第3部 第9話 マカの・・・失言?

〖ナオ〗


翌朝、2台のハンヴィーに分乗してサウラタを出発した僕達は、まずはアイロガ王国の王都オリハガーダを目指して、を西に移動していた。


先頭は一条いちじょうさんの運転するTOW搭載のハンヴィー、もう一度言うけど、ここは街道・・・危険な魔物が出るとか、山賊や野盗が出るとかの情報は一切なかったから、かなりの過剰戦力だ。


僕は救急車ハンヴィーのハンドルを握って、その後を追いかけている。助手席にはライフルケースを抱えた早乙女さおとめさんが座っている。


「そういえば王さま、昨夜ゆうべ綾女あやめちゃんに聞いたんだけど、水の精霊に『』とかいうのに気を付けろって言われたんだって? 」


「・・・・・・」


あれっ、珍しいな・・・マカの反応がない


てっきりマカが何か答えるのだと思って、前を行くハンヴィーのテールを眺めてながら運転に集中していた僕は・・・ふと、昨夜のマカとの約束を思い出した。


は絶対に出てこないと約束しよう〗


ああ、そうだった・・・ゴメン。


「あれっ? 王様・・・どうしたの?」


「ごめん、早乙女さおとめさん。そういえばマカ、今日の午前中は・・・寝てるって言ってたんだった」


「そっか、?」


違う、早乙女さおとめさんはで言ってない・・・

それが分っているのに、僕は昨夜の事を思い出していた。


「あれっ・・・長谷川っち、どうしたの?」


「い、いや・・・別に、どうもしないよ」


「どうもしないって、長谷川っちの顔とんでもなく赤いよ・・・大丈夫? 運転代ろうか?」


「いや、何も・・・じゃなくて、なんともないから。大丈夫だから」


「そう? いつでも代わるから言ってね」





僕達は西の国境を越え、お昼過ぎにはイサーダの街に辿り着くことができた。


さて、イサーダのギルドにも顔だけは出さないと。


「すみません、カリキュレーターの皆様。中央ギルド長ボーダンより伝言が入っています。『急ぎ相談したい事があるので、王都オリハガーダの中央ギルドには必ず顔を出して欲しい』とのことです」


「わかりました・・・このまま王都に向かいます」


「ありがとうございます。ありがとうございます。本当にありがとうございます」


何度も頭を下げる職員さんに見送られながら、僕達はイサーダの街を後にした。




結局、僕の体調を心配した早乙女さおとめさんに、午後からはハンヴィーの運転を代わってもらっている。まあ、せっかく代わってくれたんだ、助手席で大人しく・・・


「そういえば長谷川っち、王さまって?」


「ああ、私なら起きている・・・早乙女さおとめ殿、どうかしたのかな?」


「えっとね、昨夜ゆうべ綾女あやめちゃんに聞いた『まだらのガリガリ』とかいうの、アレがよく解んなくて。例えばパタパタより大きいとか、どんな形とか、もう少し具体的な事ってわかんないのかな?」


