僕の話
日野 青也
第1話
「おばあちゃん達に、よろしく言ってね」
「わかってるよ」
ボストンバッグを片手に持って、改札へ向かう。この寒い時期に、寒い地方にある祖父母の家へ行くことにはもう慣れた。忙しい両親に変わって、人手の足りない祖父母の家へ、仕事を手伝いに行くようになったのは、三年前からだ。それまで来ていたお手伝いさんと違って、新しく来る人は十二月中旬には来なくなっちまうんだ、と、おじいちゃんが言った時から嫌な予感がしていたが、案の定、その年の冬から僕が手伝いに行くようになった。仕事はそれほどきつくないけれど、とにかく寒いのが嫌だった。しかも出発するのは夜だから、いつも眠くて、列車の座席で眠ってしまい、腰が痛くなる。とにかく僕にとって、得になることは何一つないけれど、とりあえず今年も列車に乗った。
さすがにこの時間だからか、乗客はほとんどいない。向かい合う席の片方に座り、隣にバッグを置く。窓の外はホームの僅かな灯りが、真っ暗い中にぼうっとあるだけで、とても静かだ。最近大雪が降ったばかりで、積もった雪が、より一層静けさを感じさせている。
「寒いな・・・」
マフラーに顔を埋めて壁にもたれかかる。
時計を見ると、発車時刻が近づいていた。暖房が入ったのか、ゴォーという音とともに車内が少しずつ暖かくなってきた。
発車時刻数分前、眠気に目を閉じて列車が発車するのを待つ。間もなくして、二人か、三人程の乗客を乗せた列車は、ゆっくりと動き出した。ガタガタと揺れていた車両は、徐々に一定のリズムになり、その心地よさがより眠気を誘って、僕はずるずると眠りに落ちていった。
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