◇◇◇ 二〇二〇年 八月十一日 火曜日

「先ほど管轄の警察署に連絡しましたので、ここでお待ちください」

 はっきりとした声音をした男性駅員がそう告げて駅長室を後にした。室内には私と女性駅員だけが残っており、彼女は私に同情や慰めの言葉を投げかけている。はっきり言って最悪な状況だった。今すぐにでも待ち合わせ場所に向かいたくておおごとにしなくていいと言ったのに隣に座る女性駅員によって強引にここへ連れてこられた。電車の中で大声を出したのは失敗だったようだった。

 溜息を吐くと彼女はそれを不安なものだと勘違いしたのか「大丈夫よ」と優しい口調で呟いた。彼女の正義感はとても立派なものだが当人である私が大丈夫だと言っているのだから放って置いて欲しかった。おそらくここに警察が来た後、事情聴取を受ける羽目になるだろう。そうなると待ち合わせ時間には当然間に合わないから、今日の予定は無くなってしまうだろう。

 なんとかこの場を抜け出せないものかと考えた結果、駅員にトイレに行きたいと伝えてとりあえず外に出ることにした。廊下を通って駅へ向かう途中、別の小部屋からこの原因を作ったである張本人の言葉が聞こえてきた。

 その言葉の中の一言が、私の中で所々穴の空いたパズルに全てのピースが当てはまるような衝撃を与えた。一つの点が繋がっていき連鎖的に広がっていって、何もかもが上手くいくと思わせるような感覚だ。こんなにも早く作戦が考えつくとは思わなかった。

 次の瞬間には床を蹴った私はその部屋へと向かって駆け込んでいた。

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