第2話 再訪

 部活の見学の翌日、いつものように学校で授業を受ける。普段通りの授業。理解できるかは別として、受けるだけなら本当に楽だ。そうして、習慣となった授業を4つ終えれば昼休みだ。


「ねえ、サキー」


昼食の準備をしていると声をかけられた.


「なに?」


 話しかけてきた彼女は松尾かおり。私の小学校の頃からの友達。クラスが一緒になることも多くて,本人がどう思っているかは分からないけど,私は大切な友達だと思ってる.


「昨日の放課後、2年生と歩いてるの見たんだけど、何してたの?」


 昨日といえば部活の勧誘を受けた件だろう,そんな期待されても大したことでは無いのに.


「部活の見学に行ってた」

「え、サキが?遅めの高校デビュー?」


 遅めの高校デビューて何だそれ。そもそも高校デビューなんてしたつもりなんて無い。


「なんでそうなるの」

「サキ、積極性ゼロじゃん。なのに部活って」

 

 ゼロは言い過ぎだと思う.私だって何かすることくらいある.


「なんか見学に来てって誘われて」

「この時期に?」


 そこから、昨日あったことをかおりに話した。玄関で話しかけられたこと。自然科学部という部活の勧誘だったこと。電気パンを食べたこと。それと春先輩のこと。


「珍しいね」

「確かに、変わった部活ではあるよね」

「それもあるけど、そうじゃなくて、サキが楽しそうに初対面の人のこと話してたから」

「え?」


 かおりが言うには、私は普段、友達や家族の話以外、他人の話はあまりしないらしい。そもそも、他人の話を日常会話でそこまでするものかと思ったけど、そうじゃないらしい。


「だって、すごく楽しそうだし。サキ、友達や家族の話をするときもそんな顔、ほとんどしないよ」


一体、私はどんな顔をしていたんだ。むしろ、普段はどんな顔して話をしているんだ私は。


「興味なさげな顔」

「当たり前のように私の心を読まないで」


 かおりはたまに人の心が読めるんじゃないかと思うときがある、私が気分が悪いときとかは何も言ってないのに「何かあった?」と聞いてくるし。それとも私が分かりやすいんだろうか。


「まあ、変な人だったから、面白かったんだよ」

「そんないうほど変な人?」


 変な人だと思う。


「それ、変なのはその先輩じゃなくて、部活でしょ?」

「…」


 そういわれると、そんな気がするけど、変な部活に入ってるんだから変な人。それでいいだろう。


「サキ、その先輩のことが気になるんじゃない?」

「気になるって?」

「そりゃ、好きなんでしょ?」

「何言ってんの?」


 本当に何を言ってるんだ。春先輩は女の子だって話したのに忘れたのだろうか?


「冗談、冗談」


 そういって、笑っていた。本当に分かっているのだろうか、疑わしい。


「でも、普段のサキなら絶対断ってるもん。だからその先輩の何かが気になってるんだよ」

「…どうなんだろうね」




 放課後、周りを見ると、友達と雑談する人。帰り支度をしている人。そして、部活に向かう人が居る。さて、私はどうしようかと考えていると


「サキー、何してるの?」


 かおりが話しかけてきた。どうやらかおり自身は部活に行くようだ。


「んー、何しようか悩んでて」

「何しようって、サキ、帰る以外することあんの?」


 ひどいやつだ。私だって他にすることぐらいある。寄り道とか。それを言うと、「帰り道じゃん」だと。まあそうかもしれないけど。


「あ、昼に行ってた部活か」

「…まあ、そんなとこ」

「せっかくなんだし入部してみたら?どうせやることないんでしょ?」


 さっきから失礼なことをどんどん言ってくる。私が何かしたのか。


「きっといいことあるよ。私も、部活のおかげで青春が楽しくなってるよ」

「茶道部の青春って何?足のしびれ?」

「ひどい!?」


 少し、仕返ししてやった。





 昨日の今日で化学準備室の前にいる。別に2日連続で見学に行く必要はないのだけど、なんとなく。そう、ただなんとなく来てしまった。まあ、来てしまったのだからこのままいこう。

