砂糖元家のおデブ執事
西園寺 真琴
第1話肥満執事1
世田谷区。東京23区の南西に位置し、南側には多摩川が流れる。
高級住宅地もあるそんな所には、お嬢様と呼ばれる人も少なくない。
砂糖元季美もそんなお嬢様の一人である。
そんなお嬢様には専属の執事がついているのが決まりである。
昔は執事といえば白髪の老紳士をイメージする人も多いだろう。
しかし現在は若いイケメンの執事やジャニーズ系のかわいい執事も出てきているように、執事界も多様になってきている。
季美の家にも、多様化する執事界を代表する若き執事が仕えている。
これはそんなお嬢様と執事の物語である。
「お嬢様、こちら食後のデザートになります。」
希美の前に、ひとくちサイズのケーキが配膳される。
「今日はケーキね、美味しそう♪」
お皿にはチーズケーキやチョコレートケーキ、フルーツケーキなどいろいろな種類のケーキがひとつづつあった。
「あれ?なんでこのケーキだけふたつあるのかな?」
季美はそう言うと、半分にされたミニトマトが乗っているケーキを見つめながら、考えを巡らす。
ミニトマトを半分にして乗せてあるからふたつなのかな?でもフルーツケーキには半分になっているいちごが乗っている。さらにお皿の大きさとケーキの配置に目をやってみる..... 、バランスがおかしい。この量のケーキならひと回り小さいお皿をシェフの塩見さんなら選ぶはず。ケーキの形もおかしい。この形は直角二等辺三角形、この前授業で習ったわ。さっきの半分になったイチゴやミニトマトから考えると正方形のケーキを対角線で切った形になっている。そうか、これはすべてのケーキがふたつずつあったはずなのに、ミニトマトが乗っているケーキ以外はひとつなくなっている。じゃあなんでケーキがなくなってるの?.....そんなの決まってるじゃない。
「では失礼します。食器は後ほど。」
「待ちなさい!」
季美はそう言うと、こっちに来なさいと執事を手招く。
「どうしました?何か嫌いなものでもありました?だめですよ、好き嫌いしちゃ。シェフの塩見さんが栄養も考えて作ってくれたんですから。」
「何言ってるの、好き嫌いがあるのはあなたでしょ?」
季美はミニトマトのケーキを指さす。
「失礼ですよ、食べ物を指さしちゃ。」
「それは人に対して、でしょ!まぁ良いわ。あなた、トマト苦手でしょ?」
「そんなことはありません。トマトは大好きですよ。私はトマトでここまで大きくなったと言っても過言ではありません。」
そういう執事は確かに大きい。
『ここまで大きくなった』というのは親戚の子供に対して『○○ちゃんおおきくなったねぇ』という成長した子供にかける言葉の『大きい』とは違う。ただ大きい。
しかもその『大きい』は身長や器に対するものではなく、その質量に対しての『大きい』である。
希美はそんなとぼけた態度の『大きな』執事にカマをかける。
「そんなに好きならひとつあげる。フォークはいつも持ってるでしょ?」
執事はいつも特注(特別な機能があるとか素材が特別とかではなく、単に規定のサイズがないだけの特注である)のスーツの内ポケットにスプーンとフォークを2セットずつ入れている。
理由は言わずとも分かるだろう。別に感染対策ではない。いつでもどこでも食べられるようにである。
ナイフがないのも分かるだろう。噛みちぎるからである。
2セットあるのも分かるだろう。手が2つあるからである。
「そんな、お嬢様の大切なデザートを執事の私が頂くわけにはいきません。」
「他のケーキは食べたのに?」
「何を言ってるんですか?私がつまみ食いなんてするわけないじゃないですか。」
『大きな』執事は自分が疑われていることに立腹して少し声を荒げる。
この『大きな』執事が立腹するのはめずらしい。その見た目とは裏腹に立腹することはほとんどない。以前ホテルのバイキングに行った時に、「全種類食べるぞ~」と意気込んで最初にカレーを食べすぎて満腹になって「食べたいのに食べられない!」と言った時以来の立腹だ。希美は執事のそんな態度に少し気圧されるが、ここで引き下がったら駄目だと腹をくくり
「じゃあほっぺについてるクリームはどういうことかしら?」
「そんな、さっき確かに拭き取ったはずなのに!」
「ほら食べてるじゃない!ひっかかったわね、クリームなんてついてないよ!」
「くそっ、だましたな!」
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