47. インベーダーズの戦力
第二陣のデビューは十二月下旬に決まった。なかなか急な話だが、配信環境に関しては万事ぬかりなく準備は進んでいるそうだ。静奈の配信用PCなんかもインベーダーズで手配してくれていたらしく、すでに搬入済み。
最近の静奈は嬉々として、配信設定周りをいじって色々と試しているようだ。聞かれれば教えてやるんだが、何も言ってこないので好きにやらせている。おそらく、自分で試すのが楽しいんだろう。
さて、今日は第一陣と九鬼君、そして静奈で事務所に集まっている。
コラボ配信というわけでもなく、ただの顔合わせだ。バーチャル空間での付き合いなので、本来ならば顔合わせする必要はない。とはいえ、九鬼君と静奈はインベーダーズでは珍しい地球人枠。日本文化と異世界文化の食い違いが起きたり、事務所外での活動が必要だったりするときには所属タレントのフォローして貰うこともあるはず。そんなわけで、ボイスチャットではなく、一応対面で話をしておこうということになったのだ。
基本的に高校生である二人と夜型のミュゼさんは活動時間が合わないので、オフで合うのが難しい。だが、最近では日の入りが早くなってきたので、ミュゼさんの活動時間も伸びてきている。今の時刻は午後6時近く。高校生を付き合わせるには少し遅い時間だが、九鬼君の親には承諾を得ているので問題は無い。
「こっちが妹の静奈です」
「柿崎静奈です。兄がお世話になっています。第二陣としてデビューすることになりましたので、後輩としてよろしくお願いします」
紹介すると、静奈が頭を下げて挨拶を始めた。意外としっかりしている。こういう対外的な態度を見ることってほとんどなかったから、結構新鮮だ。
「アタシはミュゼ。ヴァンパイアだ!」
「ええと……シャオです」
「私はリーラ・カーナだ。よろしく」
シャオさんが少し人見知り気味だが、まあそれはそのうちに慣れるだろう。続いて、九鬼君の紹介をしようとしたところで、静奈が声を上げた。
「わぁ、すごい! 三人ともに弾かれました!」
「ん? 何かしたのか?」
「ええと……読心能力ですね」
「精神抵抗を強化してギリギリか。末恐ろしいな」
何の話かと思えば、どうやら静奈が読心能力を使ったらしい。だが、『弾かれた』というからには、この三人には通じなかったようだ。
「お前……誰彼構わず能力を使うなよ」
「もちろん、滅多なことでは使わないよ。今回は自己紹介だから使ったの」
注意すると、静奈は口を尖らせて抗議してくる。
いやいや、発想がおかしい。読心能力について明かすにしろ、口で説明すればいいだけのことだ。
そう思ったのだが……実は山本社長からの指示らしい。三人なら読心能力を無効化できるだろうから試してみるといいと言われていたそうだ。
「ははは! ヴァンパイアにはそんな小細工、通用しないぞ!」
「私も悪魔なので……。悪魔は精神攻撃には強いんです」
「私は人類平均と比較すれば精神抵抗は高い方だと思うが、それでも補助魔法で強化してギリギリだな」
というのが三人の言葉だ。人外であるミュゼさんとシャオさんは精神攻撃への耐性が飛び抜けて高く、静奈でもどうにもならないレベルだそうだ。
一方で、異世界人とはいえ同じ人類であるリーラさんはそこまでではない。魔法の力を借りてどうにかと言ったところらしい。
まあなんにせよ、彼女たち三人は読心能力を持つ静奈に含むことはなさそうだ。インベーダーズならではって感じだな。
気を取り直して、今度こそ九鬼君の紹介だ。
「こっちが九鬼君です。VTuberとしては聖刃ヒイロとして活躍していますね。……九鬼君?」
「……え? あ、ああ。あの九鬼
話を振っても、九鬼君の反応がない。ちらりと視線を向けると、彼はミュゼさんを凝視していた。声をかけると再起動したように挨拶をするが、その目はミュゼさんから離れない。
一目惚れ……ってことではないだろう。どちらかというと警戒している気配がする。なんとなくだが。
「……あの、お兄さん?」
「お兄さんはやめてくれ。むずむずする。それでどうした?」
九鬼君がこそこそと話しかけてくる。
「あの人、社長並に強そうなんですけど……」
あの人、というのはもちろんミュゼさんのことだろう。
ミュゼさんはヴァンパイアだ。身体能力は人間を軽く上回る。当然、戦闘能力も高いだろうとは思っていた。しかし、社長並み……?
「……社長って元魔王なんじゃないの?」
「はい。俺が転移していた世界で、間違いなく最強の存在でした」
なんということでしょう。
ミュゼさんが、魔王と同格だったとは。魔王級戦力が二人もいるVTuber事務所って一体、なんなの。
でも、そのミュゼさんも700年間くらい封印されていたって話なんだよな。ってことは、当時は魔王級戦力に抵抗できる人間がいたということだ。俺が知らなかっただけで、地球もがっつりとファンタジーなんだなぁ。
半ば放心状態で世界の広さに思いを巡らせていると、当のミュゼさんが近づいてきた。彼女はご機嫌な様子で九鬼君の肩をばしばしと叩く。
「あんたが九鬼か。聞いてるぞ! 社長をボコボコにしたってな! やるじゃないか!」
……そうだった!
九鬼君も異世界帰りの勇者なのだ。勇者の能力がどうなったのか聞いていなかったが、ミュゼさんの強さを見抜いたところを見ると、能力は失われていないのでは……?
ということは、インベーダーズは魔王級戦力を三人も抱えていることになる。彼等の戦闘能力が現代兵器に対抗できるものなのかはわからないが、下手したら三人だけでこの国を武力制圧できてしまうんではないだろうか。
インベーダーズ……なかなかやばい集団だと思ってはいたが、想像以上にやばかった!
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