第16話 マトイの過去
私は外の世界を知らない。
小さい頃はお母さんと一緒に暗い蔵に閉じ込められていた。
「お母さん、外に出たいよ~」
「駄目よ、マトイ、外の世界はマトイの敵しか居ないの、だから此処から出ては駄目」
お母さんは何を言っても外に出してくれなかった。
蔵の中の牢屋には小さな窓があって、そこから外が見られる。
それが私が見られる唯一の外の世界。
良いな…皆は自由に外に出られて…
此処には何もない。
お母さんと私しか居ない…
最近は、ご飯を少しだけ残して、窓に置くと鳥さんが食べにくる。
良いなぁ~ 鳥さんは空が飛べて。
此処にはお母さんと私しか居ない。
偶にお父さんが来るけど…
「そのガキをいい加減放せ…そうしたらどうにかするから」
「マトイは、私の子供です…絶対に放さない、放さないんだからーーーっ」
そう言うとお母さんは私を痛い位抱きしめる。
「そんなガキが俺の娘だと解かると不味いんだ…殺すしかないんだ」
「そんな事私が許さない..」
お父さんとお母さんが何時も言い争っていた。
こんな化け物みたいな子産みやがって。
これが解ったら我が家は破滅だ。
やがて…お母さんが死んだ。
お母さんが死んだ、その日、お父さんが此処にやってきた。
「お前が、お前が全部悪いんだーーーっ ううっううっお前が生まれなければ彼奴も病む事が無かった!」
そう言いながら、お父さんは私の首を絞めた。
「お父さん…ハァハァ、苦しい、止めて…」
なんでか知らないけど、お父さんは首を絞めるのを止めてくれた。
「チクショウ、俺には殺せない…」
そう言いながら、私を豚小屋に閉じ込めた。
「ちゃんと豚の世話をするんだ、良いか? お前より豚の方が売れるだけ価値がある。ちゃんと世話をしろ、そうしたら飯をくれてやる」
そう言うと、私は豚小屋に繋がれて豚のお世話が始まった。
臭いし、気持ち悪かったけど、慣れると其処まででもない。
ただ、お父さんに何か話すと「キモイ、死ね」そう言われるのが一番つらい。
気に入らないとお父さんは木の棒で私を叩く。
泣いても止めてくれないから、泣くのは止めた。
蹲って黙っていれば…直ぐに終わるから。
ご飯はジャガイモや野菜でお母さんと一緒の時と違う。
パンもスープももう2度と出て来なかった。
逃げたくても鎖があるし、逃げられない。
大きい声出してもきっと誰も助けてくれない。
だから無駄だよね。
仕方なく、私は豚の世話をしてご飯を貰う生活をするしか無かった。
外に出たいな…外に出たい。
なんで、私は化け物に生まれてきたんだろう。
美人なんかじゃ無くて良いの。
普通で良い。
ただ、普通に村の中を歩く自由…それすら私には無い。
豚と一緒に暮らしてただご飯を食べて生きていくだけ。
自由は全く無い。
ある日の事、私は鎖が緩んでいるのに気がついた。
逃げるなら今がチャンスだ…
そのまま豚小屋から逃げた。
逃げた先には人が居た。
大丈夫…お父さんじゃない。
初めて見る外は臭く無くて、空は青くて凄く綺麗だった。
「綺麗…」
「ば…化け物だーーーーっ」
その声を聞いたお父さんに見つかって私は結局豚小屋に戻る羽目に…
そして、暫くして私は、他の女の子に紛れて売られていきました。
「あの、私の毛布」
「お前は何を言っているんだ…お前は廃棄奴隷、売り物じゃない」
廃棄奴隷?
「売らないなら何で此処に私は居るの? 要らないなら捨てて下さい」
「あのなぁ、本当はそうしたいが奴隷にしてしまったら最低限の奴隷としての人権があるからそれは出来ない」
「それじゃ…」
「まぁ、誰かが買ってくれれば此処から出られるが…死ぬまで此処から出る事は無いだろう」
「そんな…」
あははははっ、そうだよ。
私、化け物みたいに醜いんだもん。
誰も買う訳ないよ…
奴隷なんて最低の生活でも更に序列はあるんだよ。
高額の奴隷の部屋にはソファーまである。
安物の奴隷でも毛布は貰えるのに私にはそれすら無い。
他の奴隷はスープとパンなのに、私はパンだけ…水は流石にくれるけど…それだけなんだ。
そして…お前には何も見せないと言わんばかりに毛布が檻に掛けられた。
あはははっ、もう何も見るなと言う事なんだね。
周りには何人か人が居たけど、もう見る事も出来ない…
私を見て怖がるからかな…
私は此処で、このまま死んでいくのかな…
そう思っていた。
◆◆◆
あれ…毛布が少し空いている。
何でだろう?
めくっている人と目が合った。
もしかして…この人がお客さんなのかな?
買って貰えれば、外に出られるのかな。
じっと私を見ている。
化け物だから?
なんか違う…私を見る嫌な目じゃない気がする。
「子供なのかな?」
私はチビだからそんな風に見えるのかな。
あれ…化け物、キモイじゃなくて…子供可笑しいな、あれっ。
「えっ…私はこれでも16歳だから、子供じゃないよ…まぁそう見えるよね」
うん、子供では無いんだよ…小さいけど。
「そうか子供じゃ無いなら良いのかな」
何が良いのかな? それよりこの人私と普通に話してくれるけど…良いのかな?
