ランチタイム
~まりん食堂にて~
「いらっしゃい。ま、千夏ちゃん! あら、さっきのお兄さんたちじゃない! うちの食堂を選んでくれたのね~! ありがたいわ。めいっぱいサービスしとくからね! はい、メニューだよ。今の時期はウニとツブガイとメイチダイのよくばり海鮮丼がおすすめだ! サービスでイクラもつけちゃうんだから!」
「
さきほど一緒にミラー号を出迎えた、おばちゃんこと海原さんは、早口でまくしたてると、あたしたちにメニューを配り、お冷を注いで去っていった。
「嵐のような人ね」
「それね」
雄津さんたちは、海原さんに圧倒されていた。島の人間は慣れたもんだけど、初めて接する人は戸惑うだろうな。
「押しは強いですけど、とても面倒見のいいひとなんですよ」
「それはわかるよ。ふるさとの親戚を思い出すなー」
ふるさと?
雄津さんがメニューを開いて、ほうっとため息をついた。獲れたての魚介類をこれでもかと盛り付けた海鮮丼が目白押しだ! アワビにウニに、タイにイクラ!
お腹が鳴りそう!
「うわっ。想像以上だな! しかもこの値段で食べられるのか! ありがたいな」
「絶品ね」
「気に入ってもらえて、嬉しいです!」
ぐ~~。
あっ、ついに腹の虫が鳴ってしまった……恥ずかしい!
雄津さんは柔らかく微笑むと、メニューの向きを変えた。あたしが見やすい位置だ。
「水咲さんも好きなものを頼みなよ。案内をしてくれたお礼にどうぞ」
この人はモテる! あたしは確信した。同年代男子の誰にもないスマートさだ! 都会の男の人ってみんなこう?
「あら。それは構わないけど、ここの代金を払うのは私なのをお忘れなく」
「ひ、
檜山さんが悠然と唇を釣り上げ、雄津さんが冷や汗をかいた。この力関係はなんだ?
あたしが不審がっていると、雄津さんは引きつって笑いながら、説明をしてくれる。
「彼女は財閥のお金持ちで、出費のたびに彼女が立て替えてくれてるんだ」
「はあ……」
ますます、二人の関係性が分からないぞ。こういうのを、なんていうんだっけ。友達が話していたような。
あっ。
「……ヒモ?」
「ははは……ヒモと言われても仕方ない。僕の名誉のために弁解すると、瞳は僕の『パトロン』なんだ」
「ぱとろん?」
初めましての言葉だ。
「庇護者、後援者。スポンサーと言ってもいいか。お金持ちが、見どころのありそうな若者を支援することを指すよ。シェイクスピアやレオナルド・ダヴィンチ、モーツアルトなんかもパトロンの支援を受けて、芸術の世界で活躍したんだ」
「はぁ……」
そういわれると、すごいことのような……?
「雄津の欠点は金欠ね。いくら偉人を並べてごまかそうとしても、だめよ」
「ちぇ」
雄津さんが唇を尖らせて、メニューに目を落とす。
「すみません、失礼なことを言ってしまって」
「いいのよ。あなたみたいな人がいる方が、慢心しないで済みそうだしね」
檜山さんがくすくす笑った末に、目に滲んだ涙を、ハンカチで拭った。その所作はとても滑らかで、見惚れてしまう。
「お礼といってはなんだけれど、千夏ちゃん、好きなだけ食べて。遠慮せずに……」
「本当ですか?」
あたしは檜山さんの両手を握りしめた。身を乗り出して、ひじがテーブルに当たる。
「嬉しい! なかなかそういうことを言ってくれる人がいないんです! 感激です!」
「え、ええ」
あたしはイクラとサーモンが載った海鮮丼をさすと、そこから縦に指を移動させた。
「この列のメニューを全部ください!」
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