第7話 何をしよう

朝目が覚めた。


昔の習慣でつい早く起きてしまう。


もう仲間は居ないんだし早く起きる必要は無いのに。


そうだ、イクミ…


良かった。


横のベッドでスヤスヤ寝ている。


しかし、見れば見る程凄く可愛い。


此処が秋葉原なら、色付きのウイッグとかコスプレ衣装を買ってくるのに。


まだ、起きそうもないな。


朝市に行って何か食材でも買ってくるか。


前世なら冷蔵庫もあるのにこの世界には無い。


そのくせ、宿屋には何故かキッチンがついている。


まぁ、本当に不便な物だけどな。




朝市にやって来た。


肉と野菜を買ってスープでも作って、後はパンで良いか。


イクミは昨日、あの後盛大に吐いた。


話を聞くと、今迄真面に食事をとった事が無かったそうだ…

多分胃も弱っていたに違いない。


残念ながらこの世界に米は無い。


だからお粥が作れない。


必要な物は買ったからこれで良いだろう。


ついでにクリーム菓子でも買って帰るか。



◆◆◆


「ご主人様…ご主人様が居なーーーい。 嘘…何処に、何処に行っちゃったの…ううっしくしく」


「どうしたんだ?」


「居なくなっちゃったと思って…心配して…心配してううっしくしく」


「ごめん」


「ううん、私..ごめんなさい、だけど居なくなっちゃったと思って、悲しくてごめんなさい」


「心配しなくて良いよ。僕は何処にも行かないから」


「本当?」


「本当だから、安心して」


「良かったぁーーっ」


泣いている姿も可愛いかったけど、笑顔はその何倍も可愛いな。


「それじゃ食事を作るから待っていてくれる」


「えっ、ご主人様が食事を作ってくれるの…えへへっ凄く嬉しいな」


そう言えば、俺今迄幼馴染の飯作っていたのに感謝なんてされた事無かったな。


ただ、お礼を言われるだけでもこんなに嬉しいものなのか。


嫌違う…相手がイクミだから余計に嬉しんだ。


「ああっ、今から作るから待っててくれ」


「はーい」


そう言いながらイクミは僕の横に座りながら頬杖をついて鍋を見ている。


こんな可愛い子が何故…あそこ迄酷い事になっていたのか本当に不思議で仕方が無い。


野菜の皮をむいて刻んで、肉と一緒に調味料で煮込んだだけのスープにバターを塗ったパン。


暫くはこんな物だな。


「さぁ、出来たよ」


「うわぁ、美味しそう」


「熱いから、ちゃんと冷ましながらスプーンで食べるんだよ」


「?」


イクミはキョトンとした顔をしながらこっちを見ている。


よく考えたら危ないので冷めてから食べさせた方が安心だな。


「少し冷めるまで待とうか?」


よく考えたら、スプーンすら真面に使えないのにこのまま飲ませたら危ないな。


「はい…」


そう答えながらもイクミの顔はお預けを喰らった犬みたいにスープとパンから目を離さない。


そうだ。


「パンは食べても良いよ。僕の真似をしながら食べて」


「うん」


急に笑顔になった…やはり凄く可愛い。


僕はパンを契りながら食べて見せた。


「さぁ真似てみて」


「解かった…うん凄く美味しい」


普通に市場で売られているパンなのに嬉しそうだ。


柔らかくない硬いパンなのに。


「スープも冷めたみたいだ、これも僕の真似をしながら食べてね」


「うん、解った」


食い入る様に見ながら、一生懸命真似ながら食べている。


たどたどしい食べ方が寧ろ庇護欲をそそり、凄く可愛らしく見える。


「こんな感じに口に流しこむようにね」


「うん…」


1時間位ゆっくり時間を掛け食事が終わった。


テーブルは結構ビシャビシャだ。


テーブルを拭いたら…今日は何をしようかな?


あれっ『何をしよう?』


こんな事を考えたのはどの位ぶりだろう。


今迄の僕は『何をしよう』そんな事も考えられない位てんぱっていたのか。


「イクミ今日は何をしようか?」


「えっ…そうですね」


イクミと一緒なら何をしても楽しそうだ。










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