第2話 前日2-1

 俺は、朝の目覚ましと共に目が覚めた。


 そして、ゆっくりと目を開けると俺はパジャマのまま1階のリビングへと向かった。


 朝の朝食の時間だからだ。


 リビングに着くと、そこにある朝食は昨日の余り物なのかと感じられる全くと言っていいほど同じ料理だった。


 そして、そんなことに小さな違和感も覚えながらも俺はリビングの端にある昔ながらの紙でペラペラとめくる方式のカレンダーを1つちぎってテーブルがあるところに向かおうとした。


 「ん?」


 日めくりカレンダーをめくる前の日付が2月28日になっている。


 昨日めくり忘れたっけ?


 朝食に続いて今度はカレンダーか。


 毎日やっているせいもあって昨日確実にやったかと聞かれると自身も無かった。


 きっと、昨日のこともあって疲れているんだろう。


 俺は2日分を一気にめくると、前の日付の書かれた紙をゴミ箱に捨てようとした。


「あーもう!何やってるの」


 ふいに後ろにいたお母さんから文句を言われたのでびくっとなって後ろを振り返った。


「何かした?」


 俺にはまったくの心あたりが無かったので、ただただ聞くことしかできなかった。


「何って、優斗、今間違えて2日分めくったでしょ」


「いや、そんなことしてないよ。だって今日は3月1日だろ」


「何言っているの?」


「今日は3月1日の卒業式の日だろ」


「今日は卒業式前日だから2月29日」


 お母さんは何を言っているんだ?


「お母さんこそ何を言っているんだよ」


 俺はいたって真面目に言ったつもりだったが、お母さんは俺を寝ぼけているんだろうと言わんばかりの顔で見てきて、やれやれとした表情をしながら俺に説明を続けた。


「テレビ見なさい」


 そこにはテレビのアナウンサーが今日である2月29日は何の日かの説明をしていた。


 え?


 俺はお父さんがテレビを見ているにも関わらず、リモコンを使っていくつかのチャンネルを着けては変えてを繰り返した。


 けれども、どこを見ても2月29日のことしか伝えていない。


 昨日と同じようにニュースを伝えて、昨日と同じように明日は大雨の可能性があると伝えていた。


 加えて、最後の1つである民放テレビに至っては、明日が公立中学校の卒業式とさえ伝えていた。


「しっかりと、顔洗ってきなさい」


 俺は、ぱっと渡されたタオルを持つと、ただ洗面所へと向かうことしかできなかった。







 俺は、いろいろな疑念を抱えながら通学路を通るといつもの見慣れた校門へと向かった。


 ぱっと校門の前を見ただけでも今日が卒業式の前日だということを思い知らされる。


 なぜなら、校門にどこの学校でもある卒業式の立て看板がないからだ。


 俺は、来て早々にがっくりしながら階段を上がり教室に入ると、そこにはいつものクラスメイトがいた。


 そして、注意深く見てみると、クラスメイトは今日が卒業式前日であるということに誰も疑問を持っていなかっただけではなく、昨日?に来た時とほぼ同じ時刻ということもあってかみんなの座っている位置、果ては会話までが覚えている限りほとんど同じだった。


もう、ここまでくると信じなければいけないようだ。


 どうやら俺はタイムスリップをしているらしい。








 俺は、昨日と全く同じ会話をして教室を後にした。


 唯一違うところといえば、山下からの遊びの誘いを断ったことくらいだろう。


 理由は、午前中に思いついた俺なりの考え試すためだ。


 もし本当にタイムスリップが起きているのだとしたら、このまま同じことをしていてはまた明日に行けない可能性が高い。


 俺はとりあえずこのまま家に帰ることにした。


 通学路をゆっくりと帰っていると、そこに見えているのは昨日とほとんど変わらない景色だ。


 歩いている人、動いている車や果ては虫までも。


 本来ならわくわくした気持ちでいられるはずの卒業式前日も2度目ともなればさすがに同じ気持ちではいられない。


 俺は周りを見渡していると、後ろから急に左肩を少し強くトントンと叩かれた。


 この体験は、昨日はなかった。


 俺は、急いで後ろを振り返ると顔に指思いっきりグイっと刺さった。


 まさかの肩トントンからの指をぶつけて悦に浸る遊びをまだやっている奴がいるとは。


「あっははははははははは」


 そして、当の本人は声を上げながら満足げに笑っていた。


 指をどかしてぱっとその少女を見てみると、身長は俺よりも少し低いくらいだろうか。


 髪は後ろで結んでいてほどいたらちょうど肩にかかるくらいに見える。


 水色の長袖のジーパンに上はベージュ色の服。顔は十分と言っていいほど整っていたが、他にもすらりとした体形をしていて服の上からでも感じられるほど良い筋肉がわかることから運動の1つでも何かしていると感じさせる体形をしていて、正直に言って性別問わず人気が出そうな感じだった。


 正直、さっきの一連の流れがなかったら俺もかわいいなと思っていただろう。


 でも、何だか憎めないような気がしてくるのは不思議なところだ。


 俺は、せっかく前と違うことが起きたのでとりあえず気になることを聞いてみることにした。


「君は誰?」


「誰だと思う?」


 まさかの質問に質問返し。


 しかも、さっきのにやけた表情が一切収まる気配が見えない。


「知らないよ」


 本当に初対面なのでこう答えるしかなった。


「まあ、そんなことはどうでもいいの!」


 いや、あんたが聞いてきたんだろ。


 心の中で突っ込みを入れる。


「ねっ、君はタイムスリップしているでしょ」


「…」


 まさかの言葉が聞こえてきた。


「なんで知っているのって顔しているね!」


「それは…」


「でも、そんなことはどうでもいいの」


 え?


「せっかく会えたんだし、一緒に遊ぼう」


「いや、もっとすることあるでしょ」


「えーするって何を?」


「それは…」


「ないならいいじゃん。一緒に遊ぼー!」


 そう言うと、少女は俺の手首をぱっと掴んで連れ出した。


 方向は俺がさっき通った道だ。


 力は女子にしては強いほうだったが、頑張れば振り切ることもできただろう。


 しかし、実際にそうしなかったのはどうしてなのだろうか。


 握られた手首にどこか懐かしさを覚えながら俺はもと来た道を引き返す。

 





 少女に連れられて道をもとに戻って学校近くまで来たが、一向に目的地がわからない。


 まさか、この時間に学校に行くわけじゃないだろうし。


「ねえ、これからどこに行くの?」


「そりゃ、ここら辺で行くとこって言ったら1つしかないでしょ」


 ここら辺には学校と少し先に岐阜駅があるくらいだが。


 この子は一体何をする気なんだろうか。


「岐阜城を見に行くんだよ」


「は?」


 岐阜城を見に行ってどうするつもりなんだろうか。


 タイムスリップのことを知っているということはきっと何か解決策か何かを知っていると思って期待していたのにまさかの岐阜城。


「張り切って行こうー!」


 なんで、こんなにテンション高いんだよ。


 しかも、岐阜城はちょっとした山のてっぺんにある。


 つまり、岐阜城の中を見るということは少しばかり山登りをするということと同じ意味になるのだ。


「一応聞くけど、なんで岐阜城?」


「そんなの決まっているじゃん。私が見たいからだよ」


 この瞬間、俺は1つ思ったことがある。

 


「ついて行くんじゃなかった‼」


 

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