第16話 ハイキング

 私が二人の記憶に残りそうな事を考えていると……。


「じゃあみんなでチューだね。」


 と恵奈がファインプレーを見せた。


(恵奈ナイス! それよ! キスとか絶対に記憶に残りそう。)


「良いよ! そうしよう! さあさあ!」


 二人はキョトンと私を見ている。


(ちょっと勢いつけ過ぎたかな? でもそのままいっちゃう!)


 そんな様子に構わず、二人に大人のキスをした。


(へっへっへ……。)


 子供の二人には刺激が強かったようだ。なんだか二人ともボーっとしている。


「大人のチューよ。今度から三人でしようね。」


「けーちゃんおとな……。」


「すごかった……。」


(インプリンティングって奴よ。定期的に続ければ二人とも絶対忘れないでしょ。最悪、体に覚えさせる。)



「みーたーぞー??」


(もしかして全部見られた!?)


「三人でチューしてたな?」


 樹母が特に怒っている様子はない。舌まで入れた事には気付いてなかったのだろう。


「樹のママもチューして良い?」


「それはダメ。」


「え? なんで?」


 以外な事を言われたと思ってる顔だ。


「樹君のお母さんは恋人じゃないし。」


「さっき三人でチューしてたのは良いの?」


「三人で恋人だから良いの。」


「それは変じゃない?」


 変とは失礼な。将来三人で付き合う予定の私達に謝って欲しい。


「大丈夫。」


「恋人って普通男の子と女の子だよ?」


「樹君がどっちも恋人にするから問題ないよ。」


「あれ? それなら……良いのかも?」


 樹母は納得してくれそうだ。


「んー? でも良く考えたら二股っていうのになっちゃうよ? 良くない事なんだよ?」


(ちっ、気付いたみたいね。)


「何で良くないの?」


「え? それは……あっ、そうそう。取り合いになっちゃうでしょ?」


「恵奈も慧も樹君も皆で好きだから大丈夫だよ?」


「ん? んん? やっぱり変よ。三人で恋人って言わないよ?」


「それじゃあ恵奈と慧、どっちかは樹君を諦めて泣かなきゃいけないって事?」


「えっと…それは…そのー……。」


 もう一押し。


「樹君は一人しかいないけど、恵奈と慧は二人いるんだから三人で恋人になるしかないよ?」


「う゛…うーん……。」


 樹母は頭を抱えて考え込んでしまった。


「なんかむずかしいおはなし?」


「樹君のお母さんに三人で恋人って教えてたの。」


「そうなんだ。」


「親に挨拶しておかないとダメだからね。先にしておいたの。」


「へえー。」



 私達のやり取りを見ていた樹母は、うちの息子随分モテるな……本当にうちの子か? と呟いている。


 その日は三人で仲良くオママゴトをして遊んだ。


 それ以後……私は二人に会う度キスし、二人にとってもそれが習慣のようになっていた。


(あとは私が忘れなければ良いんだけど…いったい何があったのか……。)


 そうして、記憶を失った原因見つけられないまま、日々を過ごしていく。




 今日は山でハイキング。メンバーは樹君、恵奈、私、加えてその母ズ。


 三人で手をつなぎながら山を登っていく。恵奈ははしゃいで何度か転び、擦り傷が出来ていた。


(この時の恵奈は結構お転婆だったみたいね。)



 そうして山頂に到着。


「お弁当にしましょうか。」


「はーい!」

「うん!」

「わかった。」


 山頂には休憩所があり、そこでお弁当を食べた。母ズは御歓談中。そして食べ終えた私たちは鬼ごっこに興じる。


 夢中になり過ぎた樹君は、恵奈を追いかけ人気のない方へ走っていってしまった。


(流石に止めなきゃ。)


「待って!」


 二人は走るのに夢中で気付いていない。既にこの場所でさえも母達からは遠く離れている。


(早く行かなきゃ!)


 私は急いで追いかけるのだが、自分自身も四歳児なのだ。なかなか二人に追いつけずに焦りばかりが募る。


 ようやく二人に追いつく頃には、私までもが帰り道を見失っていた。


(どうしよう……完全に遭難した。でも、きっと大丈夫だよね?)


 私達三人は2022年まで生きていた。この山で遭難して息絶えるなんて事にはならないはずだ。


(こんな出来事があったのに、全く覚えていない私って何なの?)


「ここどこ?」


「わかんない……。」


 二人は不安になってしまっているようだ。人気のない場所だし無理もない。


「大丈夫。そのうちお母さん達が迎えに来てくれるよ。」


 私がそう言ったのを聞いて二人は安心した表情に戻る。


「よかった。」


「こんどはなにしてあそぶ?」


 今は遭難中なのであまり動かない方が良いだろう。


「疲れたからちょっと休憩。」


 二人を座らせ、自身もその場に座り込む。万が一の事を思えば、ここから帰る方法を考えないと……


「ねえ、あのひとなにしてるの?」


 恵奈が指さす方向を見ると、魔法少女の恰好をした女の子が丸太を振り回し、生き物を吹っ飛ばして戦っているように見える。


(あれって……時計をくれた魔法少女?)


 普通の人間ではないと思っていた。それでもあんな光景を見せられるまでは、日々の忙しさにかまけて深く考える事をしていなかった。


 戦いの決着がついたようで魔法少女は丸太を無造作にポイっと放り捨てると、こちらへ向かって尋常ではない速度で走ってきた。


 突然の行動にこちらが動けないでいると……。


「ねえ……見ちゃったの?」


 既に私達の元へと辿り着き、笑顔で質問してくる彼女が……

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