第14話探偵登場1

「なぁ、脂元君の代わりに手伝ってくれないかい?」

山葵山がそう問いかけても、希美はずっと名刺を見つめたまま微動だにしない。

業を煮やした山葵山が肩に手をかけると、キャッと希美は我にかえる。


「はっ、すいません。お手伝いですね!どんな事件の捜査をすれば良いですか?ここで操作してるってことは学校で事件が起こったんですか?殺人事件ですか??まさかの密室ですか!?」

希美は両手で名刺を持ったまま山葵山に詰め寄る。


おっとっと、と山葵山は詰め寄る希美の頭を押さえ落ち着かせる。

「君は何か勘違いをしてるね。そんな事件は警察に任せておけば良いさ。私の仕事はもっと一般の人のために動いてるんだ。」

希美は持っている名刺をもう一度見返し、哀愁の表情と共に尋ねる。


「でも探偵って言えば殺人事件じゃないんですか?警部と知り合いじゃないんですか?」

「それは小説や映画の中だけの話だよ。第一僕は血が苦手なんだ。殺人事件なんてまっぴらごめんだね。」

山葵山は手を振り拒絶を表現する。

希美は残念そうに俯くが、それでも探偵の手伝いという非日常的なことに関われることを嬉しく思う。


「それじゃあ、今はどんな事件を追ってるんですか?」

「追ってるのは事件じゃない。あれを見てくれ。」

そう言いながら山葵山は上を指さす。

希美は指がさす方向を見ると、そこには背中を丸めて警戒している猫がいた。


「まさかあの可愛い猫が、誰かを殺しちゃったんですか?」

「君は殺人から離れてくれないか!あの猫が脱走したから探してほしいって依頼があったんだよ。やっと見つけて捕獲しようとしたんだけど、今度は脂元君が逃げてしまってね。代わりに手伝ってもらえないか?」


「なるほどですね。でもごめんなさい、わたし高いとこが苦手なんです。」

「大丈夫さ、引っ掻かれるかもしれない危ない目に女の子を合わせるわけにはいかない。僕は紳士だからね。君は木の下で少しかがんでくれないか?」


猫が落ちてきたところを捕まえるのかな?でもかがむ必要はあるのかな?と疑問を持ちつつ、希美は指定された場所で前かがみになる。

「よし、じゃあ動かないでね~。」

山葵山はそう言いながら希美の肩に手をかけて丸まった背中に乗ろうとする。


「ちょっちょ、何?」

体重がかかるのを感じた希美は反射的に背中をピンと伸ばす。

すると山葵山は重心と足場がずれて地面に倒れこむ。


「いったいなぁ!動かないでって言ったでしょ!?」

「だって今私を足蹴にしようとしたでしょ!」

「君が高いとこ苦手だって言うから、僕が登るしかないじゃないか。靴は脱いでるから大丈夫だよ。さ、もう一回かがんで。」

「嫌ですよ!どこの紳士が女の子を足蹴に木に登るんですか!靴は脱いでるからとかは関係ないですよ。」

「じゃあどうすれば良いんだ、流石に一人じゃ登れないよ。」


二人が言い争っていると、希美の後ろからちょんちょんと肩をつつかれた。

言い争っている勢いのまま振り返ると、そこにはにんまりとした顔の親友が立っていた。

「琴音、帰ったんじゃなかったの?」

そう尋ねられた琴音は、人差し指を立てて2,3回小刻みに振る。


「なんだか楽しそうな音が聞こえてきたから来ちゃった♪話は聞いてたよ!私高いところ平気だよ!」

「そうかい、それじゃあちょっと手伝ってもらって良いかい?僕が肩車するからあの猫を捕まえて欲しいんだ!」

「ちょっと、紳士は女の子を危ない目に会わせないんじゃなかったの?」

先ほど違う対応に希美は異議を申し立てる。


「だってこんなか弱い女の子に乗って登るわけにはいかないだろう?」

「さっき私を足蹴に登ろうとした人は誰ですか!?」

「何!?そんな非常識な人間がいたのかい、それはひどい!」


「............」

ダメだ。希美は心を落ち着かせる。会話にならない。希美はそう悟った。

確かに琴音はか弱いという言葉が似合う。身長も私より10cm以上低いしお人形さんみたいだ。

私が黙ったとみるや、早く早くと山葵山は琴音の手を引き肩車のためにかがんで準備を始める。


「ちょっとまって、琴音はスカートなんですよ!あなたが肩車して木に登ったら見えちゃうじゃないですか?」

「そうだね。これで希望が見えてきたよ。二人ともありがとう!」

「そんな話してません!スカートの中が見えちゃうじゃないですかって言ってるんです!」



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