「何が? その前に良く私とお話しできるね。キモイ、死ねとか何時も言われているのに」
「僕から見たら、凄く可愛い女の子に見えるんだけど…買っても良いのかな?」
可愛い…私が?
そんな訳無いのに…それより、今買ってくれる?間違いなくそう言ったよね。
「あの..買ってくれるの? 嘘…冗談じゃ無くて…こんなにキモイのに? 頭も大きしいチビなのに胸も大きくて豚みたいなのに」
「勿論、お兄ちゃんと呼んでくれるなら喜んで買うよ」
え~とそれだけで買ってくれるのかな?
その前に私がお兄ちゃんって呼んで良いのかな?
お父さんだって嫌がって「豚以下の癖に娘面するな」って怒ったのに…良いの?
「お兄ちゃん…これで良いのかな?」
いいのかな~。
「買ったーーーっ」
「やったぁーーお兄ちゃんありがとう!」
思わず叫んじゃったよ…買って貰えたんだもん。
その後お兄ちゃんは太ったおじさんと奴隷商人のおじさんと話しあって本当に私を買ってくれた。
奴隷紋を刻まれた時は痛かったけど、私を必要としてくれるお兄ちゃんを思ったら、うん気にならなかった。
「それじゃマトイちゃん行こうか?」
そういえば、私お兄ちゃんの名前も知らないや。
「お兄ちゃん、マトイはまだお兄ちゃんの名前も聞いて無いよ?」
「僕の名前は聖夜、冒険者をしているよ」
聖夜…それがお兄ちゃんの名前。
だけど、なんで急いで出ようとしているのかな?
「そうなんだ、お兄ちゃん、なんでそんなに急いでいるの?」
「時間が無いからね…行くよ」
え~と、もしかして奴隷商人のおじさんが他の女性に言っていた。エッチな事をしたいのかな?
あれは私は売れないからって教わって無いんだけど、大丈夫かな?
どうしようかな?
身を任せれば良いのかな。
「うん、解った、優しくしてね」
私が歩き出すとお兄ちゃんはいきなり、お姫様抱っこしてきた。
うん、凄く嬉しいけど…そんなに私としたいのかな?
背は低いし、不細工だし、胸とお尻は大きいし、化け物みたいなんだよ。
「おお!お兄ちゃん、そんなに待ちきれないの」
「ああっ待ちきれないよ」
お姫様抱っこしてくれているし、何だろう?
なんだか、凄く嬉しくてポカポカしているからいいや。
「まぁ、お兄ちゃんなら良いや」
いやだ、なんでか知らないけど顔が赤くなっちゃった。
「そう言ってくれると助かるよ」
お兄ちゃんは私を抱っこしたまま凄く速く走り出した。
景色が代わって行くのが凄く綺麗だし、夕焼けで赤い空も凄く綺麗だった。
それよりもまるで宝物のように抱っこしてくれるお兄ちゃんが…凄く嬉しい。
エッチな事と言うのは何か解らないけど。
なんでもしてあげたい。
本当にそう思った。
だけど…
「え~とお兄ちゃん、なにこれ?」
「古着屋さんだよ、取り敢えず6着位、似合いそうなのを買おうか?」
「古着屋さん?」
「そうだよ、服を買ってあげるから、好きなのを選んで」
「え~とお兄ちゃん解らない」
「それじゃ、店員さん、この子に似合いそうな服を適当に選んで欲しいんだけど」
「えっ…はい、今日はイクミさんじゃないんですね。ただ、その方の服は普通じゃ無いですから簡単な手直しが必要ですよ」
「どの位時間が掛かりますか?」
「それは大丈夫です。私はお針子のジョブ持ちですから、30分も掛かりません」
「それじゃ、それでお願いします」
「はい、畏まりました」
「その間、ちょっと他の買い物をしてきて良いですか?」
「大丈夫よ」
「それじゃマトイちゃん行こうか?」
「あっ、はい」
え~とエッチな事じゃないのかな。
奴隷の勤めじゃない様な気がする。
それどころかさっき買ってくれた服かなり豪華に見えるんだけど…
「それじゃ、次は雑貨屋さん、食器に歯ブラシ…後はまぁ良いや、纏めて買わないと」
「お兄ちゃん?」
「適当に必要な物買うからね、欲しい物があったら言ってね」
「うん」
「こんな感じで買ったんだけど良いかな?」
「解らないからお兄ちゃんに任せるよ」
「そう、解かった…次は寝具屋さんに行くよ」
「うん」
「すみません、オーダーでく出来あいの布団ってありますか?」
「少し割高ですかがありますよ」
「それじゃ一式下さい」
「お兄ちゃん、これ、まさかマトイのなの?」
「当たり前じゃん」
嘘、こんなフカフカな布団買ってくれるなんて…
「さぁ、どうにか間に合ったね、これで最後に服を取りに行けば終わり」
「あの、お兄ちゃん急いでいたのって」
「うん、お店が閉まっちゃうから…ね」
「そうだったんだ」
「そうだよ…さぁ服も買ったし、宿に帰ろうか」
「はい、お兄ちゃん」
お兄ちゃんは今迄の人達と違う…
なんでか知らないけど凄く優しい。
どうして良いか解らないけど、凄く高そう物も沢山買ってくれて。
私どうしたら良いんだろう。
こんなに大切にされた事なんてない…どうしてあげたら良いのかな。
お兄ちゃんの為なら何でもしてあげたい。
本当にそう思った。
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