テンプレばんざい!! ~異世界転移した俺は、無理やりテンプレ道を極めさせられる~

桃源郷

第零章 『ちゅうとりある』編

第1話 テンプレ的に、幼女に呼ばれた俺

 「今度こそ究極のテンプレを達成するのじゃっ!」


 目が覚めると、そこには絵に描いたような後姿の銀髪幼女が拳を突きあげていた。


 腰まで伸ばされた長い髪の毛は、周りの白い空間に反射するのか、キラキラと輝いて見える。


 いや、反射というよりも、その髪自体が発光しているようだ。


 神々しい幼女。現実ではありえない光景。


 まるで、下手なライトノベルのシチュエーションだ、と伸士は思った。


 (どうやら俺は現実感を欠いているのだろう)


 この光景に痺れている脳みその片隅で、ちょっとだけ動いている意識が考える。


 先ほどまで見ていた風景とはまるで違う。伸士の目の前には、巨大なダンプカーがあったはずなのだ。その証拠だろうか、伸士の身体には、間違いなく轢かれて跳ね飛ばされたのだろう悍ましい感覚が、微かにだが残っている。


 現実が見えない。……いや、人生の事ではなく。


 これは夢か? 死ぬ寸前の幻か?


 「おお、目が覚めたか」


 その、鈴の音が鳴るような声の幼女が振り返った。


 眉あたりでぱっつり揃えられた前髪が流れて、くりくりとよく動く金色の瞳が、瞬きもせずこちらを見つめている。


 貫頭衣に体にのひだが付いた薄い布のようなものを纏っていて、ギリシアかローマから来たような雰囲気だ。


 だが、見た感じ小学生になる前くらいの幼女にしか見えない。もしこれが黒髪に着物なら、姫カットの市松人形そのものだろう。


 ああ、北欧の妖精っぽいプラチナブロンド幼女がこんな感じか、と伸士は独りちる。


 「パニックにはなっておらんな。それでこそじゃ」


 うんうん頷いている。


 悪いが、状況が掴めていないだけだ。


 少しだけ落ち着けたので、周りを見渡す。そこには、ひたすら白い空間。立っているので地面はあるのだろうが、壁との境が見えない。上を見渡せば天井も白一色で角すら分からず、まるで全天が距離感の分からない球に包まれているかのようだ。


 とりあえず事情を知っていそうな、目の前の偉そうな幼女に声をかけてみる。


 「ええと、お嬢ちゃん、お母さんは近くにいるかな? 出来れば呼んで欲しいんだけど」


 「子ども扱いするではないわ」


 (子どもじゃん。どこから見ても立派な子どもじゃん。あ、第1反抗期直後の背伸びしたいお年頃?)


 思わず優しい目で幼女を見つめてしまう。


 「そのお年頃を疑う生暖かい目は止めい」


 伸士の心を読んだかのように反応を返す幼女。


 (まあ、これだけ受け答えが出来るんだったら、ただの子供じゃないよね。丁寧に接しますか)


 伸士は納得すると、幼女に対してなるべく優しく、ゆっくりと問いかける。


 「あなたのお名前は? 私は黒須と言いますが、急にここへ来て戸惑っています。何か事情をご存じですか? 私は確かトラックにぶつかったと」


 それを聞いていた幼女は、偉そうに反り返ったまま、腕を組んでこちらを見つめた。


 「そうじゃの。黒須 伸士くろす しんじ、お主は死んだ」


 ゆっくりと、つぶやくように語る。


 (え? 生『のじゃロリ』? ラノベあたりでしか見たこと無いぞ)


 しかも、死亡宣告とか。幼女にしてもタチが悪い。どういう教育を受けているのか。親の顔が見てみたい。


 こんなかわいい顔して、この歳で重度のヲタなのか? 思わずあたりを見て、親の顔を探してしまった。


 こちらの思いを無視するかのように、幼女の語りが続く。


 「原因は赤信号に突っ込んできた、運転手が心臓発作を起こした大型トラックじゃった」


 幼女はだんだん声が大きくなり、それにつれて手振りが始まる。


 「トラックは猛スピードのまま赤信号に突っ込み、横断歩道にいたお主を轢いてしまったのじゃ」


 痛まし気に首を横に振り振り、Oh,No! のポーズで両手を上げる。


 (似合っているだけに痛々しい)


 思わず突っ込みたくなる伸士。だが、ここは我慢だ、と自分に言い聞かせる。


 「誠に痛ましい事故じゃった。……じゃが、これぞ、これぞまさに」


 そこで、思いっきり手を握る幼女。


 「まさにテンプレッ!!」


 鼻息も荒く、両手を握りしめて斜め上にかち上げ、ムッハーッ! と背後に幻の書き文字が見えるような興奮ぶりだ。


 「テンプレの王道じゃっ! よって、ワシはお主を選んだっ!」


 ビシッと指をこちらに突き付けてきた。


 「こらこら幼女、人を指さしてはいけませんと、お母さんに習わなかった?」


 思わず突っ込んでしまった。


 「誰が幼女だコラ」


 幼女が突っ込んできた。しかも右手にスナップを効かせて。良い突っ込みだが、とりあえず無視する。


 「だいたい、選んだってどういう事?」


 本音がこぼれる。敬語もぶっ飛んだ。


 「こういうのってさ、なんかすっげぇ才能が眠っていて、でも現代地球では発揮されなくて、それで呼ばれたとかじゃなく?」


 「その通り! その中二病な才能が儂の目を惹いたのじゃ。中二病転生……王道じゃしの」


 「うわぁ、この幼女殴りてぇ」


 思わず伸士は自分の前髪をかき上げて、額に手をやる。


 「いや、冗談ではないぞ」


 急に真面目な顔になる幼女。


 「『思い』というものは力を持っておる。ゆえに本当に『思い』が強く、それを知る者が多くなれば、周りをも変えていける」


 まあ、お主の思いはそんな世界を変えるものではなかったがの、と言って笑う幼女。


 真面目な顔は、意外に重みのある威厳を見せている。幼女なのに。


 「いや本来儂に姿なんぞ無いぞ。これがテンプレだから、こうしとるだけじゃ」


 思ったことがセリフで返された。


 (……貴様ッ! 読んでるなッ!?)


 「神だからのう。それこそテンプレじゃし」


 そりゃまあ、確かにと伸士は思った。思ってしまった。


 「ん? 待って待ってちょっと待って? 今、神とか抜かさなかった?」


 「じゃから、神だと言うておろうが」


 (えー……? 自分で神とか言っちゃうの? 幼女なのに)


 「たわけ、わかりやすくこの姿をしておると言うておろうが」


 伸士は、うん、確かに言ったな、と思い返した。


 「まあ、まずは座ってお茶でもしよう」


 幼女が指をぱちりと鳴らす。すると、目の前には白いガーデニングテーブルと、ティーカップがふたつ瞬時に現れた。カップの中には、紅茶が湯気を立てている。


 伸士は、その技にちょっと見惚れてしまった。


 「すげえな。神らしいところ初めて見た。幼女なのに」


 「まあのう、指を鳴らせるようになるまでが大変じゃった」


 「苦労したのソコ!?」


 「ちなみに、失敗したら毒液になったり麻薬になったりする」


 「そんな危ないモノ飲ませるんじゃありませんッ!!?」


 突っ込まれても平然としたまま、宙に浮くようにふわりと白いイスに座る幼女。


 伸士も仕方なく、向かい合って座ることにした。

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