猫が見ていた

夢水 四季

猫が見ていた




 とあるマンションの管理人から通報があった。

 俺を含む刑事数名で現場に向かった。被害者は30代の女性、死因は腹をナイフで刺されての失血死。死亡推定時刻はおそらく昨夜の午前2時頃。

 犯人等の目撃者はいない、いや、人間以外ならいるともいえる。

 現場には猫がいた。

 被害者が飼っていたオスの黒猫。被害者の女性の側でみゃあみゃあ鳴いている。

「悲しいよな、お前のご主人死んじまって……」

 動物好きの同僚が猫を撫でながら言う。

「そうだな」

 俺は現場検証を続けながら答える。

「みゃお」

 黒猫が俺をじっと見つめて一声鳴いた。

 

 とある街で殺人事件が起こった。

 被害者と犯人は不倫関係にあった。男が女を面倒になって刺殺した。

 よくある話だ。

 犯人は警察官で、敏腕刑事だった。上は身内の不祥事に蓋をした。

 そして、いつしか事件は風化された。犯人も新しい家庭を持った。


 ただ一匹、あの黒猫だけが殺された女のことを忘れなかった。



                                終わり


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫が見ていた 夢水 四季 @shiki-yumemizu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