第7話 呪姫

 誰も触れる事が出来ない影の様な呪いに包まれた呪姫様

 なんとなく悲しそうに見えて、思わず手を伸ばしたんだけど。


 「あれ?」


 伸ばした右手に人の肌の柔らかい感触がある


 「お主、何をしておるのだ、なぜ触れる?」


 焦って聞こえる、呪姫様の声。


 「いや、失礼しました」あわてて手を引っ込める。


 「ちっ、違うのじゃ、すまぬがもう一度手を伸ばしてくれるか?」


 「はい、では失礼して」


 おそるおそる手を伸ばす、やはり普通に手の平に肌の感触がする。


 「今、普通にさわってますね?」


 「ああ、れられているな・・・」


 「どういう事でしょうか?」


 「すまぬが、そちらから見て右の方に触る場所を

  変えてもらってもよいかな?」


 「はい、わかりました」


徐々に触る場所を右にずらせる、多分右腕に触れたから、てのひらの方かな?


細い手首に触れる。


そして、僕の手は呪姫さまの掌に辿り着いた。


「わらわの・・・てのひらに暖かい感触を感じる・・・・」


そこに、あの目つきの悪い男が帰って来た。

 

「お待たせいたしました、主人設定の準備が・・・あんた一体なにを?」


影に包まれた呪姫さまに手を伸ばす、変な男かな?


「グラムよ、少しの間、客間を1つ貸してくれぬか? 

 もしかすると、この呪いが解けるやもしれない」


「呪姫様、直に準備しますので少々お待ち頂けますか?」





呪姫さまと2人、客間に通された。

ちなみに、僕の右手は呪姫様に掴まれたままになっている。


「すまぬが、グラム。この部屋にしばらく人を近づけない様に頼む」

「承知しました、お任せください」





部屋で影に包まれた呪姫様と二人っきり


「あの、僕は何をしたら良いですか?」


「ああ、すまんな、おぬしは?」


長谷川直弥はせがわ なおやです」


「ナオ・・ヤか、どうやら、お主の手が触れた部分の呪いが解けている様なんじゃ」


「そうなんですか?」


「それで、今、わらわが掴んでいる、この手でじゃが・・・」


掴まれている感触はあるな


「はい」


「この手で、わらわのを触ってもらえば、

 もしかすると呪いが解けるかもしれぬのじゃが、

 この呪いを受けたのは千年以上前になる」


「そんなに前の呪いだったんですか」


「ああ、それに感触も無いから、この影の下がどうなっているか、

 わらわにもわからんのじゃ」


「そうなんですね」


「なので、影の下には老婆になったわらわか、ミイラか白骨か、

 もしかすると別の生き物に変えられたわらわか・・・

 すまんが人前に晒すのが怖くてな、部屋を用意してもらったのじゃ」


「納得しました」


「ナオには醜いモノを見せる事になるやも知れぬ、

 先に謝っておくよ」


手を握っている感じだと、しっとりした綺麗な手だと思うけど・・・


そうして、僕は、呪姫さまの呪いを解く為に、呪姫様の手に引かれるままに

呪姫さまに触れていったのだけど・・・


「あっ・・・」「うっ・・・・・」「はぁ はぁ あああ・・」


そうだった、呪姫様のを触るんだった・・・・





僕の目の前にある寝台の上に、金髪で細長く尖った形状の耳を持った白い肌の美女が

シーツにくるまって、息も絶え絶えに倒れている。


「この状況で『僕は無実です』って言っても、誰も信じてくれないだろうな」


結果的に影は完全に無くなっていた。


しかし、大変だった。呪姫様の手足に触れて、影が取り除かれた後には

白い肌しか見えなかった。


それからは、必死に目を閉じていたんだが。

およそ千年の間外気にさえ触れていなかった皮膚は非常に敏感になっていて、

呪姫さまが、自分の身体のを触っても強烈な刺激になったらしい。


右手は呪姫様に掴まれたままで、耳を塞ぐ事もできない。


呪姫さまの、悩ましい声と手の甲の感触が僕の神経のいけない所を焼き続けた。


全てが終わった後も、呪姫様は僕の手を放さなかった。

手を放せば、影が戻ってくるかもしれないという、恐怖感が拭えなかったらしい。


呪姫様に、やっと手を放して貰えたのは、

この部屋に来てから3時間がすぎてからだった。





あの後、目つきの悪いグラムさんに声をかけて、呪姫様の服を用意してもらうよう

お願いして、やっと外にでました。


僕は、応接室に戻って、キーラと一緒にグラムさんを待つ。



そうこうするうちに、グラムさんと呪姫様が部屋に入ってきた。


呪姫様、どこから持ってきたのか、古代ローマのトーガみたいな服を着ているな。


「良くわからないが、千年以上解けなかった呪姫様の呪いを

 あんたが解いたみたいだな」


 「そもそも、なんで呪姫様はあそこにいたんですか」


 「ああ、それか。呪いを掛けられて数百年過ぎたあたりから

 人に会うのも辛くなってな、色々な所を間借りしておったのじゃ」


 「知ってる、呪姫様、辛い子を元気付けようとしていた」


 「すまんな、わからない事を考えてもしょうがない、

  とっとと、あんたの主人設定をやってしまおう」


 「よろしくお願いします」


 キーラの喉の下あたりにペタンと10cm位の赤いスタンプが押される、

 それが乾くのを待ってから。


 「あんたは、このスタンプを押した部分に右手を置いてくれ」

 「はい」いわれたとおり手を置く


 「奴隷商人、グラム・ベンハムの名において主人設定を行う」

 掌が熱くなってきた


 「なんか、すごい、身体熱い」キーラの全身が汗でびっしょりになっている。


 「これで、主人設定は完了した」


 「キーラ、これからよろしくね」


 「うん、キーラの全部、ナオの物」


 「そうだね、確かにキーラのする事のだね、

  でもその言い方はやめてもらってもいいかな?」


 「では、グラムさんでしたか、ありがとうございます」


 金貨を5枚払って、礼を言う。


 「いや、こちらこそ呪姫様がこれで自由になったかと思うとうれしいよ」

  いや、目つきは悪いけど、いい人じゃないか


 「ああ、それとギルド証に所有奴隷としてキーラの名前が入っているはずだから

  あとで確認しておいてくれ」


 「はい、では、これで失礼しますね」「ばいばい、グラム」「さらばだ、グラム」




 ちょっと待ってください・・・

 「すみません、なんで、呪姫様が付いて来るんですか?」


 「いや、せっかく呪いが解けたのじゃから、街を案内してもらおうかと思っての」


 「心中お察ししますが、

  呪姫様の呪いが解けたのが分れば大騒ぎではないんですか?

  あまり目立つのは困りますので、

  正直少し距離を置かせてもらいたいのですが」


 「いいではないか、千年ぶりの街なんじゃぞ」


 「いいえ、ダメです。これからキーラに必要なものを

  揃えにいかないといけませんし」


 あれ? 呪姫様が唖然とした顔をしている。


 「若いの、すまないがすぐに、お主のギルドカードを確認してくれぬか?」


 あれ、なにかあったな


 「はい、これです」ポケットから出して見せる。


  ナオ(長谷川直弥) 冒険者ランクF

  所有奴隷 )、キーラ(一般奴隷)


「わらわとお主の間に、奴隷の主人設定がされておるぞ」


「グラムさん、すぐに解放をお願いします」


「すまないが、特殊奴隷なんて初めて聞いた。これ解放できるのか?」


「お願いです、やってください」


「ちょっと待ってください、準備します」


しばらくすると、グラムさんが黒いスタンプを持ってやってきた。


「呪姫さま、失礼します」「うむ」


呪姫ののどの下に黒いスタンプを押す、それが乾くのをまって

「奴隷商人、グラム・ベンハムの名において主人設定の解放を行う」


  バシュッ


「弾かれましたね、ダメです解放できません」


「どうしましょう?」


「残念ですが、連れて行くしかありませんね」とグラムさん


「グラムさん、そうなんですか」


「奴隷の衣食住の保障が出来ないと規約違反になりかねないんだ

 犯罪奴隷なら主人を変更出来るがそれも不可能なようだ。

 すみませんが連れて行くしかないですね」


 キーラがしがみついてきた

 「ナオ、捨てないで」

 

 呪姫様がわざとらしく、しがみついてきた

 「ナオ、わらわを捨てるのか?」


呪姫様、わざとやっているでしょう


「僕はまだランクFの冒険者です贅沢なんてさせられないですよ」


こうして、僕の所にキーラと呪姫様が来ることになった。

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