化物水

@Nendoll

第1話

むかしむかしあるところに泉があった。その泉は小さく、みすぼらしく、人目のつかないところにあった。ところがその泉は不思議な力を持っていたという。人々に富を与え、傷を癒し、知恵を授ける奇跡の力を。だがそんな都合の良い物がこの世に存在するのだろうか。全てはおとぎ話ではなかろうか。

そんなことを考える暇は男にはなかった。



「身勝手」、自分が子供の頃よく言われた言葉だ。

いつもいつも自分がしたいことを真っ先にやり、周りの人間を振り回して好き勝手やっていた。

今回もそれと同じことだ。自分がやりたいと思ったことをやる、それだけのことだった。ただそれがこの村の禁忌に触れたというだけであって。

生まれた時から母は俺に無関心だった。その時はまだ子供だったから俺は親の興味を引こうと色々やった。

それはどれも文字通り痛い結果に終わったが。

だが妹は違った。母は妹を愛していた。その妹はなぜか俺に懐き、俺を慕っていた。なぜなのかは分からないし知りたいとも思わない。ただなんとなく俺も妹を、ベナを大切に思っていたのかもしれない。

母が死に、妹と二人だけになったがむしろその方が好都合だった。母は金を稼いではいたがそれを自分や妹の服やら何やらに費やしていた。そのため

前より生活は豊かになった。ベナも最初は悲しんでいたが徐々に慣れていった。だがこういう生活は長続きしないものだという事をその時はまだ知らなかった。



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