夢をみる時。

わたあめ

一話

「またくるね!」


そういって わたしは あきべやにある ほこりかぶった クローゼットから出てきた


『 きょうも、へんな生きものたちと、

あそびました。うさぎみたいだけど、

あめだまくらい小さくて、

ハートがらをしていました。

ほかにも、いろんな色がたくさんいて、

かわいかったです。いっしょにあそんで、

たのしかったです。』


きょうのにっきに わたしはそう かいた

いつもいつも かいているのに 先生は


『 〇〇ちゃんは

おはなしづくりが上手だねぇ〜』


と、言ってくる

ほんとうなのに、

なんでしんじてくれないんだろう?



あのばしょは お母さんのかたづけの

手つだいをしていた時にしった

それからは、ずっと学校がおわったら

そこに行っている

おうちにいても つまらないもん


クローゼットの中に行くと いつも

たのしそうな曲がきこえる

ゆうえんちみたいな おんがくがきこえる

でも中は きれいな花がさいていて

ピンクと青の木がたくさんある

地めんからは大きなキノコが はえていて

上にのって ピョンピョンできる

たくさん、どうぶつがいて

いつもあそんでくれる


でも、みんな、ちょっとへん

どうぶつえんで こんなの見たことがない


だって、ネコみたいなのは

しっぽじゃなくて 羽があって空をとぶし

イヌみたいなのは体にお花がさいているもん

ほかには ふえラムネの音を出す 、

青くてきれいな小鳥がいる

いつも わたしが来たときに むかえにきてくれる

だから私はいつも ふえラムネをもっていって

マネをしてる


そうやって いつも私の中はキラキラしていた。

ワクワクが止まらなかった。

おとぎ話のようなところは

本当にあるんだと思っていた。




―― 私は大人になった。

あの日、日記を見られた。クラスメイトに。

バカにされた、

先生も止めなかった。

そんなに おかしいことだったのか、?

私は本当の事を言っていただけだった。

夢じゃなかった…


夢じゃなかった(?)



あの日からあの場所へ行かなくなって12年の時が経ち、18になった。

次第にあのおとぎ話のような光景が

頭から消えていった。

まるで、"夢"から覚めて何もかも、

忘れてしまったように。


今年、受験生である。


― 茫然とした不安がうずく。

その感覚に耐えられぬまま、従うように机に向かった。今日は何一つ勉強をしていない。

机には文房具も参考書も開いたあとがない。

ただただ深く息をついては、

ミルキーを頬張っていた。


口の中は、その硬さに疲れ、その甘さで のどの

奥までざらざらと乾いていた。

ゴミ箱にピンクや黄色のペコちゃんが乱雑に

葬られている。

もう、どれくらいの時間が経っただろうか、

そして私は、いつまでその赤い紙製の袋に手を突っ込み、ミルキーを食べ続けるのだろうか?


ゴミ箱から大量のペコちゃんが溢れだしそうなのを目の端で確認した。

さいご、ついに私はからっぽになった赤い袋をこんもりとしたゴミの山へ荒くさし込んだ。

グサッとした勢いで、私が葬ったミルキーのゴミ達が、ガサッと音を立てた。

だが、今回も赤い袋は溢れんばかりのゴミ達に押し返され

ピョンっと、跳ね返って出てきてしまった。

、、、いい加減 学べばいい事を

分かっていてしてしまう、

それで床へ溢れてしまったゴミ達を

見つめている。


けれど、捨てようとは思わなかった。

今はそれどころじゃないのだ。

私は今すぐにでも勉強をしないといけない。


床に散らかったミルキーを見て私は

茫然とした不安から、

焦りへの不安へ変化したのを感じる。

…ゴミには素晴らしい力でも

あるのかもしれない。


いや、ゴミというのは もう使える力が残っていない物を指す。それでも力があるとでもいうのだろうか…

仮にそうだとしたら これは思い込みの一種かもしれない。本当はまだ使える力があるのに

「私はできない」という思い込みにより

ゴミへと化す。まるで人間のように…


子供のころはキラキラと己の夢を語る。

年をとる度にだんだんと黒くけがれていく。

常識、人間関係、世間、お金、将来、…

社会に目を向けるという子供時代から

大人への一線、渡る橋のような…

その時に変わってしまうのだろう、

言い換えれば ちゃんと現実をみれる人間である

逆にそうじゃないのは自分の夢を追い続ける

それが成功か失敗かは別として…

良く言えば自分に正直である。


夢を追おうが忘れようが堕落は付き物だ。

どっちに分別されたって燃やされる時は

燃やされる。


ならば…せめてもって自分にとって正しい分別をえらぶのが… 唯一の…

素晴らしい力かもしれない… なんて…。


秒針が鳴り響く部屋で、

気づくと 私はまた、

赤い袋に手を突っ込んでいるのであった。



その時、ぷにっ とした感覚がした。

そして指に絡みついてきた。

あわあわと指を戻した。そこには――


「… うさぎ … ?? 」


ピョンと あめだまサイズのうさぎ(?)が

机へおりた。

こちらを見ることなく走り去った。


「………ハート柄だ……」


自然と体が動き追いかけた。

家の中を走り回ったのはいつぶりだろうか。

このうさぎを見失いたくない、

なにか自分の中で高まるのを感じる。


とある部屋まで きた時、

姿が見えなくなってしまった。

自分の中にとても辛い感情が流れ込んできた

何を期待していたのだろうか、

だんだん私の中が暗くなっていった。




…部屋から出ようと立ち上がった。

その時の目先に あの"クローゼット"があった。

ここはクローゼットを置いている部屋、

お母さんと片付けをした部屋だった事を

思い出す。



そっと手を伸ばした。

引き戸を引いた。

昔のように。



そこには―――







なにもなかった。



なにも入っていない、

ほこりまみれの、クローゼット、だ。


「… … …」



わたしは昔、ゆめをみていた。

クローゼットの中にへんなどうぶつがいて

木や花もある。 とてもたのしい場所。

それをまわりにこうげんした。

そして きずついて忘れてしまって夢から覚めた

12年後、再び夢を見た。

私はあの時、うさぎをみた時、

何も考えることなく 無我夢中で追いかけた。

そして 結局、ここには何もなかった。

同時に夢から覚めてしまったのだろうか……


『 夢を追おうが忘れようが 堕落は付き物だ。

どっちに分別されたって

燃やされる時は燃やされる

ならば…せめてもって自分に正しい分別を

選ぶのが唯一の素晴らしい力かもしれない』



私にとって正しい分別とは なんだ?

そう思ったら 笑えてきた。

私は夢など、忘れていなかった。

うさぎそのものは私の"夢"で

だから追いかけたんだ。

今でもその姿を見る事ができた。

こんな不安な時期に 私の夢は私を、

助けに来たのかな、

そう思うことにする。


クローゼットの中をもう一度、確認する。


…みえないか…

でも もう、なにも悲しくない。

私は私を忘れていない。

自信をもって部屋に戻って行った。


ふえラムネの音がした

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夢をみる時。 わたあめ @wata_me6

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