第63話 あけましておめでとう

「あけましておめでとう、親父」


「おう!なんだぁカナタ?せっかくの正月なのにえらく早起きじゃないか?」


「ああ、ちょっと和葉たちと初詣の約束してるからさ」


 すると親父は膝を叩いて言った。


「そうなのか!それは真菜さんも来るのか?」


「おう、来るって言ってたぞ」


「そうか、それじゃあお父さんも一緒に行こうかな?」


「え?親父も来んのか?」


「なんだ?せっかくの機会だ。大室さんのところに挨拶しないと無礼って奴だろ?」


「それは・・・そうなんだけどさ」


 親父の言ってることに間違いは無いんだけど、外で親と一緒にいるのを知り合いに見られるのってなんか恥ずいんだよな・・・


 俺がどうやって親父と別行動を取るか脳内で画策していると、親父が携帯を置いてコチラに親指を立てて言った。


「よしっ!真菜さんに許可もらったからサッサと準備しまして一緒に行こうぜ!」


「・・・もう好きにしてくれ」


 忘れてた、真菜さんは基本的に来るものを拒まない。早い段階で親父から連絡手段を取り上げるべきだった・・・


 しかしもう何もかも後の祭り。すでに親父の同伴は確定したのだ・・・俺は肩を落としながら外出の準備を始めるのであった。


 ・・・・・・・


「にしても、やっぱり人が多いな・・・」


「そりゃそうだろカナタ、だって今日が日本で一番おめでたい日だぞ?」


「それは、人によるだろ」


「つれねえ奴だなあお前は!それよりよ、大室さん達はどこにいるんだ?」


「ここら辺で待ち合わせしてるから、近くにいるはずだけど・・・あっ来た来た」


「あっ!カナタ君!お待たせしましたー!」


 そう言うと三葉がパタパタと駆け足で近づいて来た。そして三葉を追いかけるように和葉と双葉もやって来た。三人はそれぞれ違う色の着物を着ていた。真菜さんが準備していたものだろうか?


「あけましておめでとうございます!カナタ君!今年もよろしくお願いします!」


「おう!今年もよろしくな」


「三葉!勝手に走っていかないでよね!あっ、カナタあけましておめでとう」


「おう、こっちこそあけましておめでとう」


「はあ、はぁ・・・三葉早すぎるよ」


「大丈夫か?和葉」


「あっカナタ君・・・あけおめ」


「お、おう、あけおめ」


「これで三姉妹全員揃ったな!」


「あっ!カナタ君のお父さん!あけましておめでとうございます!」


「おう!えっと・・・双葉ちゃんかな?」


「残念!三葉です!」


「え?あーそっかそっか三葉ちゃんだ!ごめんな間違えちゃって」


「親父・・・しっかりしろよ」


「仕方ないだろ?久しぶりにあったんだからよお」


 するとやっと真菜さんが俺たちの元へ着いた。


「三人とも早すぎよ〜あっ、皆さんあけましておめでとうございます〜♪」


「あっ、おめでとうございます」


「おう、真菜さん!今年もよろしくな」


「今年もうちの子がお世話になります〜」


「いやいや、全然そんなことないですよ!むしろ、うちの子をよろしくお願いします」


 そんな親特有のやりとりを気恥ずかしく感じていると、和葉が俺の耳元で言った。


「何かさ、こういうやり取り見てるのって恥ずかしくない」コショコショ


「それな、なんなんだろうな?これ」コソコソ


「なにコソコソと話ししてんのよアンタ達?」


「うわ!って双葉か・・・どうしたんだよ?」


 すると双葉は入口の方を指差して言った。


「何かママ達ちょっと時間掛かるっぽいから先にお参りしててって言ってたわ」


「そうか、それじゃあ早いとこ済ませるか」


「そうだね♪三葉も行くよ!」


「はーい!」


 ・・・・・・・


 ガラガラガラガラッ


 ぱんっぱんっ!


「「「「・・・・・・・・・」」」」


「よしっ、これでお参り終了だね♪」


「そうだな、この後お前らは用事あるのか?」


「無いですよ!でもその前に・・・」


「おみくじ引きましょう!」


「一年を占う大事なおみくじ!これは何としても大吉を引きましょう!」


 ・・・・・・・


「うううぅ・・・」ズーーーン


 触れづらいっ・・・!!


 おみくじの結果は俺と和葉と双葉が大吉、そして三葉が・・・


「何で私だけ凶なんですかー!こんなの納得いかないですよ!」


 そう、凶だ。他人事になるがあまりにも可哀想だ。俺は宥めるように声をかける。


「気にすんなよ三葉、おみくじなんて事実を表すものじゃ無いんだから気にすんなって」


「・・・そうですかあ?」


 俺が続けて言葉をかけようとしたが、それを双葉が止め、トドメを刺した。


「でも凶ってことは今年一年は運がないものって考えたほうがいいかもしれないわね」


 すると三葉は体をぷるぷると震わせ始めた。これはマズイ。


 そう思ったのも束の間、三葉が大声で叫んだ。


「もういやーーーー!!!!!」

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