物資(ヒト)
花咲マーチ
物資(ヒト)
「全員、よく聞け。15年前に開発部に頼んだ案件だが、ようやく完成したと報告を受けた」
「それじゃあ……」
「ああ。我々、黒百合組の反撃の時だ! 」
「おおー--!!!」
黒百合組2代目組長・
この町は、2つの組織が最も強い力を持っていた。昔は、手を取り合って協力していたらしい。しかし、白百合組の組長が変わって以来、黒百合組との交流を一切断ち切り、黒百合組を上回る力で町を牛耳るようになった。
だが、白百合組は、自分たちの利益のみを優先し、あらゆる名目を付けては町民から金を奪っていった。町民たちは町を出ようと思ったが、引っ越しをする金もないため、仕方なく町に残っていた。
「くそっ!白百合組の奴ら、また町民から金をむしり取りやがって! 」
「組長、落ち着いてください。ほら、課題を終わらせてください」
「ったく。お前、父さんが組長だった頃、若頭だろ?なんで組長にならなかったんだ? 」
「俺にはもったいない席ですから」
この時、黒百合むらさきは15歳。むらさきは、黒百合組前組長・
黒百合組の存続は絶望的だったが、むらさきは15歳という若さで組を率いると決意し、瑞貴と共に、仲間を集めるところから始めた。
「組長、そろそろ、組に入りたい人達の面談に行ってくるので、課題を終わらせておいてくださいね」
「わかってるよ。後、お前の目は信用しているからな。内部から裏切り者がでないように人選してきてくれ」
「もちろんです」
瑞貴が組員を集め、何とか組織として存続できる形となったのが、むらさきが20歳の時だった。随分と町民も疲弊していたが、必死に生きていた。
「よく集まってくれた。まずは、感謝する。俺が黒百合組組長、黒百合むらさきだ。歳や経験値は誰よりも若いが、信じてついてきてほしい」
「もちろんです! 」
「組長についていきます! 」
瑞貴の人選は流石なもので、若いむらさきに反対する者は誰1人いなかった。
「ありがとう。では、まずは今後の予定を聞いてほしい。俺は、町で行われる選挙に出られる歳になったら出馬しようと思う。それまでに、開発部を立ち上げ、あるものを作ってもらいたい」
「あるものとはなんですか? 」
「人間を輸送するための段ボールだ。俺は、この町以外にも、困っている国とかを助けたい。だから、そういうやつらを、戦争で戦力に困っている国に渡したり、働き手が足りなくて困っている企業にタダ働きさせたりするんだ。そうすることで、悪いことをしても、感謝される存在になれるんだ」
「なるほど。ですが、段ボールはもとより、輸送ルートや、警察などとの連携が必要になってきますよね?その辺は大丈夫なんですか?」
「ああ。その辺も含めて今から準備をしていく。では、開発部に入る者と瑞貴と共に輸送ルートなどを確保する者に別れてくれ。後、町民に会ったら、挨拶をしたり、困っていたら手助けしてくれ。小さな積み重ねが、信頼へと繋がる。皆、頼んだぞ! 」
「はい! 」
むらさきの反撃は始まった。
「驚きました。あんな発想をお持ちだったとは」
「馬鹿にしないのか?とんでもないアイデアだろ。だけど、罰金を払ったり、牢屋で過ごして罪が終わるなんて思えなくてな。大変だと思う。でも…… 」
「そこまでですよ。あなたは、もう黒百合組の組長なんですよ。俺の前だけにして下さいよ」
「悪い。お前の前だとどうにも気が緩むな。よし、明日から本腰を入れて取り掛かるぞ!」
「どこまでもついていきますよ」
そして、15年経った現在。むらさきが35歳の時。彼が望んだことが実現しようとしていた。
「開発部をはじめとした組員全員の協力により、俺の理想が実現しようとしている。本当に感謝する。さあ!決戦の刻だ!白百合組を潰すぞ! 」
「こんばんわ。明日から選挙ですね」
「だ、誰だ……」
「鬼百合瑞貴と申します。あの、白百合組の人間に票を入れるおつもりですか? 」
「あんたには関係ない」
「今のままでは、お金をもらった所で、結局回収されてしまいますよ? 」
「わかっている。でも、でも……! 」
「大丈夫です。黒百合組の組長は、必ず、あなた達を助けて下さいます。信じてくれませんか? 」
「く……金は返さん」
「もちろんです。そのお金を回収されないようにしますよ」
瑞貴や他の組員たちは、選挙前日に、白百合組に買収された町民を徹底的に探していた。一方、むらさきは、白百合組の組長に1人で会いにいっていた。
