無能術師覚醒・無限迷宮活動・無量式神契約
三流木青二斎無一門
勘当
人の負から生まれる、人間を殺戮する疑似生命体、『
数多く、裏の社会から表舞台を支え守り続けた彼らにも、地位と名誉を欲する。
古来より存在し続け、そして実力を以て権威を主張し続ける由緒正しき正統な退魔の家系が在った。
霊山家。
こと、畏霊を封印すると言う点に置いては右に出るものは無く、異形異常を封じ込める力を持つ霊山家は、祓ヰ師としては純正として扱われ、一級一流の血筋であると正銘されている。
この家系に生まれるだけで術師としては破格の援助と恩恵、そして術式が会得出来る。この家系に誕生すると言う事は、それだけで選ばれた存在である、と言う事なのだ。
だが、…その少年だけは、祝福される事は無かった。
外部から受け継がれた血、混ざり者として生まれた少年は、穢れた血を持つ望まれぬ子供として扱われた。
忌避と蔑如、存在する事が汚点とされ、迫害と暴力によって生きている事を疎まれた少年は、それでも、この家に生まれた事を誇りに思っていた。
自分も何時かは立派な祓ヰ師となり、大切な人を守るのだと、子供ながらに夢想した。
しかし、それは夢でしかない、妄想でしかない。成長を遂げるにつれて、自分の無能さが露見していく。
十五になった時。少年は、身分相応を知る。
「本日を以て貴様を勘当する」
老獪の険しい声が響き、睥睨する視線を少年に向ける。
少年…仁衛は、その老人の前に立ち、ただ静かにその決定を受け入れる。
「貴様の様な忌むべき血筋を継ぐ醜鬼を養っていたが、最早十五の歳だ。その歳になっても術式を習得出来なかった以上、貴様には霊山の名を与える事は無い」
霊山家に生まれながら、仁衛はその名を継がれなかった。
継ぐ事は許されなかった、の方が正しいかも知れないが…仁衛は、曽祖父であり、現当主である
「まあ、仕方が無いっすね。俺、妾の子だし」
その言葉は諦観に浸っていた。
努力を続けても、彼はその権利を得る事が出来なかった。
半ば自暴自棄な状態になっているかも知れない、少なくとも、他の人間には、その様な哀愁さが見て取れた。
「では…俺はもう不要と言う事ですか?」
仁衛は聞く。
不要と判断され、勘当されたのならば、この屋敷に居る事は出来ないだろう。
ならば、このまま裸一貫で外に放り出されるのかと、仁衛は思い、血の繋がる他人に聞く。
「だが…貴様の様な無価値な存在だが、その身柄を引き取っても良いと言う数奇者が居る。多量の金を詰んだので、契約を結んでやったわ。能無しが、最後の最後で役に立ったな」
嘲笑が如き声を漏らす。
仁衛はその声を受け入れる様に、霊山蘭の言葉に頷いた。
「…分かった。俺も、此処に未練はない。あるとすれば…俺の友達くらいだけどさ」
友人。
仁衛が、この土地周辺に存在する同じ祓ヰ師としての家系を持つ子供たち。
身内から批難されていた彼が、大切にして来た掛け替えのない存在との別れは、惜しいと思っていた。
せめて、別れの言葉の一つでもと思ったが、そうはいかないらしい。
「ふん、何が友達だ。貴様の様な能無しが、好かれる筈が無い。分相応を弁えろ痴れ者めが」
その様な侮蔑の言葉を投げ捨てて…霊山蘭は顎で人を指す。
仁衛の後ろに居た従士らが、彼の両腕を掴み拘束すると共に、ポケットから手帳を取り出す。
「貴様は最早、祓ヰ師には成れぬ。今まで築き上げたコネクションも無意味、貴様だけが思っている、その友人とやらに連絡をしてみろ。重罰を加えてやる」
手帳には、仁衛の親しい友人の電話番号が書かれている。
現代において死活問題となる携帯端末は、仁衛には渡されなかった。
だから、手帳が無ければ友人との電話番号を知る事も出来ない。
「さて…最早目障りだ。さっさと消え失せろ恥晒しめが」
仁衛を掴む従士が、彼を連れて外へと連れていく。
雨の降る外に、傘も与えずに、必要最低限な荷物と必要最低限な金銭を投げ捨て、仁衛も共に地面に叩き付ける。
泥が跳ねて、衣服が土色と変わる。
雨に濡れる彼はゆっくりと顔を上げた。
「ようやく無能者の追放か」
「清々するな、不純物が消えて純化されると言うものは」
「さっさと失せろ穢れた血めが」
仁衛は顔を上げる。
泥に汚れた仁衛は、屋根で雨を回避する従士の二人を見詰める。
口元が歪んで笑みを浮かべる彼らを見ながら、長峡仁衛は頷きながら、了承する。
「…失せます、けども。」
最後に、どうか、これだけは伝えてくれる様に願いながら。
「小綿に、宜しくと言って置いて下さい…俺の、大切な家族だから」
「フン…あの娘も貴様に愛想を尽かせておる筈だ。既に貴様は、霊山家では無いのだからなッ」
男の吐き捨てた言い方に、長峡仁衛は口を紡いだ。
長峡仁衛にとって、辛い環境下の中で過ごす事が出来たのは、紛れも無い彼女のお蔭なのだから。
「では」
それだけを最後に、仁衛は立ち上がる。
水溜まりに濡れたバッグを持ち上げて、肩に背負う。
「待て」
男が、長峡仁衛を呼び止める。
背後を振り向くと、男は長峡仁衛を俯瞰しながら、ニヤついた笑みを浮かべる。
「今まで世話になった家に、感謝の言葉は無いのか?なんと言う無礼な人間だ、立場を弁えない、恩を仇で返すようなクズとはなぁ…」
その言葉に、長峡仁衛は、屋敷に向かって頭を下げた。
「今まで…ありがとうございました」
頭を下げ続け、顔を挙げた時には、既に術師たちの姿は無かった。
「(これが、最後か)」
冷たい雨に濡れながら、仁衛は歩き出す。
彼を買ってくれたと言う人物の元へと、荷物を持って、仁衛は向かい出した。
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