出前あり遠方より来(きた)る
そうざ
Delivery Comes From Afar
「申シ訳ェ、ゴザイ、マセンデス。モウ少シ、待ッテェ、下サイ」
カスタマーセンターの担当者は、片言の日本語で答えた。
その日、ネットをしながら昼飯はどうしようかと考えていると、デリバリー専門店のサイトに行き当たった。
和食、中華、フレンチ、イタリアン、各地の民族料理等々、世界中のグルメを様々に取り揃えていると言う。一流シェフが腕を振るう本格的な味で、インスタント品や冷凍物は一切使っていないらしい。しかも、配達非対応の地域はなく、世界の何処からでも注文が出来、格安の上に代金は後払いシステムになっている。
そんな事が本当に可能なのか。
「それで何時頃に届く予定なの?」
「ア~、実ハ、白菜ガ盗マレテシマッテ。泥棒ヲ
「白菜なんか入ってなくても良いよ」
「デモ、デモ、実ハ~、烏賊ト蛸ヲ間違エテ仕入レテシマッタノデ」
「烏賊でも蛸でも構わないって」
その後も、海老が背面跳びで逃げ出したとか、
段々面倒臭くなって来た頃、先方が唐突に言った。
「アッ、今、出前ガ出発シマシタ」
「本当か?」
「ホント、ホント。
「どれくらい掛かんの?」
「ア~、今ハ雨季ダカラ、チョット遅レマス」
そこで電話は勝手に切られた。俺はもう掛け直す気になれなかった。
元々、興味本位、面白半分で利用してみただけだ。五目あんかけラーメンくらい近所のファミリーレストランで幾らでも食べられる。
それから三ヶ月程が経った或る日、ネットをしながら昼飯はどうしようかと考えていて、
サイトを開くと、新着情報に『サハラ砂漠支店』が新規出店した旨が表示されていた。
またしても好奇心が頭を
途端にインターフォンが鳴った。
ドアの外に痩せこけた
「ゴ、ゴ注文ノ……品、オ、オ届ケニ……アガリ、マシタ……」
男は、日に焼けていながら蒼白く生気の抜けた顔で息絶え絶えに言った。今にもぶっ倒れそうだ。
それにしても、今回のビーフストロガノフはやけに早く、ちゃんと届いたではないか。アマゾンとサハラ砂漠とではどちらが日本に近いのか、と思わず脳裏に世界地図が浮かんだ。
男は震える手で岡持ちの蓋を開け、注文品を取り出した。
「ゴ、ゴモク……アン……」
丼から一斉に小蝿が飛び立ち、強烈な異臭が辺りに拡がった。
出前あり遠方より来(きた)る そうざ @so-za
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