合流
合流
Kちゃんと嫁の動向について調査することを決めた。
後日、Kちゃんと喫茶店で落ち合うことにした。もちろん、嫁が仕事に行っている時間を見計らって家を出た。約束の時間より15分早くついてしまった。手頃な喫茶店を探して街を歩いていると昔から佇んでいるような古い喫茶店を見つけた。チェーン店よりも古い喫茶店の方が温かみがあって個人的にはすごく好みだった。他に店もなさそうだったのでこの店に決めた。店内の床はワックスを丁寧に塗られ降り注ぐ光を強く反射していた。俺の履いていた革靴の靴底をも弾き返すように歩くたびこつっこつっと高い音で俺を迎えた。テーブル席しかない店内の奥の棚には古い漫画雑誌やもう完結したコメディ漫画、昭和の時代に流行した不良漫画が丁寧に並べられていた。店主らしき白髪の男が現れ「煙草は吸うのかい?」と尋ねてくる。見たところ70代くらいで銀色のきらきらしたフレームに牛乳瓶の底のように分厚いレンズを無理やりはめ込んだようなメガネをかけていた。俺が「吸います」と答えるとその男は「あの席に座って」と例の棚の隣の席を指差した。会釈をして席に座る。椅子は黒の革張りで少し低いがそのふかふかとした座り心地に優雅な気分を覚える。テーブルは木でできているが真ん中の部分だけはガラス張りになっており、中には店主が集めたであろう船の模型が3つほど並べられていた。店主が灰皿を机に置いて「何飲む?」とぶっきらぼうに訪ねてきた。「アイスコーヒーをひとつ、砂糖、ミルクはなしで」と俺も少し愛想悪く答えた。店主は「はいよ」とメモをとり奥のキッチンへと向かった。俺は煙草に火をつけ一休み。この時間が人生の中で1番幸せだと感じる。誰にも邪魔されず、煙を吸って吐く。この動作がやけに落ち着くのはきっと俺が重度のニコチン中毒だからだろう。スマートフォンを取り出しKちゃんに店名と住所が書かれたURLを送る。するとすぐに返事が届いた。「――了解です。あと、10分くらいで到着する――」と書いてある。俺はスマートフォンをしまって、ニコチン補給に専念した。
Kちゃんが到着する頃にはアイスコーヒーが届き2本目の煙草に火をつけていた。すると店の入口のベルが鳴る。Kちゃんが奥の席に座る俺を見つけ「おまたせ」と笑顔を浮かべながら手を振る。付き合いたてのカップルのようで俺は少しどきどきしていた。Kちゃんは席に着くなりメニューを開き店主を呼びつける。「アイスティーください」とKちゃんが伝えると店主は「はいよ」とまた、ぶっきらぼうに答えた。この店主の雑な様子を見ていると映画のワンシーンに入り込んだような気持ちになりカッコつけたくなるものだ。俺は煙草を吸いながらおもむろに足を組んでみる。うん、なんだか様になっている気がする。Kちゃんが口を開く。「こんなお店よく見つけたね。すごい雰囲気ある」
「俺はこういう古い感じの喫茶店が好きなんだ。なんだか気持ちが落ち着く」と答えると背伸びしたい俺の気持ちを見透かしたようにKちゃんが「へぇー。そうなんだ」と軽く流した。俺は少しかっこつけすぎたかなと反省しながら本題を切り出した。「例の写真を撮ったのはKちゃんなの?」と俺はまず、疑問に思っていたことを口にした。すると、Kちゃんは「そう」と頷きながら答えた。続け様に「私最近、あの写真のクラブでバイトしてるの。彼氏にも伝えてないんだけど給料いいし。それで先週バイトしてたら嫁に似てる人見つけちゃって……。もしやと思って写真を撮っておいたの」と詳細を語った。頭の中でガールズバーとクラブのバイトを掛け持ちってどんだけ酒好きなんだよとツッコミを入れた。Kちゃんの体力は無限にあるのか?と疑問を抱きながら本題に話を戻す。「じゃあ、次のKちゃんの出勤日に俺もそのクラブに行く。現場を抑えられなかったら俺はもう今回のことは忘れるよ」と伝えるとKちゃんは「そんなにあっさりでいいの?不倫かもしれないのに」と目を見開き驚いた表情で俺を見つめる。
「他の男と遊んでようが構わないよ。ただ本当のことが知りたいだけ。でも、しつこく付け回す気もない」と俺は答える。夢の中の俺は何か冷めている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます