第3話 シャーペンとボールペン


「歴史の追試?」


ぼくが不思議そうに聞くと、女神の少女は言った。


「学校では、2千年くらいしか教えないけど、女神のわたしは、宇宙創世から覚えないといけないの、だから人類の細かい歴史までは手に負えない」


「・・・」


女神は大変だ。


・・・と言うわけで、ぼくはシャーペンに変身させられ、彼女の代わりに追試を解くことになった。


追試のある教室で、彼女は何気に、シャーペンのぼくを、指でクルクルと回し始めた。


クルクルクルクル、凄い勢いで!


「目が廻るよ!」


その言葉をきっかけに、回転はさらに速度を上げた。


「な・・な・・な」


それは明らかに人知を超えたスリルだった。


「何がしたいんだ!試験前だよ!」


追試の教師が入ってくると、人知を超えたスリル体験は終わった。


「今日はね、君の為に、特注のシャーペンの芯を作ってきたの。

君がシャーペンな訳だし・・・健康を気遣って、カカオから直接作ったビターチョコレート芯だよ。徹夜で作ったから眠いよ。」


「そんな暇があったら勉強しろよ!」


彼女は、シャーペンのキャップをとった。

そして、じーと芯を入れる穴を見つめた。


「そ・・そんなに見んといて・・・」


彼女はニヤッとすると、ビターチョコレート芯をシャーペンに入れた。


「どう?」

「ビター、身体の芯からビター」

「今回は、あれも入れたからね」

「あれって?」

「あれよ、あれ(*v.v)。」

「あれって、何だよ!」


追試用紙が配れて、追試が始まった。

追試は、前やった問題だし、そんなに難しくはなかった。

ぼくが追試問題を解き終えると、彼女は指でぼくをくるりと回し、ブレザーの内ポケットに仕舞った。


「おお!」

「ご褒美♪」


内ポケットは、少女の体温と優しい香りに包まれていた。

そして、波打つ彼女の心臓音が、ぼくの身体の芯まで伝わってきた。


「生きてる・・・ぼくも彼女も」


その音をじっと聞いていると、ぼくはだんだんと眠たくなった。

変身って意外と精神力と体力を使う。


「君をペンにして、歴史の問題を書き込む。

君の一部を使って、歴史を書き込む感覚。

なにか深い意義と意味があるような気がする」


「・・・うん、そうだね」

眠りに落ちながら、ぼくは相槌を打った。


気がつくとぼくは、彼女の部屋にいた。


ふふふっ、初めての彼女の部屋。


でも、まだぼくはシャーペンのまま・・・


いや違う、ぼくはボールペンになっていた。

少女は、施錠してある日記の鍵を開けた。


「ボールペンのインクと化した君の一部を使って、わたしの歴史を記す」


少女はそう言うと、日記の真っ白なページに、自分の今日一日の歴史を記した。

少女は、日記を書く手を止め、ボールペンを、くるりと回すと言った。


「何かを付加する事によって、意義とか意味は、その存在価値が出てくるの。

この行為の象徴的な意義と意味が、何か解る?」


え?


ぼくの思考回路には何も浮かばなかった。


「・・・・・解らない、何?」

「教えなーい♪」


少女は嬉しそうに答えた。



おしまい


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