第25話 謁見と勅命
王都へと到着し、大神官様から直々に洗礼を受けてから10日後。どうやら僕の勇者候補生としての議会の承認が済み、国王陛下からお言葉を頂くための謁見の日取りが決まった。
この10日間、僕は教会が用意してくれた宿屋に籠りっきりだった。議会の承認に少し時間が掛かると聞いて、本当なら王都を見て回りたいとも思っていたのだが、僕の身体強化方法について聞きたいと、連日聞き取りのために教会の研究機関の人達と神殿騎士様が宿に押し掛け、一歩も外出することが出来なかったのだ。
予め村の方で聞き取りはしていたらしく、僕にはより具体的な説明と実践を求めてきた。実際に魔力を浸透させて見せると、驚きの声と共に矢継ぎ早に質問を繰り返され、そのあまりの必死さに怖くなってしまい、リーアにしたように、僕が相手の身体を使って魔力を浸透させる事が出来るとは言い出せなかった。
結局10日の内に誰一人として僕の身体強化方法を再現出来た人はおらず、研究機関の人達は若干不満そうな顔付きだった。
そして謁見当日、僕は国王陛下とお会い出来るような正装など持っていないこともあり、教会から神殿騎士様の制服を貸してもらっていた。何でも勇者候補生となる者は教会所属になるらしく、国や教会からの様々な援助の元、困っている住民の方々などを助けて回り、勇者となるべく功績を積んでいくのだという。
ただ、各国が推薦する勇者候補から最終的な勇者を決める人界5か国会談まではあと半年もないということで、僕がこの国代表の勇者候補となる可能性はほとんど無いと言われた。それでもこうして勇者候補生として迎えられるのは、女神様からの神託を蔑ろには出来ないという事情のようだ。その内情を聞いた僕は、安堵に胸を撫で下ろしたのだった。
「・・・これが王城。近くで見ると、本当に大きくて豪華だな・・・」
宿屋に迎えに来てくれた2人の神殿騎士様に連れられて王城の門を通った僕は、高く聳える水色が美しい王城を見上げるようにして目を奪われていた。大神殿も凄かったが、あちらは荘厳な趣があるのに対して、王城は絢爛豪華といった雰囲気だった。
「おい、早くしろ!」
「あっ、すみません!」
足を止め、呆気にとられるように城の外観を眺めている僕に、神殿騎士様からの叱責が飛んできた。慌てて先行していた騎士様に追い付くと、2人とも苛立ちを隠さない表情を僕に向けてきていた。ここは王族が住む居城ということもあり、神経質になっているのかもしれない。些細なミスや行動が不敬罪に当たるかもしれないと聞いているので、僕は小さく息を吐くと、自分の浮わついた心を静め、真剣な表情で城内へと入って行く。
王城の内装も豪華の一言で、水色を使った外壁とは違い、壁は綺麗な白で統一されていた。調度品などは木目調が美しい、落ち着いた雰囲気の焦げ茶色のものが多く、一目で高級さを窺わせるものだった。
「おい、あまりキョロキョロするなよ。飾られている美術品は、お前が一生働いても稼げない価値があるんだ。壊そうものなら、一生奴隷として働いても返済は間に合わないぞ」
「っ!す、すみません。ご忠告ありがとうございます」
神殿騎士様の説明に、僕の背中を冷や汗が流れ、調度品から距離をとるようにして歩く。村に居た頃は全く関係無いことだったが、この世界には奴隷制度というものがある。奴隷には2種類あり、お金に困り、借金のかたに売られた者などは普通奴隷、不敬罪や殺人などの犯罪を犯した者などは犯罪奴隷と言われている。
奴隷は主人の命令に絶対服従であり、犯罪奴隷に至っては死ねと命じられれば死ぬことも厭わないのだそうだ。そんな奴隷から解放される手段は、奴隷となった時に解放条件として金額が設定されるらしい。要はその金額分、働いて返済出来れば解放されるようだ。ただこれは普通奴隷に対してのみ適用されるもので、犯罪奴隷は国王陛下の恩赦が無ければ一生解放されることはないのだそうだ。
そうして慎重な足取りで歩みを進めていると、前方に一際巨大で豪奢な扉が現れた。繊細な金細工が施された水色の扉の前で神殿騎士様から待つように言われると、僕は今一度服装の乱れがないか確認してその時を待つ。
そしてーーー
『女神様より認められし勇者候補、ライデル殿です!』
扉の奥より僕を紹介する文言が聞こえると、僕をここまで案内してくれた神殿騎士様が左右に別れて、その大きな扉を開いてくれる。
(・・・凄い!!)