「すまないが・・・ザーから受け取ったイメージがあまりに曖昧で、私にもよくわからないんだ。おそらくあの『パタパタ』よりはかなり危険ではないかな・・・」


「パタパタより危険かぁ・・・悪いんだけどパタパタって、ルゼル湖で見たネバネバの・・・チチチだっけ? あれに比べると、あんまり怖く感じないというか・・・」


「そうなのか?」


そもそも僕も(たぶんマカも)あのパタパタが襲ってきた時、この車の後ろでドワーフの子供達と隠れていたので音しか聞いてないんだ。


「だって、普通に銃が効くでしょ? M4カービンや指向性対人地雷クレイモアで十分対応可能だった」


「いやいや確かに銃は効いたが、闇の中で音を立てずに集団で襲撃してくるんだ、そういう点では結構厄介な相手だぞ」


「そうなんだけど、サーチライトや照明弾を使うだけでパタパタの危険性が一気に下がる気がする・・・あっ」


「どうした・・・早乙女さおとめ殿?」


「忘れてた・・・せっかくスターライトスコープ見つけたのに、まだ試して無い」


「スターライト・・・確か星の光でも周囲が見える機械だと前にサキ殿が言っていたな。君達の世界には本当に便利なモノがあるんだな」


「さすがに一般的じゃ無いけどね。こんなモノを使うのは軍か警察の特殊部隊、あとは野生動物の観察?」


「なるほど軍か警察か・・・そういえば早乙女さおとめ殿、私も君達に頼みたいことがあったんだ」


「王さまから私達に頼み? 何だろ・・・ちょっと緊張するかも」


「そんな大したことじゃないよ。と思ってね」


マカの言葉を聞いた早乙女さおとめさんが、呆然とした顔でこちらを見ていた。


早乙女さおとめさん、お願い、前見て、前」


ひどく慌てたに一応は前を向いてくれたものの、今度は無線でとんでもないことをに呼びかけ始めた。


「えっと・・・緊急事態発生エマージェンシー緊急事態発生エマージェンシー、みんなよく聞いて・・・たった今、(ミリタリーの)布教対象を発見した」


目の前を走っているハンヴィーのブレーキランプがいきなり点灯、その場に急停車したため、早乙女さおとめさんも慌てて車を止めて、そのまま無線を続ける。


布教対象ターゲットは王さま、繰り返す、布教対象ターゲットは王さま。次の休憩場所ポイントで我々全員による懇切丁寧な説明レクチャーを希望する。 オーバー」


『了解、椿グッジョブ。誰かと思ったけど、なるほどマカさんね・・・納得だわ・・・オーバー』


前のハンヴィーが再び動き始め、早乙女さおとめさんのハンヴィーが後に続く、


早乙女さおとめ殿、今の無線は私が銃の扱いを覚える事に関してだよな?  私は水の精霊を信仰しているので、他の宗教への勧誘は困るのだが」


「大丈夫、そういうのじゃ無いから。その辺もキッチリ説明レクチャーするから安心して」





そうして今、マカはミリオタ4人に囲まれている。


「ようこそマカさん、ミリタリーこっちの世界に興味を持ってもらえてうれしいわ」


「すまないがそんな大したことじゃないんだ。サキ殿達があのクソ野郎のオモチャを楽しそうに使っているのを見て、ちょっと自分でも使ってみようかと思った、それだけだよ」


「きっかけなんてそれで十分よ、

さてみんな、マカさんにはどの銃から憶えて貰うのが良いと思う?」


「まずは拳銃ハンドガンと言いたいけど、これからパタパタの襲って来るサーサンタに行くんだろ? マカ王にはパタパタにも有効なカービンかサブマシンガンのどちらかをずっと持ってもらった方がよくないか?」


「でも真輝まき、確かに火力は必要だと思うけど、マカ王さまに戦闘で前に出て貰うわけにはいかないわ。それならいっそ支援火器から憶えてもらうのはどうかしら?」


綾女あやめちゃん、重たい支援火器を長谷川っちに担がせるのは無理だよ。 そうなると後衛のスナイパー一択だね」


「あら椿つばき、マカ王さまにはストレージがあるのよ、どんな重火器でも持ち運べるわよ」


「確かに持ち運ぶのは大丈夫、でも設置や操作に使う筋力が圧倒的に足りない」


「それもそうね、ところで、マカ王さまはご自身で使ってみたい銃とか、何かご希望はありますか?」


「すまない、色々と提案してもらったが、まずは皆が一番良く使っているM4カービンで良いと思う」


「まあ、基本よね。それじゃあM4カービンから始めましょうか」


「あとこれは・・・すぐに覚えたいというわけではないのだが、できれば甲殻竜の時に使った・・・」


「えっ、M4からいきなりTOWミサイルに行っちゃうの?」


「いや、そっちじゃない。甲殻竜の通り道に埋めたプラスティック爆薬C4の方だ、あんな風に事前に仕掛けておいて遠隔で爆発させられる、出来ればああいうモノの扱いを憶えてみたいのだ」


「そういえばサキちゃん、甲殻竜にC4使ったんだっけ? ぶっつけ本番であんなモノよく使えたね」


「ははは、ちゃんと爆発するか内心ビクビクだったけどね」


「もし爆発しなかったら、どうなってたんだろ?」


「それは大丈夫でしょ、あの甲殻竜って通るルートが決まっていて、移動速度もゆっくりなんだよ。もし爆発に失敗しても、長谷川さんに色々と出してもらって最終的に物量で押し切れたはずよ」


「僕にはサキさんが自信満々で使ってたみたいに見えてたよ」


「あれから、獣人さんの街に行く途中ではダイナマイトを使ったし、ギワノの風穴かざあなではC4で風穴かざあなを埋めたりと、私も色々と経験を積んだからマカさんにはきっちり教えてあげられるよ」


「それは頼もしいな。だが、まずはM4カービンの扱いを憶えるとするよ、よろしく頼む」









※スターライトスコープ、第2部 第30話で見つけています。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る