第3話
女が取り出したのは小さなガラス玉だった。ちょうど親指と人差し指をつなげた程の大きさで、透かせば緑と青空を映し出した奥にきらきらとした光の粒が輝いているのが見える。
女はガラス玉を宙に放った。
緩やかな放物線を辿ったそれは、地面に当たると
不快ではないが、背筋がぴりりと伸びるような畏怖を感じさせる音。誰もが動きを止めずにはいられない空気がその場に満ちた。
雷の衝撃から
女が唇を開いた。
『──
その
雪解けの川のように、途切れることのない女の声が静まり返った空間に染み渡ってゆく。
深く厳かな抑揚で紡がれるトフカ語。それを唱える女の周辺の空気は次第に揺らめき、日の光とは違うわずかな
トフカ語を唱え終えた女が閉ざしていた目を開いた。
薄青色の瞳が、ゆっくりとキツネモドキたちの姿を映し出す。
『……帰りたいのだろう?』
トフカ語で囁くその表情は先ほどまでの女とは異なって見えた。
発する声音は何一つ変わらないはずなのに、まるで別人のような気配を
『道は拓いた、君たちは──”還れる”』
女は地面に膝をつくと、穏やかな表情で両腕を広げてみせる。慈愛の笑みで小さく頷くと、それを見たキツネモドキたちは次々に女の側に駆け寄っていった。
女の
十二体のキツネモドキたち全てが、元いた場所へ、元ある形へと”還って”ゆく。
後に残ったのは穏やかな青空の下、深紅の装束の女と雷に打たれて焦げついた大地だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます