第14話 テンプレ的に、村にたどり着く俺。
村には、体感で20分程度で着くことが出来た。
そのままのスピードで村の中に入っていたら、確実に人を撥ねている。現に、途中で角の生えたウサギが1匹、蹴り飛ばされてすごい勢いで飛んで行ったのを見てしまった。
「ふ、振り落とされるかと思いました……」
疲労困憊、もーきついと言わんばかりに、女騎士が
無理もないだろう。
もちろん完全に風を防ぐことも出来た。だがなぜ中途半端にしたのかと言えば、あまりに不自然だからだ。一応、その辺はシンジも考えている。
まあ、
シンジは、ヘロヘロになっている女騎士に注意を促した。
「寄りかかっている暇はないよ。すぐに村へオークの事、伝えないと」
「はッ! そうでしたッ!!」
女騎士はガバッと起き上がると、すぐに
「あらら……そのまま乗って行った方が早いと思うけどなあ。ねえノアさん、君の御主人、ちょっとオッチョコチョイ?」
そのシンジの問いに、
「あ、そうなの。まあいいや、ノアさん、ゆっくり追いかけて行こうか」
シンジが残された手綱を握ると、再び
◇
「ここかな?」
道を歩く村人に尋ねながら道を進む。シンジはともかく、
どうやら、村の奥の方、いや寄り森から離れる方向にある、この辺りで2番目に大きな家。それが村長宅らしい。その隣には、教会らしき高めの塔を持つ一番大きい建物もあるようだ。ちょうど、その前が広場のようになっているとのことだ。
なるほど、村長の家と教会が並び立っている。何か起こった際にはここへ集まるのだろうとシンジは推測した。
すると、村長宅から村人らしき男が数名飛び出るように出て来て、転げそうになりながら村長宅の裏と教会の方に別れて走って行った。
「おやおやぁ?」
シンジがキョロキョロと様子を見ていると、ちょっと間が空いて教会の方からシャンシャンシャン、と3度ずつ激しくかき鳴らす様な鐘の音が響いた。そして、村長宅の裏側から、赤い煙が空高く昇り始める。
「……めちゃくちゃ取り込み中だねえ」
と言うより、女騎士がもたらした情報が原因で取り込み中になったという事だろう。
「うーんと、ノアさん、ここでちょっと待っててくれるかな? 俺、様子見てくるよ」
完全に言葉を理解しているであろう
まあ良いかと思いながら、シンジはその背からスタっと飛び降りて、開けっ放しになっている村長宅の玄関から中を覗き込む。
そこには、禿頭に白く長いひげを生やした老人と、あの女騎士が向かい合わせで何かを話し合っている姿があった。横では、老人の妻なのか、少し上品そうな老婆が立ったままでお盆を胸に抱え、オロオロしながら二人の顔を交互に見つめていた。
「あ、来ましたか」
シンジの接近に気付いたのか、女騎士は後ろを振り向くと、隣に座るよう促してきた。シンジは遠慮なく隣の椅子に座る。
「村長、この御仁も私と一緒にオークの群れを見ている。と言うより、先にオークの群れを発見したのが彼なのだ。同席させるぞ」
「ええ、そういう事でしたら」
この杖を持った老人が村長のようだ。ならば先ほどの男たちは、息子か縁者か使用人なのだろう。
「先ほど鐘をかき鳴らしたり、赤い煙が上がったのは、
「ええ、そうですじゃ。こうしてはおられませんな。村の衆が広場に集まってくるはずですじゃ」
(おおッ!
シンジは、村長の言葉遣いにちょっとだけ燃えた。だが、すぐに我に返る。
(……いやちょっと待てよ? 何で
シンジの頭に浮かんだ疑問は、同じような言葉を話す幼女の姿を脳裏に描き、すぐに解消された。
(うん、幼女のせいだ。たぶんきっとめいびーぱはーぷす)
深く考えるのを止めたとも言う。
「外へ行かねばッ! 村の衆が待っておるですじゃッ!」
そんなことを考えていると、JIJY村長が元気に叫びながらふらふらと、でもなぜかしっかりした足取りで、杖を振り回し辺りを叩きまくりながら、扉から出て行った。
「あぶねーなオイッ!」
その姿は、往年の
シンジと女騎士は、半ばボー然と
◇
外へ出ると、見るからに『The 村人』といった人たちが、広場に集まっていた。皆が不安そうな顔をしている。
「皆の衆ッ! 緊急事態じゃ! すぐに避難の準備をしてくれぃッ!」
「そ、村長ッ! あの赤い狼煙は!」
「そうじゃッ! 魔物の群れがこの村へ押し寄せておるという情報が入ったッ!」
村人のざわめきが一気に大きくなった。
「幸い、早く知らせが来たので、すぐに持てる荷物を持って地下へ避難してほしいのじゃッ!! 食料は確保しておるッ!!」
「訓練通りに行えば大丈夫だ! 家は壊されるかもしれない! 避難場所に持ち込むのは、貴重なものは籠ひとつ分までなら構わないッ!」
家から走っていった男が、いつの間にか村長の隣に立っていた。やはり息子か何からしい。
どうやら、普段から魔物の襲来を想定して、訓練や持ち込み可能な荷物なども決めているようだ。
(どうしても緩くなりがちの日本と違って、魔物がいる世界だから命懸けだもんねえ)
避難訓練の真剣さは、日本と比較にならないだろう。だが、家が壊されるとは。
シンジは、隣に立つ女騎士に話しかける。
「ねえねえ、さっき、家が壊されるとか言っていたけど、
女騎士は、眉間にしわを寄せ、難しい顔をする。
「そうですね。この村の土盛と板壁程度だと、せいぜい防げてゴブリン程度でしょう。そうなると、家や畑は破壊されますね。……せっかくここまで開拓したのに」
そう言って大きなため息をついた。
「ですがまあ、事前に
そんな話をしている間に、村人たちは三々五々散っていった。
「そっかあ、開拓が遅れるのは忍びないねえ」
シンジとしては、今の段階であまり目立ちたくはない。何故なら、この地を治める領主の性格が分からないからだ。
「……だが伯爵様ならば、村が被害を受けても、支援をしてくれるだろうと思うけど」
女騎士がつぶやくように言ったのが、シンジの耳に届いた。
「ふうん。……で、どうするの? この場に残るの? 報告に戻るの?」
「先ほどの狼煙で、魔物の来襲は街には伝わっているはず。私はここで、出来る限り食い止めたいと思います」
だが、この無防備な村の状態で、1000匹ものオークどもを相手にすれば、どうやったって女騎士の死は免れない。それどころか、薄い本状態になるのは目に見えている。
(さっきの剣技を見る限り、腕はそれなりに良さそうなんだよね。ただ、武器がただの鉄剣じゃ、どうにもならないと言うだけで)
この女騎士、シンジが見るところ魔力持ちだ。先ほどの剣技も、身体強化を使っていた。だが、武器がただの鉄剣では、単なる体力と筋力の強化にしかならない。
「そんなことをしても、時間稼ぎにしかならないよ? 死んじゃうつもり?」
「……少しでも時間が稼げれば、この村まで騎士隊が駆けつけてくれます。そうすれば、村人の被害も押さえられるでしょう」
女騎士は、覚悟の決まった微笑みを浮かべた。だが、シンジはジト目で迎え撃つ。
「剣は? さっき折れちゃったよね?」
「あ!」
そう、女騎士の剣は、先ほどのオークとの戦いで折れてしまっている。戦おうにも戦う手段がないのだ。
「ま、誠に申し訳ないのだが、貴殿の剣を貸していただけないでしょうか」
女騎士が、眉毛を八の字に下げてシンジに頭を下げてきた。
「うーん、却下で」
「しかし、それでは戦えないのですッ! 貴殿だって早く逃げねばッ!」
それを聞いた女騎士が、激昂してシンジに怒鳴りつけた。
「しょーがないから、俺もやるよ」
「はい?」
シンジの発言に、女騎士の目がパチクリと2回瞬いた。
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