第14話

「と、言うわけでここが今日から君の部屋だ!!」

「……えぇ」


なんだかんだでサン男爵家の養子になる事が決まって早数日。

街のみんなに髪飾りのお礼を言い、大量の『オネーちゃんおめでとう!!』の横断幕に背を押され教会から少ない持ち物を持ってサン男爵家に来たは良いものの……


「すっごいピンク!!」


ロイズに自信満々に通されたオネー専用部屋は家具、壁紙に至る全てが目に痛いピンク一色で統一されていた。


ラブホか!!


内心でそんなツッコミを入れつつ苦笑いするオネーの肩にウェンディも苦笑いで手を置く。


「ごめんなさいねオネーちゃん、この人ったら張り切りすぎちゃったみたいで……私も流石にこれはどうかと思ったんだけど」

「い、いえ!!これはこれで……その……はい、嬉しいです」

「ダメよ!!オネーちゃん!!嫌な時は嫌って素直に言わないと!!今日からは家族なんだからね」

「そ、そんなにダメだろうか?」

「いや~……いや~……う~ん」

「ごめんなさいね?この人、男兄弟しか居なかったから女の子の部屋がわからないみたいで」


(それはアタシもなんですけどね!!)


こんななりをしているがオネーも前世はオネエとは言え男だったので女子の部屋と言うものにそこまで理解はないのだ。


「で、でもこのクローゼットとかは可愛…」


フォローすべく開けたクローゼットの中には大量のハートマークが描かれており…


「ラブホか!!」

「オネーちゃん?」

「あ、いえ、何でもないです」


って言うか流石にここまでくるとラブホでも中々ないクオリティではなかろうか?

あったとしても何年前…考えるのはよそう。


「むむむむ…難しいものだな」

「オネーちゃん、本音で話しましょう!!これが家族への第一歩よ!!」


ウェンディの後押しがすごい。

確かにここで暮らす事を考えると目が痛い。痛すぎる。


「で、出来れば壁紙は白か薄い水色が良いかなって……」

「わかった!!爺!!」

「はっ」


後ろにはいつの間にかリクエスト通りの色の壁紙を持ったシツ爺が待機していた。


(マジでこのご老人、何者なのかしら)


結局オネーの部屋の壁紙は淡い水色に決まり、張り替えている間は男爵家の面々とお茶をして待つ事になった。


「いや~すまないね、どうにも空回りしていたようで」

「い、いえ!!アタシのことを思っての事だとわかりますので!!寧ろそこまで考えて下さってて嬉しいです」

「オネーちゃん……本当に良い子ね!!可愛いわぁ~」


ウェンディがここぞとばかりにハグしながら頭を撫でてくれるのだが馬車に乗っている時からずっと撫でられているのでいい加減頭皮へのダメージが心配になってくる。

幸せハゲになってしまいそうだ。

そんな時にクイクイと袖を引っ張られ、何事かと見るとそこにはオネーを見上げるルーナがいた。


「オネーちゃん…お姉様!!わからない事があったら僕に聞いてね!!」

「ぐっ!!……えぇ、お願いね」


改めて美少年にお姉様と呼ばれるのは心臓に悪い。

特に子犬のような瞳で見上げながら言うのは反則ではないか?可愛いね❤️もっと言って❤️

無意識にオネーもルーナの頭を撫でる。

フワフワとした毛の感触が心地良い。

意図せずウェンディに撫でられるオネーとオネーに撫でられるルーナと言う構図が出来上がり、それをチラチラと羨ましそうに見つめるロイズに3人で吹き出す。


「えぇい、除け者は寂しいではないか!!」


少し顔を赤くしたロイズがヤケとばかりに3人ごと抱きしめて順番に頭を撫で無事決着した。


(あぁ、幸せだわ……これならハゲても……いや、それは出来れば遠慮するべき?)


