世界に嫌われた僕、異世界で幸せになります

シトリスタ

第1話 少年は死んだ

「世界のためにも死んでくれ!」

 僕が死ぬ間際に、意識を闇に落とす直前に聞こえた言葉。

 誰かのためになるのなら、と僕は受け入れて目を閉じた。





 社会一般的な人間の人生は辛いことも多々あるだろうがそれでも多くの幸せに包まれていることが多い。そして僕の人生もとある多くのことで占められている。

 それは―――暴言、暴力だ。もはや誰に何度受けたかなんて数えることなどできないほどだ。親に殴り飛ばされ、へばっているところをさらに蹴られるなんてもう日常茶飯事だ。そして僕に暴言、暴力を浴びせるのは親だけではない。つい先日だってそうだった。

 親に殴られた後、僕は少し外の空気を吸おうと思って通りを歩いていた。この時間帯、通りは学校帰りの学生のカップルや買い物をしている主婦たちで混み合っている。そんな彼らを僕は少し羨ましそうな目をして見つめながら横を通り過ぎる。学校かぁ………行ってみたかったな……

 そう、僕は今まで学校というものに行ったことがない。それどころか小学校なんて数年前までその存在すら知らなかった。僕は学校にんじゃない、んだ。僕は生まれながらにして戸籍というものが存在しない。だから社会にとって僕は元からいない存在なのだ。

 しかし、僕はもう16歳なので、学校に行かない代わりに日雇いのゴミ拾いのバイトをしている。だがそのわずかな収入も必要最低限の食費などを残してすべて親に取り上げられている。

 一日中暑い中で街のゴミをただひたすら集めつづけた僕はフラフラになりながら家路についていた。

 その際、すれ違った見知らぬ人に肩をぶつけてしまったのだが、その人は急に怒り出して僕を道路へと突き飛ばした。危うく車にかれかけ、冷や汗を流して固まる僕に唾を吐き捨ててその人は雑踏ざっとうの中に消えていったのだった。

 そして仕事が休みである今日も目的もなく、ただ家にいてはいけない気がして外に出た。街を歩けばコソコソとささやく声が耳に入る。いつもの事だ。何を話しているかはききとれないが、僕のことを話す人達がそれで気が済むのなら、と囁き声を意識から外して歩いた。そこで気が緩んでしまったのだろう。前から来た腕と顔が傷だらけのガラが悪い人とぶつかってしまった。

「いってぇな!どこ見てんだクソガキッ!」

 そう怒鳴られ、胸元を掴まれて体が浮いた。食べ物をまともにとれていない体では、抵抗することもままならない。僕は早々に抵抗を諦め、相手の気が済むのを待つことにした。

 これで、この人が幸せになるなら…。そう目を閉じて考えていると、ふとお腹の辺りが燃えるように熱くなった。

 目を向けると、白いはずのシャツがじわじわと赤く染まって来ているのがみえた。

「ぁ、つ……?」

「お前、――見たら《厄災やくさい》じゃ――か!うわ、最――だ。こんな――にぶつか――なんて!死――!」

 目の前の男が何か言っているが、よく聞き取れない。

 ゴポッ、と嫌な音がして喉にせり上がってくるものを耐えきれずに吐き出した。それは、血だった。その鮮やかな赤色に目を奪われるが、それどころでは無い。

 体の感覚がもうなくなってきている。この出血量ではもう助からないだろう。視界が黒く、狭くなっていく。周りの音もだんだん遠くなっていく。そんな中、ある言葉だけがハッキリと聞こえた。

「世界のためにも死んでくれ!」

 そう、いいよ。こんな僕が消えるだけで世界が、みんなが幸せでいられるなら。

「あぁ、最期に見る景色がこんなきれいなあおい空で良かった……―――」



「君は、それでいいのかい?」


 ………雨落優希しずくゆきくん。


 ―――――――――――――――――――


 雨落優希しずくゆき

《性別》

 男

《年齢》

 16歳

《容姿》

 転生前

 黒髪黒目 前髪は目を隠すほどの長さ

 身長は155cmほど

 幼い頃から殴られていたため視力が低下しており、目を見せると睨んでいるように見える


 転生後

 半分で分かれた黒と白の髪

 紫色の瞳

 身長はそのまま


《能力》

 ???





 パタンと本を閉じて私は思考の海に身を落とした。

 少年が進む道に、何があるのか。

 非常に楽しみだねぇ…。

 なぁ。


『君たちも、そう思うだろう?』

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