「あの時はどうも。と言っても、覚えていませんか? 」
「誰だ。どこから入ったかは知らんが、人を呼ぶぞ。今なら見逃してやる」
「はっ!誰が見逃してくれって頼んだよ。それに、呼びたいなら呼べよ。誰も来ないだろうけどな」
「なんだと? 」
「ああ。後、俺の名前、知りたくないだろうけど教えてやるよ。俺は、黒百合むらさき。黒百合蒼と黒百合紅の子供にして、現組長だ」
「お前が……黒百合組の奴が出馬すると聞いてはいたが、あの時のガキだったとはな。壊滅的に追い込んでやったのにまだ抗うか。おい!黒百合組の奴が乗り込んできたぞ! 」
白百合組の組長が叫んだ。しかし、静まり返った空間が騒がしくなることはなかった。
「どういうことだ……」
「だから言っただろ?誰も来ないって。終わりなんだよ」
「クソガキがあああ!!! 」
白百合組の組長が服のどこからかナイフを取り出し、むらさきに飛びかかってきた。
「遅いよ。おっさん」
「ぬわっ! 」
むらさきに華麗にかわされ、床に派手に転んだ。その際、ナイフはどこかへ行ってしまった。
「ま、まて!金はやる。いくらだ?何が望みだ? 」
「金なんかいらない。望みは、お前が死ぬことだ。けど、俺はお前を殺さない。お前は貴重な物資だからな」
「物資だと……?うわっ! 」
むらさきは、白百合組組長の顔に催涙スプレーをかけた。顔を押さえながら床をのたうち回る組長。攻撃を仕掛けてくるつもりはもうないようだ。その隙に、彼を拘束し、特製の段ボールに詰めた。むらさきは、氷のように冷たい表情だった。
「もしもし、瑞貴か?こっちは終わった。ああ、無事だ。運ぶのを手伝ってくれるか? 」
組員全員と組長を1人で片付けていた。梱包まではできなかったが、今からすれば問題ないだろう。
次の日、選挙は無事に行われた。票のほとんどが、むらさきに投票されていた。その結果を白百合組組長に見せると、彼は輸送された。表向き、選挙に負けたということを理由に、白百合組は、解散したのだった。
選挙、さらには白百合組に勝利したむらさきの政策は本格的に行われていた。
警察や組員にはパトロールを指示し、悪事を働いている人を探してもらった。見つけ次第、むらさきの元へ連行し、面接を受け、むらさきが物質とみなせば、すぐに輸送の準備が開始されるという流れだ。
パトロールは徹底的に行われ、悪事を働くものは次々とむらさきの元に連行されてきた。
「君は万引き犯か。そんなに金に困っているのか? 」
「お前達より困っているに決まっているだろ!それに、ちょっともらっただけだろ?」
「店の店長があげたとは言っていない。それはもらったではなく、盗んだというんだ。あと、お前が盗みを行うことで、店長も金に困ってしまうんだ。わからないか?」
「ちっ!だからなんだっていうんだ!」
「話は通じないが、威勢はいいな。瑞貴。こいつは1番兵に困っている戦場へ送れ」
「わかりました」
「は?!戦場??何言ってんだ!」
「この町では、お前達のような、誰かに害を成す者は物資という。だから、少しでも感謝される存在になるために、困っている戦場に送る。わかるか? 」
「わけわかんねえよ!それなら牢屋にぶち込まれた方がマシだ! 」
「なら、尚更戦場へ行くのがいいな。マシな方を選択させる気はないからな。あ、そうだ。無事に戦場から帰還したら、君の罪には目を瞑るよ。じゃあ、せいぜい役に立ってきてくれ」
「ふざけんなああ!!離せ!くそ!くそおおおおおお!!」
毎日こんな感じのやり取りが繰り返され、少し嫌気が差していたむらさきだったが、日に日に報告件数が減ってきていることに、喜んでもいた。
その後、むらさきの率いる黒百合組が仕切る町は、最も平和な町だとニュースで紹介された。何でも、犯罪が1つも起こらないんだとか。その効果もあって、物資として人を送っても、住みたいと申し出る人の方が多いため、人口が減っているなんてことにはならなかった。
むらさきは、これからも、屍を積み上げながら理想の町作りを続ける。正しくはないだろう。だが、彼にとって、真正面から向き合った両親が殺されている以上、このやり方以外知らなかったのだ。罪悪感などない。あるのは、町民たちの笑顔を守ること。ただそれだけだった。
「報告しろ」
「はい」
物資(ヒト) 花咲マーチ @youkan_anko10
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