「皆様、お茶が入り…ブフッ…お茶が入りました」


普段は鉄仮面のように表情が変わらないメイドがプルプルと震えながら給仕してくれる。

俯いていてよくわからないがニヤニヤしているのだけはわかる。


「よいしょ」

「ブフォッ」


なんとなく3人を抱きしめているロイズの頭を撫でてみると、今度こそメイドは吹き出してしまった。


「お、お嬢様…おやめくださ…ブフッ」

「混ざる?」

「い、いえ…フッ、フフッ」


メイドの笑いのツボの浅さを確認したところで4人でお茶に口をつける。

その頃にはメイドはいつもの表情に戻っていた。

流石の切り替えスピードと言った所か。


「さて、と!!やっと一息つけたわね。オネーちゃんはどう?改めて何か必要なものは無いかしら?」

「う~ん、特には思いつきませんわ……」

「ならお洋服はどうかしら?この日の為にたくさん用意しておいたのよ!!色々着てみない?」

「いいの!?…ですか?」

「ふふっ、無理して口調を変える必要はないのよ?少なくともここではね。あっ、あとお洋服は私が選んだから心配しないでね」

「お、おい」

「メイド長」

「こちらに」


ウェンディが手を一つ叩き、メイドを呼ぶといつのまにか鉄仮面のメイドは抱え切らんばかりの洋服を持って立っていた。


この世界の使用人はもしかしたら本当に瞬間移動を使えるのかもしれない。


「どれも可愛いでしょう?きっと良く似合うわ!!」

「わぁ~!!……でもなんか、やけにサイズがピッタリなんですが」

「そこは、ねぇ?メイド長?」

「はい、奥様のお望みとあらば巻尺など使わずとも一目で採寸は可能でございます」


すげぇ!!流石メイド長!!

と言いつつもメイド長も何処か得意げだ。

……鉄仮面のままだけど。


「さぁさぁ!!早速着てみてちょうだい!!メイド長!!」

「はっ」

「え、ちょ…」


そうしてオネーは問答無用で別室に連れ去られ、瞬く間にドレスアップされた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~


「まぁ~!!本当に良く似合うわぁ!!」

「はい、流石はお嬢様。良くお似合いです」

「は、はぁ」

「今回はあくまでも着やすさを重視し、コルセットを使用しないゆったりとしたドレスをお選び致しました。色はお嬢様の髪色と髪飾りに合わせ、淡いオレンジと黄色をベースにしております。えぇ、えぇ。本当に良くお似合いです……食べてしまいたいぐらいに」

「どうしたの急に」

「流石はメイド長ね」

「恐縮でございます」


……メイド長の視線が急に怖いわ!!

確かに着せてくれてる段階からなんかちょっとおかしいなって思ってたけど!!

可愛いものが好きなだけよね?そうよね!?


「うむ、良く似合っているなぁ……ルーナもそう思うだろう?」

「う、うん!!可愛いよお姉様!!」


可愛いのはお前じゃい!!と突っ込もうとしたところで普段慣れないヒールに躓いてしまった。


「おっとと」

「ご無事ですか?」

「あ、ありがとうメイド長」

「いえ」


メイド長は目にも止まらない速さでオネーを後ろから抱き留めてくれる。


ほら、やっぱり仕事熱心なだけの良い人なんだわ!!


「……ッスゥーーーーー」

「メイド長?」

「スゥーーーーー……ッハァーーーー」

「メイド長!?」


吸ってない!?通りで首筋が寒くなったり生温い風が当たったりするわけだわ!!

……やっぱりちょっと変な人かもしれないわ。


「め、メイド長!!もう大丈夫よ」

「もう少しだけ……いえ、はい。ご無事で何よりです。ご馳走様でした、お嬢様」

「あ、うん、良いのよ…?」

「お前達、何をしているんだ?それよりもほら、西のアイアサイトから取り寄せたカメイル?と言う機械があるのだ。皆で写真とやらを撮ろう。シツ爺」

「はっ、こちらに」


シツ爺が用意したのは三脚の上に握り拳台の黒いレンズのついた四角い箱だった。

見た目と呼び名から恐らくはカメラのようなものだろう。

シツ爺は取り扱い説明書の様な巻物を読みながら箱にインクと紙をセットし、小さな光の魔石をセットした。


「整いました」

「うむ、では皆、カメイルの前に集まってくれ。無論シツ爺もメイド長もだ」

「「はっ」」

「な、なんだかドキドキするね!!お姉様!!」


ルーナとオネーは椅子に座らされ、そこに手を置く様にロイズとウェンディが並び立ち、その後ろにシツ爺とメイド長が待機をする様な構図になった。

タイマーのような機構があるのか、一定時間経つと、カメイルからピーッと言う音がした。

撮影の合図らしい。


「ほら、ルーナ、オネーちゃん、笑って笑って」

「うむ、ではオネーちゃんが家族になった祝いに皆で笑顔の写真を撮ろう!!」

「わかりました!!」


「「「「「「せーのっ!!」」」」」」


パシャリッ


軽く響くような音の後、カメイルは1枚の紙を吐き出した。

そこには幸せそうな一家の姿があった。

朗らかな笑みを浮かべる夫妻に少し緊張気味のルーナ、目を伏せ微笑みを讃える使用人達に囲まれたオネー。


胸が温かくなるようなその写真はオネーがサン一家の仲間入りを果たした宝物になるのだった。

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