目に入ってきた景色は、僕が想像を超えて、この世の贅を尽くしたような部屋だった。広大な室内は白と水色で彩られ、この城を支えているのだろう巨大な柱には、繊細で精緻な金細工が施されている。
そしてこの謁見の間の奥には、この王城の主であり、この国を統べる人物が、壇上の巨大で豪奢な玉座に鎮座してこちらを伺っていた。僕は緊張に身体を強ばらせながらも、ゆっくりとした歩みで奥へと進んでいく。
謁見の間の壇上には、中央に国王陛下とおぼしき男性が座っている。50歳位の美丈夫で、水色の短い髪の上に王冠を被っている。その左右には6人の女性が少し小さな椅子に座っており、事前に聞いてはいたが、おそらく陛下の正妻と側室の方々だろう。年齢は幅広く、陛下と同年位に見える方から、どう見ても陛下の子供くらいの年齢の女性までいる。
これほど奥様が居て、お子さんは3人の王子と1人の王女だけらしいが、そこには王室ならではの様々な事情あっての事らしい。
陛下の座る場所から一段下がった所には、2人のお子さんが座っており、それぞれ次期国王となられる第1王子殿下と王女殿下らしく、2人とも水色の髪をしている。どうやら王族の血筋は、髪が水色になるようだ。ちなみに第2王子殿下と第3王子殿下は、今日は出席されないと聞いている。
(王女殿下・・・人形みたいな人だな)
水色のドレスを纏い、整った顔立ちと艶やかな水色のロングヘヤーしている王女殿下は、僕を感情の読めない無機質な視線で見つめてくる。美人なんだけど、どこか感情を殺しているというか、達観しているというか、そんな印象を受ける。
ちなみに第1王子殿下は、陛下譲りの端整な外見で、長めの髪を後ろで一つに結び、如何にも王子様然とした風貌をしている。
王族の座る壇上の下には、左右に分かれて数人の人達が並んでおり、おそらくは大臣級の為政者や、国防を司る国防軍や衛兵隊の重鎮の面々だったはずだ。教会からの出席者は数人で、この場に大神官様はいらっしゃらないようだった。ただ、この広い謁見の間に対しては、人数が少なく見えてしまっている。
そうして、視線だけを動かして謁見の間の様子を見ながら壇上近くまで歩み寄ると、僕は予め指定されていた場所で臣下の礼をとって
「女神様に新たに見出だされし、勇者候補生ライデルよ。ダルム王国の為、人界に住まう人族の為、その力を存分に活用することを、国王、ヴァイゼル・ファールクス・エルドリア・ダルム13世の名において命ず」
「はっ!女神様より授かりしこの力は、人界に住まう人族の為、ダルム王国の為にお役立て致します!」
顔を上げることなく、予め覚えさせられてきた口上を告げると、少しだけ緊張が解れてきた。何故なら、陛下との謁見はこれだけで、この言葉さえ上手に言い切れば、あとは退出するだけと聞いていたからだ。
そのはずだったーーー
「さて、ダルム王国の勇者候補として認められたからには、国民の為に動いてもらいたいことがある」
「っ!?」
国王陛下の言葉に、聞いていた進行予定と違う為、焦りを隠すので精一杯だった。
「我が国の西方の都市にて、魔物の被害に苦しむ国民からの救援要請を受けておる。お主は明日王都を旅立ち、この件の解決に尽力してもらう」
「・・は、はっ!」
突然の命令に理解が追い付かず、陛下の言葉に遅れて返事をしてしまった。ただ、陛下は特に気にしていないようで、話を続けてくる。
「案内役として、衛兵隊から1人同行者が付くことになっている。さらに、身の回りの世話係として、教会所有の奴隷を1人付ける。また、勇者候補だと顔が知れ、今後の生活に支障が生じないように、顔を隠す仮面を支給する。移動中は必ず装着するように。これもお主が魔物討伐に専念できるように計らってのものだ、感謝すると良い」
「・・・陛下のお心遣い、誠に感謝の極みでございます」
「うむ。では早々に準備をーーー」
「お父様。宜しいでしょうか?」
陛下からの命令をしっかり記憶に留めようと、思考を回転させていると、更に僕の予想外の人物が声をあげた。
「ん?サーシャか?少し待ちなさい。もう謁見は終わーーー」
「いえ、今この場での発言をお許しください」
陛下の言葉に被せ気味に発言する王女殿下は、先程までの人形のような雰囲気から一転して、強い意思が宿った瞳をしていた。
(何だ?何だ?何がどうなるんだ?というか、陛下の言葉を遮るなんて、不敬罪とか大丈夫なのか??)
頭を下げたまま、内心ではオロオロと焦りを浮かべる僕に対して、王女殿下が衝撃的な発言をするのだった。
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