第27話 看破の能力
「これで人払いは済みました。あの2人が見張ってくれれば、今この部屋を監視、もしくは盗聴出来る者など居ないでしょう」
「か、監視?盗聴?」
護衛の2人が部屋から出ていくと、無表情のままの王女殿下は僕の方を見てきて、何やら物騒な事を言い出した。そして小さくため息を吐き出すと、ブツブツと小声で何かを呟いてから、本題に入った。
「(平民のあなたでも疑問を覚える話なのに、やはりお父様達は・・・)今回あなたに同行する理由を話す前に、先ずは
「能力・・・ですか?」
「
「か、看破!?」
王女殿下のその言葉に、僕は心臓が掴まれた様な気分だった。勇者候補生としてこの王都に来るまで、僕は身体強化しか使っておらず、雷魔法は一切使用していない。その大きな理由としては、威力の高すぎる雷魔法を魔族との戦争に使われたくないというものだ。
力を見出だされたからには国の為、人族のために使わなければならないといっても、出来れば人殺しはしたくない。それに、勇者になるつもりもなかったので、雷魔法についてはひた隠しにしてきたのだ。
「そう構えないで・・・といっても難しいでしょうね。何せあなたのその秘めた力は、伝説に語られている雷魔法なのだから。それも、相当な威力を秘めた・・・」
「っ!!!」
その言葉に僕は大きく目を見開き、身構えるようにして王女殿下を見据えた。そんな僕の様子に、殿下は少し口許を緩めた。
「どうやら、隠し事は出来ないようね。何か相手に知られたくない事があるなら、多少の顔芸は出来るようになった方が良いわ。出来ないなら、
「っ!?王女殿下のように?」
何か含みを持った殿下の言い回しに、疑問を投げ掛けた。
「ええ。
「せ、聖魔法を!?それは素晴らしいことですが、隠しているはずのその話を、私に言っても良いのですか?」
先程から、王女殿下の秘密に関わることについてかなり聞いてしまっているが、今更ながらその違和感に疑問の声をあげた。
「信頼関係を築くには、自らの秘めたる情報を開示することが近道でしょう?」
暗く笑う王女殿下に、僕の背筋から嫌な汗が流れる。確かに自分の事についての情報を教える事で、相手から信頼を得られるという理屈は分かる。得体の知れない相手よりも、良く知った間柄の相手であれば、抱く印象も変わるだろう。
ただそれは、自分と同じ身分の間に限った話に思える。自分よりも身分が上の相手の秘密を知らされたということは、その秘密を僕も守らなければならない。それが王族の秘密だとすれば・・・
「王族の秘密を知った僕に、拒否権は認められないと?」
「ええ、理解が早くて助かるわ。そして、
「・・・秘密に、してくれるのですか?」
意外な王女殿下の言葉に、僕は驚きの声を上げた。正直に言って、雷魔法を上手く活用することが出来れば、不利な戦況もひっくり返せる可能性を僕自身感じているからだ。当時13歳で、難度8のグリフォンフォンを、たった2人で数十匹討伐することが出来たのが良い証明だろう。それを国に対しても秘密にしてくれるという、王女殿下の目的というのが気になった。
「あなたが本当に勇者を目指すなら、この能力について必ず言及したはず。しかし、報告書には魔法は使用できないという記載だった。そこから考えられる理由は、あなたは勇者にはなりたくない。もしくは、戦争に雷魔法を使わせたくない、といったところかしら?」
「・・・さすが王女殿下です」
まるで僕の心情を見透かすような殿下の指摘に、ただただ認めるしか無かった。僕ではこの方には敵わないと。
「そうそう、目的について今は話せないわ。
「さ、最大の禁忌?」
「もしもの時は雷魔法を躊躇わず使うのよ。同行した王女を死なせたとなれば、一族郎党処刑になるかもしれないのだからね」
「えぇ・・・」
殿下の言葉に、つい素の自分の声が溢れてしまった。ただ、殿下も相応のことを話している自覚があるのだろう、僕の態度について何も言うことはなかった。
王女殿下との話も終わり、外を見張っていた護衛の2人も部屋に戻ってきた。相変わらずカーリーさんからの視線は鋭いが、殿下の命令に従っているのだろう、何も言ってくることはなかった。
そうして王城をあとにして宿屋に戻ると、テーブルの上には勇者候補として支給される神殿騎士様の制服が数着畳まれて用意されていた。その上には、陛下が仰った仮面が置かれており、それは顔の全面を覆う構造になっている。純白を基調として、水色の精緻な模様がデザインされており、装着すれば誰か全くわからなくなるものだった。
支給品を確認し、明日の準備の為に村から持ってきた装備品の点検などを行い、早めに宿屋の食堂で夕食を食べると、そのまま眠りについたのだった。
翌日早朝ーーー
王女殿下を待たせるわけにもいかず、僕はまだ辺りが暗い内から城門へと赴いていた。一応いつでも付けられるように、手には支給された仮面を持ち、支給された神殿騎士様の制服に身を包み、背中には大きめのリュックを背負っている。中身は大半が着替えで、せっかく王都に来てもどこにも出掛けられなかったこともあり、私物などほとんど増えていなかった。
日が昇り出した頃、王城の方から大きな3台の魔導車がこちらに向かってきているのが見えた。そして僕の目の前で停車すると、3台目の車から一人の女性近衛騎士様が降り、真ん中の魔導車のドアを開いた。広々とした車内には、相変わらずの無表情を浮かべる王女殿下の姿があった。
「おはよう。さすがに
「お、おはようございます。あの、私はどちらに乗ったらよろしいのでしょうか?」
殿下の言葉に、僕は一番心配していることを確認する。近衛騎士の方は王女殿下の乗っている魔導車のドアを開いているが、さすがに平民の僕が同乗するようなことはないだろうと思っての質問だったのだが、残念ながら希望は打ち砕かれる。
「何を言っているの?早くこちらに乗りなさい。あなたには移動中に聞いておきたいこともあるのだから」
殿下は自分の正面の席に視線を向けながら、当然とでもいうように僕にそう言ってきた。その言葉に固まる僕をよそに、近衛騎士の方が僕の荷物を手早く別の魔導車に積み込み、次いで腰に装備している短剣を外されると、それを恭しい態度で王女殿下に手渡していた。
その間、呆気にとられて呆然としている僕の背中を近衛騎士の方に突つかれ、僕はようやく動き出した。
「・・・あっ、し、失礼致します」
殿下の正面ではなく、その横にズレて座ると仮面を膝の上に置いた。すると魔導車のドアが閉められ、少しして出発した。
(王女殿下と2人って・・・いったい何を聞かれるんだ?)
豪華な装飾が施された魔導車内は、運転席との間に仕切りがあり、完全に2人だけの空間になっている。本来は感動するような柔らかなクッションが使われた座席を堪能する余裕もなく、僕はこちらを見つめてくる王女殿下からの視線を逸らせないでいたのだった。
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