから僕の存在をキャラたちが感じるようになった。
そこから何かが狂い始めた。キャラたちはこの世界が作られていると思って違和感を探し回る。
それは僕の手の届かない場所。それ以上作れない場所に行ったり、小さな変化に気づいたり。
特にウヨネの言動は最初から僕がいる事を知っていたみたいな考え方だった。
僕は自分がその世界を作っていることがバレないようにした。できる限り違和感なく世界を作っていった。でも、その時点ですでに遅かったのだ。
僕はキャラを作った時点で僕の存在はバレている。
キャラたちが『なぜ私はここにいるのか』という疑問を持ってしまうから。
だから、キャラを作らなければ僕の存在はバレなかった。そこにキャラがいないから。
終盤になりエラアが突然現れた。僕が作ったものじゃない。現時点で考えられることはゲーム側が用意したイベント。
たぶんそのイベントは本当のラスボス戦だったのかもしれない。
ある程度物語を進ませるとエラアが出てくるようにしてある。どんな物語になったとしても。
僕の物語の進め方次第でウヨネたちはエラアと戦うように仕向けることができたのかもしれない。
作ったコピーキャラを戦わせてみたが、何も通用しなかった。
エラアには最初に作ったオリジナルキャラを戦わせなければならなかったのかもしれない。
今さら遅いが……。
そうなると、僕が適当にキャラを作って放置しておいてもエラアは出てくることになる。エラアはこの世界を破壊すると言っていた。それはすべての終わりを意味しているのだとすると、ゲーム自体の崩壊。
つまりゲームオーバーを意味することになる。
もしかしたら何かのきっかけがあったのかもしれない。エラアのイベントを起こすために何かのフラグがあったはず。
……うーん。ある程度時間が経つと出現するとかキャラの起こす行動とか……何かあるはずだ。
僕は真っ暗になった画面を見ながらマウスを動かしてみた。するとメニューとポインターが現れた。早速マウスでメニュー欄にある項目を確認していった。
メニューには大地、町、人物などのさまざまな文字が一覧されている。
文字の上にポインターを持っていってもどれも反応しない。
仕方なくポインターをメニュー欄の下のほうへスクロールさせていく。すると忘れていた文字があった。
【キャラたちの会話】という文字が表示されている。
そうだ、これで調べられる。
僕はそこが開くか試してみた。ポインターにその文字が反応している。
僕はそれを開き調べた。
「ん? なんだ、ここはどこだ」
「……わたし、は? なにこれ」
などのキャラたちの今までの会話が途切れなくずっと繋がっている。
僕は下にスクロールしていった。
「どういうことだ? この世界が変て」
「周りをよく見てみてよ。森しかない」
「そうだが、それがどうした?」
「気づかない? ここが作られた世界だってことが」
ここのウヨネの言動でほかのキャラたちは僕の存在を疑い始めるんだ。
僕はエラアが現れる前のところまで進めていった。
「なんだ?」
「色が……」
「紫色に染まっている」
「何が起きてるんだ?」
「ふん、ただ空が紫になっただけだろ」
「ん?」
「ない」
「あ? ない?」
「ガラス玉がない」
「ガラス玉? ああ、バグ野郎を倒したときに拾った物か」
「あれじゃない?」
「割れたか、仕方ない」
「何か聴こえる」
このあとエラアが現れたんだ。
変わった現象が起きたのは空が紫色に染まっていること、それ以前に起きた現象は……ガラス玉が割れていることだ。
ガラス玉。オソロシイというバグキャラを作ってそいつが落とした物だ。
オソロシイを倒せばガラス玉を落とすと設定していない。
なぜ出現したんだ?
そのガラス玉が割れてエラアが出てきた。そうなるとガラス玉がきっかけになる。僕が何かボスキャラ的なものを作りそいつを主人公たちに倒させてやると、ガラス玉が自動的に出現するようにゲーム側で設定していると考えられる。
そうであったとしてもガラス玉を割らなければいいわけで。
魔女はワナイとダロウの弱みを握っていたから、その場を去ろうとした魔女にワナイたちは攻撃を仕掛けないはずはない。
結果的にガラス玉は割られたわけだ。
じゃあ、キャラを作らなかったらガラス玉は出現せずにエラアも現れないことになるのか?
でも【タイピングで物語を作ってクリア】とディスクに書かれているから、キャラを作って物語をさせるしかないわけだ。
僕は最初からそう作るように誘導されていたんだ。いちゲームプレイヤーとしてならどんなゲームもクリアしたいという願望がある。
僕はそこにつけ込まれた。
はあ……と僕は深いため息を吐いた。
エンターキーをカチャカチャと押してみるけど反応がない。
相変わらず真っ暗な画面のまま止まっている。
仕方なく僕はパソコンの電源を消そうと手を伸ばした。するとスピーカーから物悲しい曲が聞こえてきた。
僕は画面を見た。そこに映っていたのは青い空に草原のある風景。丘には剣が突き刺さっている。そこにスタッフロールが流れてきた。友人の名前も流れている。
ゲームクリア?
僕はそのエンドロールをただただ眺めていた。
ENDの文字が最後に映し出される。
終わった……。
これで終わり?
何だか中途半端なように感じる。いや、僕の作った物語はこれなのだろう。
正解のない物語。
一息ついて、僕は疲れた体をほぐすため椅子から立ち上がった。
それから友人に電話を掛けた。
外はいつの間にか夜になっていて、部屋にはパソコン画面の明かりだけがついている。
友人が電話に出ると僕はゲームをクリアしたことを告げた。
それからゲームの感想や思ったことを素直に言った。友人はどんなことを言っても嬉しそうに対応してくれた。とても参考になったと友人は言って電話を切った。
そのときゲームの裏設定やクリア条件なども同時に聞いてみたけど、極秘事項だということで断られた。たぶん情報もれを防ぐためだろう。
ゲームの発売前にそんな情報がもれたら発売を延期せざるおえなくなる。
そういえば、友人は僕の質問に対して奇妙なことを言っていた。それは……。
「え? エラア? いや、そんなキャラはうちでは作ってないよ。プレイヤーには自由に物語を作って自由に遊んでもらうのをテーマにしているから、プレイヤーが作ったキャラ以外は存在しない設定になっているんだよ」
え? じゃああれは……?
ビビビッとスピーカーからノイズが走る。
僕はゆっくり振り返りパソコン画面を確認した。そこに映っていたのは……。
『私はエラア。この世界を破壊しに来た』
その画面に映る少女の顔は不気味な笑みを浮かべながら消えた。
それと同時にパソコンの電源が消えた。
途端に部屋が真っ暗になる。僕は部屋の電気をつけた。
「あれ?」
電気のスイッチを押しても反応がない。接触不良かと思い何回か押してみたが明かりはつかなかった。
僕は不安に思い、もう一度友人に電話を掛けようとスマホに手を伸ばした。
「え?」
画面がバグッている。壁紙は歪んでいて文字化けしたものが画面全体に映っていた。
指で画面をタッチしても反応がない。
ふと、窓の外を確認すると妙な胸騒ぎを覚えた。
僕は窓を開けて外の様子を見てみた。
……町に明かりがない。
停電しているみたいにすべての明かりが消えている。
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