46. 第二陣メンバー

「さて、兄妹の会話はその辺りにしてもらおうか。そろそろ話を進めよう」

「すみません……」


 静奈の深謀遠慮に恐れおののいていると、社長から軽い注意を受けてしまった。もっともな言い分であったので、素直に頭を下げる。


 予想外のことに思わず問いただしてしまったが、今は顔合わせのミーティング中だ。静奈以外の新メンバーもいるのに、無駄に時間を使わせるわけにはいかない。この件については自宅で話し合えばいいだろう。もっとも、ほとんど決着はついている状態だが……。


「柿崎君は彼女たちと面識はあると聞いているが?」

「ええ。何度か話したことがあります」


 静奈以外の三人も何度か旧事務所で会ったことがある。今思えば、デビュー前のモデル調整か何かで来所していたのかもしれないな。


「そうか。まあ、改めて紹介しておこう。VTuberとしてのプロフィールもあるからな」


 そう言って、山本社長がタレントの紹介を始める。


 まずは一人目。


「セイレーンのリーンドロッテ君だ」

「よろしくね! 前にも言ったけど、ロッテと呼んでよ」


 セイレーンというと、ゲームや小説では半鳥タイプと人魚タイプの二種類がいるが、ロッテさんは前者のタイプだ。


 やや緑がかった金髪を長く伸ばしている。見た目の印象は清楚というか大人しめの印象だが、快活な性格でかなり気安い感じだ。一番の特徴は背中から翼が生えていることだろう。長いスカートを履いていることが多いので見たことはないが、下半身は鳥のようになっているらしい。


 VTuberとしてのモデルも、ロッテさんの容姿をベースにしていることがわかる程度には似ている。衣装は白いゴスロリ服になっているので印象は結構違うが。VTuberとしての名前は姫歌ひめうたロッテ。魔界の歌姫という設定だ。


 そして、二人目の女性。


「彼女は、霧香君。見ての通りゴーストだ」

「ゴーストというか浮遊霊なんだけど、似たようなものなのかしらね。まあ、よろしく」


 霧香さんは日本出身の浮遊霊。わりと長いこと漂っているそうだ。容姿は黒髪の和装美人という感じ。幽霊なのに悲壮感はまるでない。特技はパントマイムらしい。今も、座れもしない椅子に、座っているように見せかけている。


 VTuberとしての見た目は大きく変わっている。褐色肌の踊り子だ。踊りによって祖先の霊を下ろすシャーマンという設定らしい。名前はキリカ・アンセスター。


「あれ? 本人の種族を反映させるという方針だったのでは?」

「まあ、基本的にはそうなんだが、本人の希望があればそちらを優先する」


 ということは、この容姿や設定は霧香さんの要望なのか。


「大した違いはないわ。下ろす側か下ろされる側かって話でしょ。踊りだって得意だし、平気よ」


 視線を向けると、霧香さんはくすりと笑ってそう言った。

 下ろす側と下ろされる側の違いって、つまり正反対の立場ってことなのでは?

 それに、霧香さんが得意な踊りは日本舞踊とか、そういうイメージだ。シャーマンダンスとはまた別物だよなぁ。いや、盆踊りは近い……のか?


 まあ、本人も社長も問題がないというのなら、それでいいのだろう。


「彼はパック君。ピクシーだ」

「やあ、よろしく~」


 三人目は第二陣で唯一の男性。つまり、第二陣も女性三人に男性一人の組み合わせになる。とはいえ、パック君が炎上することはおそらくないだろう。

 彼のVTuberとしての容姿は可愛らしい男の子。本人の声が甲高いこともあって、下手したら女性と勘違いされる可能性もある。一応、タキシードを来た演奏家という設定なのだが……おそらく、最初はショタキャラというインパクトしか残らないのではないだろうか。VTuberとしての名前は風音かざねパックだ。


 ちなみに、ピクシーとは妖精のこと。パック君も体長は20cmくらいしかない。背中にはキリギリスのような羽が生えていて、それを震わせることで音を奏でることができるんだとか。演奏家設定なのもそれが理由だろう。


「そして、最後の一人が柿崎静奈君だ。説明は不要だろうが、ここにいる晴彦君の妹にあたる」


 山本社長の後半の言葉は、新メンバーの三人に向けられたものだ。さっきのやり取りを聞いても驚いていなかったので、元々知っていたのだろう。今も、頷くだけで特に大きな反応はない。


 静奈は百鬼シズクという名前でデビューするらしい。百鬼ナイトウォークの妹という設定だ。バーチャルでも兄妹なので、変に混乱せずに済むのはありがたい。名前が似ているのも、うっかり言い間違えたときの配慮だろう。


 第二陣のコンセプトはアーティスト集団という話だったが、百鬼シズクの役割はマネジャーらしい。ちょっと納得である。俺もそうだが、静奈にも芸術的な才能はないからな。それに、マネージャーなら配信中に通話をかけてきてもおかしくはない。俺と同じように、第二陣メンバーの行動を注意できる立場ということだろう。


 静奈のインベーダーズ所属には思うところはあったが……俺の負担が減るのなら悪いことではないかもしれないな。まあ、静奈には学校もあるから、主な対応は俺がやることになるとは思うが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る