まるで天使のような
天使のような怪獣が現れた。
全長は50メートルほどでこれまで観測された中ではさほどの大きさではない。
どちらかといえば小さい方だ。
その怪獣は白い大理石でできた女性に鳥類のような羽が生えた容貌で、全身がうっすらと発光しており夜でも周囲を無闇に明るく照らしている。
大船観音寺の大仏が近いかもしれない。
そしてこの天使怪獣はうすく微笑み、ただ立っているだけだ。
当初は怪獣と戦ってくれる正義の味方だという説も有力だったが、街が破壊されようと人間が殺されようとまったく動く気配はなかった。
はっきり言っていてもいなくても一緒だ。
ご近所の方からすれば、遮光カーテンに変えなければ寝不足になる程度の迷惑でしかない。
ところがとある宗教団体が「あれは自分たちの神だ」と言い出したことで事情が変わってきた。
我も我もと新興宗教が自分たちが崇めるのだと騒ぎだし、たちまち天使怪獣の周囲は宗教団体の施設や信者たちで溢れかえった。
実際にそこに神がいるというのは宗教にとってはかなり強いアドバンテージになるのだろう。
どの教団も譲らず、自分たち以外に天使怪獣を崇める教団は邪教だの偽物だのと諍いが絶えなくなった。
怪獣はその様子を相も変わらずうっすらと笑みを湛えて眺めているだけだ。
果たしてあの怪獣は本当にただ立っているだけなのか。なんの目的もないのか?
そんなわけはなかった。
天使怪獣は人間の望みを叶えてくれる。
ただし、その叶えてもらえる願いは一種類だけだ。
お金が欲しい。反応しない。
あいつを殺してほしい。反応しない。
他の怪獣を倒してほしい。反応しない。
「天国に行きたい」
誰かがそう言った時、天使怪獣は手を差し伸べた。
そういった誰かは握りつぶされ、そのまま天使怪獣の中に吸い込まれていった。
彼は天国に行けたのだろうか?
苦痛に満ちたうめき声、骨が砕ける音と共に怪獣に吸い込まれた先に天国があるとは思えない。
だが……今日も天使怪獣の前には天国行きを望む人たちの行列ができている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます