21. レースの行方

 『マリオンの爆走トロッコ8』では各レースの順位ごとにポイントがもらえる。早くゴールした順に高ポイントだ。全レース終了後のポイント累計で最終的な順位が決まるシステムである。まずはお試しで、比較的簡単な四コースを走り、順位を競う。


 謎のモグラが頭に掲げる信号がスタートの合図だ。


「よし、やったぞ!」


 リーラさんが操るトロッコが爆速でスタートダッシュを決めた。これは、スタート前のカウントダウン時に、特定のタイミングでアクセルを踏み始めると一気に加速できるというテクニックだ。タイミングを失敗するとスリップして時間のロスになるのだが、見事に決めてきた。


 続く、二番手には俺。ほとんど変わらずシャオさんが続く。ミュゼさんはというと――


「ん? なんだ、逆に走ってるぞ?」


 ボタンを押し間違えて逆走しているようだ。


「ミュゼ君、ボタンを間違っているぞ。そっちはブレーキだ。アクセルを踏まないと」

「あ、そうだったか。こっちだな!」


 さすがに初っ端から戦線離脱するのはまずい。ミスを指摘すると、ミュゼさんはどうにか前進することができたようだ。


 ちなみに、ブレーキを踏むと言ったが、トロッコなのでフットブレーキがあるかどうかは不明だ。ゲームグラフィックでは、トロッコからキャラが顔を出しているだけなのでどうやって操作しているのかわからない。アクセル・ブレーキはともかく、ハンドル操作はどう見てもやっているようには見えないのだが……深く考えてはいけない。マリオンたちが乗っているのは不思議なトロッコなのだ。


 レースはというと、俺のトロッコはシャオさんに抜かれてしまった。ミュゼさんにボタン操作を教えるときにほんの少し画面から目を離したんだが、その隙を上手くつかれた形だ。結局、そのレースはそのまま逆転も起こらずに終了。リーラさん、シャオさん、俺、ミュゼさんという順位となった。


「あ、このコースは知ってます! ショートカットの位置までばっちり把握してますよ!」


 次のコースは過去作のコースをリメイクしたもの。ショートカットの場所やアイテムの配置などは基本的に過去作準拠だ。おそらく、シャオさんも昔の攻略本か何かからコース情報を取得したのだろう。ふすんと鼻息を漏らして、気合いを入れている。


「ふはは! 完全にタイミングをものにしたぞ!」

「ふえぇ~……、失敗しました~!」


 第一試合と同じく華麗にスタートダッシュを決めるリーラさん。一方、シャオさんも果敢に挑戦したようだが、タイミングを誤りスリップしている。俺は無難にスタートして現在二位。ミュゼさんは一瞬だけ三位だったものの、壁にぶつかってモタモタしている間にシャオさんに抜かれて、定位置の四位へと落ち着いた。


「……ここです! ここで加速アイテムを使って、大ジャンプ!」

「なにぃ!?」

「やった! やりましたよ! わぁ!?」


 コース中盤のショートカットポイントでシャオさんが仕掛けた。加速アイテムを使った大ジャンプで亀裂を飛び越えて大幅なショートカットを決めたのだ。これにより、リーラさんを追い越し一気に一位となる。しかし、そのあとの操作を失敗して崖から転落。コース復帰のためのタイムロスでリーラさんには抜き返されてしまう。


 とはいえ、俺は追いつくことはできなかったので、シャオさんの順位は現在二位。その後もシャオさんはショートカットを試みるも、以前本人が言っていたように知識があってもゲームテクニックがあるわけではないので、成功したり失敗したりで安定しない。結局、リーラさんを抜けず、さきほどのレースと同じ順位で決着がついた。


 その後の二レースも展開はほぼ同じ。一度だけ、俺が二位、シャオさんが三位となったくらいか。


 お試しの四レースが終了した時点で、四人の実力差がはっきりとした。一位は断トツでリーラさん。この中で唯一の異世界出身者だが、持ち前の研究熱心さで事前にこのゲームについても研究していたようだ。俺とシャオさんの実力はわりと拮抗している。が、特定コースに関してはショートカット知識を生かせる分シャオさんが強い。断トツの最下位がミュゼさんだ。終始四位のミュゼさんは良アイテムを引いているのだが、それを生かせずに終わっている。というか、アイテムで逆転できないほど差がついているんだよな。


「ええと、どうします? これ、続けます?」


 正直、ここまで実力差が大きいとは思わなかった。パーティーゲームなんだし、ある程度順位に変動があると思ったんだが、ほぼ順位が固定されてしまっている。これ、視聴者の人たち、見てて楽しいんだろうか?


「そうだな、COMコンピュータ操作を入れるか。そうすればもう少し順位変動が起こるだろう」

「そうですね……いや、そうだな。シャオ君もミュゼ君もそれでいいかな?」

「はい、構いませんよ」

「いいぞ! 次こそはアタシが勝つからな!」


 誰からも異論がなかったので、リーラさんの提案に従いCOMを含めた一二キャラでのレースと変更。コースはランダムでレース数は一〇くらいにしておこう。できれば、見所ができればいいんだが。




「うぅ~……もう少しというところで届きませんでした……」

「いや、冷や冷やしたぞ。これはもう少し研究が必要だな」


 結果として、見所はあった。操作が苦手だといっていたシャオさんが、レース中にみるみる上達していったのだ。ショートカットがうまく成功したときには、リーラさんを降して一位になることもあった。最終的にはリーラさんが逃げ切ったが、あと数レース続いていたら結果はどうなっていたかわからない。なかなか熱い展開だったな。


 俺の最終順位は五位。そして、終始最後尾を走っていたミュゼさんは断トツの最下位だった。やっぱり、そうなるよなぁ。


 果たして、劇物扱いのカップ焼きそばなんて食べさせていいものだろうか。


 俺の心配を余所にミュゼさんは何故か余裕の表情だ。辛いものが得意なタイプなのか? カロリーバディしか食べない彼女が辛いものを食べているところが想像できないんだが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る