、すりガラス越しに部屋を見ると、明かりがついていることが分かる。どうやら今日も部活動はやっているようだ。扉をノックすと、部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえてきた。春先輩の声ではない。他の部員だろう。


「失礼します」

「あら、1年生?どうしたのかしら」


 扉を開けて部屋の中に入ると、生徒が1人椅子に座ってこっちを見ていた。春先輩と同じ2年生。


「あの、は…天野先輩はいらっしゃいますか?」

「ああ、春が言ってた1年生はあなたのことね」

「えっと、たぶんそうです」

「春は掃除当番だからまだ来てないわ」


 「ここで待ってて」と促さるままに椅子に座る。少しすると先輩はお茶を2人分用意して対面に腰かけた。


「自己紹介がまだだったわね。私は佐保葵。ここ自然科学部の部長よ。よろしくね」

「高田咲です」


 どうやら佐保先輩が部長らしい。佐保先輩の印象は、落ち着いた人といった感じだ。話し方や仕草もそうだけど、腰あたりまで伸びた髪もその印象を強くしているのだろう。

 それから、しばらく佐保先輩と話をした。現在の部活の状況についても話をしてくれた。去年まで部長をやっていた3年生が卒業して、部員が不足して、5月中に部員を集めないと廃部になるそうだ。


「何人か見学には来てくれたのだけど、やっぱり思っていたのと違っていたみたい」


 それはそうだろうと思う。まったく興味のない私でさえ、自然科学部ぽくないと感じたのだ。そういったことに興味のある人が入部するとは思えない。佐保先輩によると、そういった人は隣の物理準備室と物理室を活動の場としている物理化学研究部という部活に入るらしい。

 私も、自然科学部に見学に来た経緯やその時の印象について話した。


「面白いわね、高田さん」

「面白いですか?」

「ええ、話を聞く限り高田さんもこの部活に興味があるとは思えないし、そもそも部活動をするつもりもないのでしょ?」

「…まあ、そうですね」


 そこまで言い当てられると少しドキッとする。部活に入る気がない。までは言ってなかったと思うけど。洞察力というものなのだろうか、よく見ていると思った。


「なのに、また来た」


 佐保先輩は、楽しそうに言う。まあ、確かに興味のないどころか、部活をする気がない人が見学にきたのだ。しかも2回も。面白いとか、変わってるとか思ってしまうのは理解できる。


「春は、「かわいくて良い子が来た」て言ってたけど、面白いも加えておくわ」

「春先輩、そんなこと言ってたんですか」


 かわいいと言われるとは思わなかった。なんだかむず痒いような変な気分だ。


「佐保先輩はなんで自然科学部に入ったんですか?」

「私というか、私たち今の部員3人ともあなたと一緒よ」

「一緒というのは?」

「去年、3年生だった先輩から誘われたの」


 どうやら、春先輩がやっていたようなことを、去年、別の人もやっていたみたいだ。佐保先輩によると自然科学部は去年、もう卒業した先輩が新しく作った部活らしい。なんで3年生が新しく部活を作ったのかと思ったけど、その先輩、もともと居た物理化学研究部で、部員と喧嘩をして、居づらくなって新しく部活を作ったということのようだ。


「ということは、その先輩はちゃんと実験とかしてたんですか?」

「ええ、そうね。私たちは部員の頭数のためだけで、基本実験にはは参加していなかったけど」

「なんで、入部したんですか?」

「もともと、入部するつもりはなかったの。だけど、春がお菓子に釣られて入ったの」


 なんか、春先輩らしいと思えた。昨日1日しか春先輩とは話していないけど、そういう理由で入部したと聞いても納得してしまう。


「それで、仲の良かった私ともう一人も入部したのよ」

「春先輩がきっかけだったんですね」


 マイペースというかなんというか。


「ずいぶんと春と仲が良いのね」

「はい?」

「途中から、呼び方が天野先輩から春先輩になってたわよ」

「あ」


 昨日、春先輩から名前呼びを頼まれてから、ずっとそう呼んでいたからつい出てしまった。途中から佐保先輩がこっちを見て悪戯っ子みたいな表情になっていたのはそういうことか。


「春先輩がそう呼べって」


 なんか、急激に恥ずかしくなってきた。一旦席を外そうかと考えていた時だった。


「おっすー」


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