・メルルの覚醒
私の名前は『メルル・S・ヴェルロード』現在大ピンチです。と、言うのも……。
カサカサカサッ……
「ヒィィィッ!」
お分かりいただけたでしょうか? そう、やつです。黒光りするあいつが現れたのです。
しかも私の目の前に! あろうことか私のお腹の上で逃げるそぶりもみせません。ぬぐぐぐぐっ、そうですか私など恐るに足りませんか、いいでしょう。その慢心を打ちくだいてやりましょう。
私は枕のそばに置いていた読みかけの小説を手に取り、思いっきり振り下ろす。やつは避けることもせずに私の最大の一撃をその身で受け止めた。
確定的な勝利に私はささやかな喜びと、凄まじい虚しさに包まれるなか、その微妙な勝利の余韻に水を差すかのように、唐突で軽快なBGMが流れる。
テッテレッテテ~
『おめでとうございます。レベルが上がりました。ステータスの確認等はステータス画面で行うことができます』
ふぇ? レベル? ステータス? 何それ……いた!
「痛い痛い、いだだだだだだだだだぁーーー?!ッ」
聞きなれない言葉、突然の頭痛に私は乙女にあるまじき悲鳴を上げる。いたいいたっ! マジで痛い死ぬヤバイヤバイ、てか乙女って俺は男だし……。
あれ? 私、俺、どっちがどっちだったっけ?
「どうされました、お嬢様!」
ドアを蹴破るような勢いで使用人達が部屋に入ってくるのを、生命の危機を感じるレベルで酷くなってきた頭痛により朦朧とする意識の中確認した。
そこで、私の意識は完全に失われた。
後に私は知ることとなる。
この日突如私を襲った猛烈な頭痛こそが、その後の私の人生を変えていく契機となったことを、そして半年の月日が流れた。
ーー運命の日より半年、私は全てを思い出した。そして全てを理解した。
では、あらためまして、私の名前は『メルル・S・ヴェルロード』元日本人の知識と魂を持つ転生者ってやつだ。
だがしかし、私は私であり“俺”であるとは言い難い。意味がわからないかもしれないが大丈夫、実は私も分かっちゃいない。全てを理解したと言ったがあれは嘘だ。だから、これから私が述べることは所詮予想でしかないと言うことを理解して頂きたい。
まず、私の人格についてだが、たぶん混ざっている。私は私であり同時に俺でもあるのだ。
完全に推測であるのだが、俺は転生するにあたり適当な胎児の身体を乗っ取る手はずになっていたようだ。しかし、ここで何らかの手違い(または神の奸計)により意識の覚醒は訪れなかった。結果として以後七年間、私として過ごすこととなる。
そして半年前、レベルUPが引き金となり俺の意識が蘇ったのだが、信じがたいことに七歳児の私の意識に負けてしまい、主人格の座を奪うことに失敗し現在に至る。
(俺の三十余年の人生とはいったい……どんだけダメな奴なんだよ俺……まあ、三十代にもなって、定職にもつかず、童貞だった、俺じゃ仕方ないか)
しかし、私の中の俺は完全に死んでしまったわけではない。少なからず私は俺の影響を受けている。よって、混ざっていると表現したわけなのだが……。
ちなみに俺の影響は性癖面にやや偏っているようで、自分の体に興奮を覚えた時は軽く死にたくなった。まぁ最近はすっかり安定したものの、馴染むまでは色々とあったのだ、色々とな。
やや話がそれてしまったが、続けよう。
次はステータス、つまり私の強さだ。神様からチートを貰ったんだからさぞやお強いんでしょう? と、思うかもしれないが、実のところ今は大したことがない。尤も、比較対象もいないので詳しくは分からないのだが。私が持つチート能力は簡単に言えば“成長チート”だ。敵を殺すことで経験値を手に入れレベルを上げることで強くなっていく。
えっしょぼい? いやいや、とんでもないですよお客さん、考えても見て欲しいなんの練習もせずに、他者を殺すだけで、ポンポン魔術や強力な技を覚えていくのだ。
しかも、私はとどめを刺すだけでいいのだ。
つまり毒で弱らせても、罠にかけて身動きが取れない相手を殺してもとどめさえ刺せば普通に経験値を取得できるのだ。
ああ、素晴らしいかな見事なゲーム仕様。
ただ、一つ問題があるとするなら覚える技や魔法、スキルなどに俺が考えた厨二病全開のものが含まれてることぐらいか。
ふぅ、また枕に顔をうずくめて足をジタバタしたい……。
では次に、私の現在のステータスと俺と融合してからの行動について振り返ってみようか。ステータス画面表示と念じてみる。すると、あら不思議、私のステータスが、まるでゲームの画面のように脳内に浮かびあがるじゃありませんか。
ーーステータス
名前メルル・S・ヴェルロード
LV19
HP12800 MP149600 体力E+ 筋 力D+ 魔力B+ 俊敏C 耐久力C 属性耐性C+
所得スキル・肉体強化lv2 状態異常無効化 HP上昇lv1 頑強lv1 瞬足lv1
取得武技・
取得魔術・数が多すぎるので割愛(上級まで使えます)
ちなみにこのステータス評価は、スキルの内容が反映された状態でこれである(スキルのON、OFFは常時可能です)。
生まれつき魔術の才能は持っていたみたいだが、寝たきりに等しい生活も合い待ってか肉体は貧弱もやしもいいところで、実は今住んでいる家も生まれつき体の弱かった私の為に、お父様が自然の多い所の別荘に住まわしてくれているらしい。
どうにも自然豊かな土地は、大気中のマナがどうのこうので健康に良いと説明を受けた気がする。事実七歳になるまで私は外に出た記憶がない。
その上、常に状態異常とか、どんだけハードモードだったんだ私の人生……。
そこで私は、早速CPを消費し肉体強化と状態異常無効化を取得し外に出る準備を整えた。使用人達は最初こそは、ぐずっていたものの元気いっぱいの私を前に最後には折れ外に出ることを許してくれた。そして、その日から使用人達の目を盗んでのレベル上げが始まる。
最初は昆虫類から小動物、最近は小型の魔物まで、これが想像以上に辛かった。今は魔術が使えるのでまだマシだが最初のうちは素手、あるいは適当な鈍器(そのへんに落ちている石や木の棒)でひたすらに潰していくのだ。
実に精神衛生上よろしくない作業である。
罪悪感? こちらとら命がかかてるんだ。そんな甘っちょろいこと言ってられるかよ。私は私の目的のためには手段を選ぶつもりはない後悔はしたくないからな!
では最後に先ほどもちっらと出たが、私の目的についてだ。勿論、当面の目標は打倒魔王である。が、問題はその先、それは漠然としていて、曖昧で陳腐な願い。平凡でいて当たり前な至上にして究極の願い、
私は『幸せになりたい』。
幸せとは何ぞや? 実は私にもそれはわからない。俺の人生を含め、何分幸せとは程遠いとこに生きてきたゆえ……。
まあ、それは、おいおい考えていけばいいか、なにしろ今の私には無限の可能性があるわけだからな。
幼女奴隷帝国? それはないでしょ(笑)。
ええい静まれェェ静まれ、私の中の俺よォォォォォォォっ!
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