最終話 初恋の幼馴染。

 笑顔の魔法少女に何も言えないでいる。


 樹君と恵奈もただならぬ気配を感じ取っているようだ。


「あーあ、記憶関係の魔法は得意じゃないんだけどなぁ……。」


 このままではマズいと、咄嗟に質問を浴びせる。


「あ、あの……魔法の時計をくれた人ですよね?」


 彼女は私に視線を合わせ、途端に驚いた表情を見せる。


「あれ? あなた……五回目?」


 やはり、彼女にはわかるようだ。


「はい……ありがとうございました。」


 とりあえずお礼を言っておく。


「どういたしまして。」


 彼女は笑顔で答える。


「ところで、私達に何をしようとしたんですか?」


 んーと顎に手を当て考える仕草を見せ……


「今見た事を魔法で忘れてもらおうかな?って思ってたんだけどねー……。」


(そういう事だったのね。)


 この時間に来てから疑問に思っていた記憶の謎が解けた。前はこの人の魔法で私達の記憶がなくなってしまったのだろう。



「それは困ります。幼い頃に無くした記憶を取り戻して来いって、あなたに言われてここまで遡ってきたんですが……。」


「そうなの? うーん……困ったなぁ。」


 本当に困っているようだ。


「あなた、いつから来たの?」


「2022年です。」


「じゃあ中身は大人って事か……。今見た事を絶対言わないって約束出来る?」


「それは勿論です。」


(どうせ誰も信じないと思う。それに言ったら言ったで何されるか分らないし。)


「でも、後二人がねー……約束出来るか……。」


 確かに相手は子供だ。そう思うのも無理はない。


 私は魔法少女に近づき手招きをする。


 すると彼女は私の顔に耳を近付けてくれた。


 二人を眠らせてくれれば、後は夢だったって事にしておきます。と私はこっそり耳打ちする。


「じゃあそれでいっか。」


 納得してくれたようだ。



 そして彼女は何やらブツブツと唱えはじめ……


(◎△$♪×¥●&%#?!◎……)


「良い子は寝るのだ~!!」


  あと、悪い子も寝ろ


 とステッキを振り、魔法をかける。


(あれ?…わたし……まで……眠くな…て………)


 瞼を閉じかけている私が目にしたのは、笑顔で手を振っている彼女だった。







 目が覚めると、母の背中におぶさっていた。山を下っている途中だったようだ。


 樹君と恵奈は既に目を覚まし、それぞれの母と手をつないで歩いている。


「あっ。けーちゃんおきた。」


 ゆっくりと地面に下ろされる。


「もう二人には言ったけど、心配したんだからね!」


「……ごめんなさい。」


 母に叱られ、しょんぼりしてしまう。


「まほうだよまほう!」


「ほんとにみたよ? おんなのこがね、きでぶわああってしたの!」


 早速バラしている二人。


(まあ子供だしね……。)


「けーちゃんもみたでしょ?」


「魔法? 見てないけど。」


「えー? おんなのこがぼくたちをまほうでねむくさせたんだよ?」


「女の子? 私達三人しか居なかったよ?」


 樹母は「夢だったんじゃない?」と言ってまともに取り合わない。


 それが普通だ。どうせ信じてもらえないだろうけど、魔法少女の話は絶対にしない方が良い。



 私達はそれぞれ帰宅した。


 そして、私は家でめっちゃ怒られた。









 後日、私が引っ越してしまった理由が判明した。


 知ってしまえばそれ程大した事ではない。


(まぁ……人それぞれ意見は異なるでしょうけど。)



 父は今の仕事をやめて東京でラーメン屋を始めたいと言い出した。ラーメンを作ってくれて味見してみろと言うから味見したのだが、普通に美味しいラーメンだった。しかし、それだけ。



「美味しいけど、ラーメン屋さんやってけるかどうかは別の話だよね?」


「ええ? でも美味しいだろ? だから大丈夫だ。」


「ラーメン屋を舐めてるの?美味しくても潰れる店はたくさんある。流行らなかったら?それなりに客が来ても食べていける程儲からなかったら?店舗候補地は?仕入れ先は?原価は?値段設定は?メニューの種類と一品辺りの利益は?損益分岐点は?ライバル店にはない魅力は?開店資金は借金?それとも貯金?客足の伸びが悪い時の撤退時期は?失敗した時の事考えてる?」


「…え?…あっと……そのー…」


「すぐに答えられないの? じゃあダメだね。」


 私は矢継ぎ早に質問を浴びせかけ、父の心を完膚なきまでに叩きのめす。


 父は泣いた。


 四歳児に泣かされる父の姿はとても情けなかったが、母も乗り気だったようで母までもが泣いていた。


 多分前の私は、ただ美味しいと言って喜んでたんだと思う。


 そして根拠の無い自信を持った父はラーメン屋を始めたのだろう。私はその時の事を覚えていなかったので、余程短い期間で店を畳んだのだと予想できる。


 父はラーメン屋を諦め、引っ越しの話も立ち消えになった。




 小学二年生時、恵奈が引っ越してしまった。理由は前回と同様、親の仕事の都合だ。


 私は引っ越し先の住所と連絡先を聞き出していたので、毎年親にお願いして三人会う機会を作ってもらっていた。



 中学にあがれば、個人での携帯電話の所有が許され頻繁に連絡出来たし、高校生になれば小遣いで三人デートも出来た。





 2022年7月18日


 あの出来事から15年。今は三人で例のアパートに住んでいる。私は…いや、私たちは幸せだ。


 三人は幼馴染として順調にここまで仲を深めてきた。前回までだって、元々記憶を失わなければ幼馴染だったんだろう。


 樹君が言う“けーちゃん”が二人だったのも、実は樹君だけが記憶を取り戻していた可能性があった。


 今日は三人で買い物へ出かけている。



「あら? あなたは……前にも会った五回目の子だよね?」







―――――――――――――――――――――—————




最後まで読んでいただきありがとうございました。


これにて本編は完結です。



三人が幸せになって良かったと思った方は★評価とフォローをお願いします。



また、番外編を予定しています。


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