18. シャオさんの方針

 問題点の報告などを済ませて、社長室をあとにする。この後の予定はシャオさんとの面談だ。昨日の配信の反省会といえばいいだろうか。配信がうまくできなかったことに、シャオさんが落ち込んでしまったので、そのフォローも必要だからな。


 面談場所はいつもの部屋だ。中に入ると、すでにシャオさんが待っていた。彼女は俺の姿を見るなり、椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。何か言いたいことがあるのか、口を開くがうまく言葉にならないようだ。その代わりのように目元にじんわると涙が浮かぶ。これは相当自分を責めているようだ。


 正直、そこまで気にするようなことでもないんだけどな。予定していた内容を消化しきれなかったとはいえ、終了予定時間にはきっちりと締めたからスケジュール的な遅延もない。むしろ、ミュゼさんの放送事故の方がやらかし度は断然上だ。そのミュゼさんがまるで気にしていないのだから、もっと気軽な感じでやればいいと思うのだが……こればっかりは本人の性格か。


「お疲れ様です、シャオさん。まあ、座ってください。さっそく、反省会を始めますか」


 笑顔を浮かべて着席を促す。まずは、俺……というか事務所が昨日の配信をどう思っているのかを率直に伝えた方がいいだろう。


「多少トラブルはありましたが、デビュー配信は成功でしたね。社長も上機嫌でしたよ」

「……え?」


 予想していた評価と大きく食い違ったせいか、シャオさんは口を開けたまま驚いた顔をしている。


「チャンネル登録者も増えましたね。シャオさんも登録者数は八万人を越えています。ネットでの評判も悪くないみたいですから、十万人の壁は比較的早く突破できそうですね」


 とにかく、デビュー配信は成功だったという認識をシャオさんにも持ってもらう必要がある。反省点はもちろんあるが、致命的なものは特にない。


「……でも、私、うまくできませんでしたよ? 最初の挨拶も噛んじゃいましたし」

「うーん、シャオさんには悪いですけど、それがシャオさんの魅力ですからね」

「ええええ!? ど、どういうことです?」


 大人の魅力を目指しているシャオさんにとっては意外な言葉だったのだろう。いつになく大きな声を上げて驚いている。


「残念ながらシャオさんに大人の魅力はありません」

「……うぅ、はっきり言わなくても」

「ですが、大人ぶった行動をとろうとして失敗するドジッ子としての魅力があります」

「ドジっ子……」


 シャオさんのVTuberとしての魅力を力説するも、なぜか彼女は浮かない顔をしている。しかし、その魅力が視聴者からの高評価に繋がったことを説明すると、渋々ながら現実を受け入れたようだ。


「納得はいきませんけど、わかりました。それでも、私は大人魅力を諦めませんけどね!」


 不服はあるようだが、それがかえってシャオさんのやる気に火をつけたようだ。さきほどまでの落ち込みようとは一転して、やる気に満ちている。


 うん、是非諦めずにがんばって欲しい。その頑張りが次のドジを呼ぶに違いないのだから。


「ついでですから、次回以降の配信の方針についても考えてみましょうか」

「はい……」


 シャオさんは本に憑いた悪魔。それだけに書物に対する思い入れは強い。また、種族特性として、読んだことがない本からでも知識を引き出せるそうだ。大悪魔ともなれば、世界中に存在する、または存在した、ありとあらゆる書物の知識を引き出せるらしい。シャオさんは小悪魔だから、そこまでじゃないそうだけど、俺なんかよりはよほど博識だ。


「地球の直径は?」

「一二七四二㎞ですね」

「数の単位で『京』の次とその次は?」

「次が『がい』です。その次は『𥝱じょ』ですね」

「いとこのいとこは?」

「ええと……まず、可能性があるのは自分か自分の兄弟ですね。同じく、いとこという可能性も。そうでない場合は……何か特別な呼び方ありましたっけ?」


 試しにということで適当な問題を出してみたら、すぐに答えが返ってきた。正直、俺は答えなんて知らないのだが、淀みない解答だったのできっと正解だろう。これはすごい。クイズ企画なんかあったら最強だろうな。機会があったら、コラボでやってみてもいいかもな。


「雑学のショート動画なんて出してみたらいいかもしれないですね」

「本当ですか? やってみます!」


 ショート動画は認知度アップにつながりやすいと聞いたことがある。聞きかじりの知識なので効果のほどは不明だが、やらないよりはいいだろう。


「あとは……そうですね、ゲーム配信をやるVTuberは多いですけど……」

「うぅ……私、細かい操作とか無理です~……」


 まあ、そんな感じがするな。流行りなのはFPSだが、さすがに手を出すのは難しいか。アクション系も下手なら下手なりに見所があって視聴者には受けるものだが。シャオさん、あんまりゲームの経験自体がなさそうだしな。変に苦手意識を持たれると困るし、最初は無難なところがいいかな。


「シャオさんはゲームの攻略本って知ってます?」

「え、はい。知ってますよ」

「その知識は引き出せますか?」

「はい、たぶん……」

「だったら、リスナーからおすすめのレトロゲームを募って、それを攻略本の知識を活かしてクリアしてみるってのはどうですか?」

「えぇ? 知識があるのと、クリアできるかどうかは別ですよ~」

「あ、やるのはコマンド式のRPGにしましょう。細かい操作は必要ないので、落ち着いてプレイできますよ」


 初見っぽい女の子が隠し要素なんかまで把握して攻略するとなると話題になる……かもしれない。事前に知識を仕込んだと思われる可能性もあるが、それでもライブ配信で迷いなくそれを引き出せるならそれだけでも凄いと思わせることができる。


 キャラ設定もアピールできるしな。本の知識があるから、初見でもわかるんですって。いや、設定も何もただの事実なんだが。

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