第55話 諦念
君知るや慟哭の果て
長い涙の河をつくり
枯れ果てて土にかえり
砂となって舞うときの
あの甘美な諦念を・・・
彼が気が付くと、またあの「白い部屋」にいた・・・
「また、自業自得だな・・・」
彼は手首の包帯を見てそう思っていた。
「私は彼女の優しさを踏み台にして、自分を救済しようとした」
「そして失敗した、これは自業自得なので仕方がない」
「ただもし、今回のことで彼女がこころに傷を負ってしまっていたら・・・」
「しかしもう、会って謝罪することは出来ない」
「今の私に出来ることは市井に隠れて、彼女が私のことを忘れて幸福になることを、陰で祈るだけだ・・・」
その日から、彼は考えることを止めた。
自分から積極的に行動を起こすことも止めた。
ただ、日々の日常を惰性で生きていくことに決めた。
そして、彼は全てを諦めた。
人を愛することを
人とこころとこころでふれあうことを
自分の力で人生を生き抜くことを
自分の手で死を選ぶことも・・・
彼が唯一自分から行うことは、彼女への謝罪と償いをこころの中で行うことだけであった。
過去の楽しかった思い出だけを糧に、ただ流されるままに生きていくことにした・・・
「あの人との思い出だけがあれば、もう何もいらない・・・」
「彼女へは一生、こころの中で謝罪して償い続けなければいけない・・・」
「
「
「白い部屋」のベッドの上で彼はこの言葉を何度も何度も繰り返していた・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます