第15話 侵略戦争その2


 王国軍に散々夜襲を仕掛けたあと、グラハムはロイアと別れ後詰の帝国軍本隊と合流した。


「グラハム、ご苦労。首尾は上々だときいていおる。よくやってくれた」

 馬にまたがり鎧を着こんだコーデリアはご機嫌なようすでグラハムに声をかける。


「ありがとうございます、陛下。王国軍は予定通りに士気が下がっております。あとは作戦通りに」

 

「うむ! そなたはそこでゆっくりとみておるがよい、必ず予が王国軍を撃退してみせよう!」


 カーク伯爵領都が遠くに見えるこの平原で帝国軍と王国軍は対峙した。

 

 それぞれ旗が翻るなか、ひと際大きく目立つのが帝国皇帝の旗だ。

 緋色の下地に金糸で帝国の紋章が描かれた旗は、この戦場に皇帝が出陣していると大きく誇示している。

 その旗を見て帝国軍の士気は最高潮に達している。すでに兵士たちへの演説も終わりあとは王国とぶつかるだけだ。


 コーデリアは味方の士気の上がり具合を見て勝利の確信を深めていた。



「陛下、くれぐれも前にですぎませんように。流れ矢が飛んでくる可能性があります」

 コーデリアのそばに控えていたクリスが気遣げにいった。


「わかっておる。ここで無理する気はない。安心せよ!」

 それを聞いたコーデリアは、鼻歌を歌わんばかりに上機嫌のままだ。正面の王国軍をじっと眺めている。

 

 コーデリアの横にいるクリスも鎧を着て馬にまたがっている。

 グラハムはクリスが戦場にでるとは思っていなかったので、クリスの様子をまじまじと見つめる。

 着ているのは動きやすさを優先とした皮鎧だったが、着慣れているのか自然に様になっていた。

 

「…どうかしたのですか? グラハム様」

 視線に気が付いたクリスが首を傾ける。

 

「いや、クリスも戦場に出るのだと思ってな」


「グラハム様のところへ行く前は、陛下のお供で出ることが多かったですよ。…盗賊狩りとか?」


「帝国の皇帝が盗賊狩りするのか…」

 グラハムは、破天荒な皇帝の姿に衝撃を受ける。

 

「さすがに皇帝になったあとはしていないぞ、ただの皇女であった時だ。こういうことは机の上だけではなく実践を繰り返しやらねばならんからな」

 コーデリアは不遜な笑みを浮かべて口を開く。

 

 帝国と王国は平原でにらみ合っている。兵数はおおよそ同数だ。

 帝国はほぼ全軍に近い数だが、王国は王都の守りにも兵を割いているため、帝国と王国の動員兵力差はほぼ倍だろう。

 動員勢力の違いは国力の差でもある。

 

 帝国と王国、被害が同数であれば王国が地力で勝利するだろう。王国が必要なことは負けないことである。

 逆に帝国はここで何としても勝利を呼び込み、この先の戦いを有利に進めなければならない。

 

 コーデリアは胸を張り全軍に命令を下す。

「すべては帝国の宿願を果たすため。この地を得られれば民たちが今後飢えに苦しまずにすむ。断じてここで失敗するわけにはいかん」

 

「いくぞ! 皆の者前進せよ!!」


 後ろに控える幕僚が復唱して合図を出す。前進の合図のラッパが戦場に響きわたった。

 

 ゆっくりと両軍が近づき、弓合戦が始まる。両軍とも盾を頭上に掲げてさらに近づき、剣を振り上げさらなる戦いが始まった。

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