第4話 協力者
昨日の事件から、時は立ち、今は学校だ。俺は『おやすみのキス』作戦について考えていた。奴隷の能力は俺が思っていたよりずっと強く、そして厄介なものだった。
おじさんが警察に強姦を引き渡した後、奴隷を解放しようとすると、おじさんが逃げ出してしまった。奴隷を解放するにはまたキスが必要なのだ。俺の意志だけで解放できるものでは無い。結局辺りが暗くなるまでおじさんと知らない街で追いかけっこを続け、なんとか解放に成功した。奴隷状態は常に意識が無いようなものなので、解放するのにわざわざ寝かせる必要はない。
"奴隷"とは言うものの、恐らく"
それにしても気掛かりなのはおじさんのあの一言だ。
助けた女子高生は俺の名前を...
彼女は能力者である俺を嵌めたのか?いや、とてもそうには見えなかった。遠目に録画しながらしか見てないが、演技にはとても見えなかった。それに俺が気付くかも、助けるかも未確定な筈だ。
「きゃっ!」
「うわっっ、ごめん!」
そんな風に考えながら歩いていたせいだろう。女子生徒と廊下でぶつかってしまった。
でも、その声はどこか聞き覚えがあって。
「大丈夫か?ケガは......」
と言いかけて、言葉が止まってしまった。
あぁーーーっ!!
体に稲妻が走ったかのように錯覚するほどの衝撃が襲いかかる。
茶髪に腰あたりまで伸ばしたポニーテールをした少女。遠目か、画面越しでしか見てないがほぼ間違いない。昨日の襲われていた女子高生。
同じ学校だったのかよッ!!
「......あ、ごめん。大丈夫!そっちもケガはない?」
「あぁ、うん」
表向きは俺は何も関わっていない。彼女を助けたのも、強姦を警察に突き出したのも、全ておじさんの手柄だ。彼女が俺の名前を知っていたのは気になるが、俺は何も知らないフリをしなければならない。
「よかった。じゃあね!有澤くん」
去り際、彼女は手を振り、俺の名前を呼んでいた。おじさんが言っていた事は正しかったのだろう。でも俺は彼女に姿を見せた訳でもないし、そもそも話したことも無いはずだ。
でも。
よかった...か。ほんとに、よかった。
彼女の目がほんの少しだけ赤く腫れていたのが見えた。それでも、昨日の今日で学校に通えて、元気に振る舞っている姿を見ることができた。それは俺がおじさんを奴隷にするというリスクを背負ってでも、助けたという事実には変わりない。
それにしてもどこのクラスの子なんだろう。上履きが同じ赤色だし同じ学年ではあるっぽいけど...
って同じクラスかーい!!
授業が始まり辺りを見渡すと茶髪の長いポニーテールが見えた。
転校してきてそんなに経っていないのと同じクラスには、この学校の2大美少女である久礼さん、柏倉さんがいるので他の女も男も興味無かった。
まぁ、確かに俺の名前を知ってるってことは俺と同じクラスである確率は高いか。俺は有名人でもなんでもないし。
でも、あの日俺の名前を呟いてた理由は何一つ分からない。というか俺は彼女の名前すら知らない。
ずっと彼女の事を考えている内に、無意識に彼女の後ろ姿を眺めてた。
っ!?
すると、彼女がこちらに振り返り、目が合う。光の速さで目を逸らす俺。
なんというか、あれだ。よくよく見れば...いや、よく見なくても可愛いな...
いやいや、何言ってるんだ俺。俺には心に決めた二人がいる。
久礼さんと柏倉さん。この二人のうち、どちらかを俺の自宅に連れ込み睡眠薬で意識を失わせ俺の"奴隷"の能力を用いて奴隷に堕とす。"おやすみのキス"作戦。これを完遂するのが俺の目的!ぽっと出の女に揺らいでる暇はない。落ち着くんだ俺!!
そんなこんなで悩みまくり、俺は碌に授業を受けれなかった。
放課後、いち早く帰ろうと教室を出て、階段を下り下駄箱で自分の靴をとる。と、
"ファサっ"と1枚の手紙が落ちてきた。
......!?!?!?
これはまさか...まさかアレでは!?ラブのレターでは?
急いで拾い上げ靴を戻しまだ誰も来てないことを確認し校舎のトイレ(大)に鍵をかけ逃げ込む。
落ち着け...俺には心に決めた二人が...いや、落ち着けるか!!
こんなイベント人生初。心臓の高揚が抑えれない。
ゆっくりと手紙を開ける。
頼むッ!!久礼さん、柏倉さん来いッ!!これはアレだ。俺はあまりゲームをやらないが、無課金でやっとの思いで貯めた石で10連ガチャを引くような感覚に似ている...かもしれない。
えーっとなになに〜『今日の放課後、屋上で待ってます。』
そう女の子らしい可愛い綺麗な字で書かれていた。
うおぉぉぉぉ!焦らして来たァァ!!差出人の名前が書いてないのが少々不安だが、それもまた一興。そしてこれはもうアレでは?告の白では!?
昨日とは天と地ほど離れたテンションで俺はトイレを出て階段を何段も何段も駆け上がる。疲れも感じずに登った先には屋上のドアがあった。
一度深呼吸し、ドアを開けた。その先には
——誰も居なかった。
はぁ。イタズラかよ。あの陽キャか?"やーいバカぼっち引っかかりやがった〜"なんてやる気か?そんな事された暁には陽キャを屋上から突き落としてしまうかもしれない。
はぁ。と一つため息をついて、ドアを閉めて、少し歩いて座り込み、天を仰いだ。風が気持ちかった。
来るなら、来いよ。待っててやるからさ。
それから体感10分程待っただろうか。屋上のドアが開いた。
その人物は意外...では無いが予想とは違った人物で。
「ごめんね、掃除当番なの忘れてて遅れちゃった。待った...よね、ごめん!」
長い茶髪のポニーテールを揺らしながら頭を下げて謝罪したその人物は...
やべ...名前知らない。
「
「おぉ、悪い悪い。白瀬さんね。覚えとく」
彼女の言葉やらタイミングやらに少し違和感を覚えた。
「あと先に言っとくけど、今日有澤くんをここに呼んだのは、体験したことないらしい"ラブのレター"でも"告の白"でもないから!」
......俺は言葉を失う。その違和感は、違和感という言葉で済ませられないものだった。彼女の言葉から告げられたのは、ちょっと勘が鋭いくらいじゃ説明がつかないもので。
まるで、俺の心の中を見ているかのような...
「うん、そうだよ。正解!さすが能力持ちは話が早いね」
そう言葉を告げてない俺に肯定した。
「......じゃあお前は、俺に何をしにきた」
俺の能力がバレてる?ならなおさら気になる。
「そんなの決まってるじゃん。私を助けてくれたのは君でしょ?だからお礼を言いに来たの。それと...」
彼女はにこっと笑い、小悪魔的な目で俺を見た。
「おやすみのキス作戦、助けてくれた代わりに、私が手伝ってあげてもいいよ?」
「ギャァァァァァァァァァァァ!!」
彼女から発されたそれは、誰にも知られてはいけないもので、知られたら人として終わるようなもので.....俺は屋上の上で発狂した。
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