第2話 イクミとの出会い

結局退団した僕に残ったのは『お金と剣』だけだ。


ガイアは『女に対する独占欲』と『やたらと自分を大きく見せたがる』その二つを除けば案外良い奴だ。


これは幼馴染だから言える事だ。


実際に彼女をとられたり、自慢ばかり聞かされた奴からしたら、クズだと思うだろうな。


最後の最後まで彼奴の傍に居たのは…クズじゃない、その辺りを僕は知っているからだ。


本当のクズなら、装備や金を取り上げるだろう。


前世で見たライトノベルなら確実にそうだ。


だが、魔剣も手元に残してくれたし、退団金も金貨20枚(約200万円)くれたし、鎧は元から着ていないから、僕の持っていた物は、必要な物以外は全部くれた事になる。


彼奴は…女と名誉に汚いだけでクズじゃない…少なくとも僕はそう思っている。



一緒に居る時は最後の方は…あいつ等全員、どうでも良い奴、そう思っていたけど…


案外1人は寂しい…


まぁ仕方ないな…生まれてから今迄あいつ等4人と何時も一緒だったんだからな。


『しかし、暇だ』


今迄一人で雑用全部していたけど…何もやる事が無い。


宿屋の予約とったら…もう今日は何もやる事が無い。


久しぶりの自由だ、散歩でもするか。



何も考えずに一人寂しく歩いているとのぼりに目が留まった。


『奴隷市場』


そうか、今は奴隷市場の開催中なのか。


奴隷市場とは奴隷商の組合が開催している物で、この場所だと大体2か月に1度程の頻度で開催される。


エルフみたいな高級奴隷から鉱山奴隷迄オークション形式で出品される。


一般人も入口の奴隷商にお金を払い鑑札を貰えば参加できるが、どちらかと言えば奴隷商が商品の仕入れをする目的で使う物だ。


どうせ暇だし『覗くだけ覗いてみるか』、そう思って入口に向って行ったら…入口から横に沢山の檻があるのに気がついた。


「お客さん…もう競りの殆どは終わっちまったよ、後は鉱山奴隷のオークションだけだ。入りたいなら本来銀貨1枚だが銅貨1枚で鑑札を発行するよ」


まぁ、鉱山奴隷しか居ないなら、そりゃそうだ。


「流石にそれじゃ良いや…所であそこに居る檻に入った奴隷って何ですか?」


「あれは、売れ残りや奴隷商組合の品質基準を満たせなかった為に出品出来なかった奴隷を売っているんだ…まぁ碌な奴は売っていない」


「市場の周りでやっていて良いんですか?」


「ちゃんとした奴隷商ではあるんだから問題無い…遠い場所から来た者なら、連れ帰る手間を考えたら安くても売り払いたんだろうな、ただオークションじゃないし店舗で買ったわけじゃないから、あそこで買うと本来はつく生体保証の3か月が無いぞ」


生体保証とは購入して3か月、普通の取り扱いをしていて奴隷が死んでしまったら同じ金額位の奴隷を貰えるという保証だ。


「説明ありがとうございます。オークションを見てももう仕方ないので、檻をみて回ります。有難うございました」


僕はお礼をいって銅貨3枚チップとして渡した。


「まぁごく稀に掘り出し物も居るみたいだから、見るのも悪くないかもな」


僕はお礼を言い、檻の方に向っていった。


「すこし、見せて頂いてよいでしょうか?」


たしか、ちゃんと店主に声を掛けてから見るのがマナーだ。


奴隷商らしき人が3人居るから、全員に声かけた。


「あははっ此処は店でないから自由に見て良いよ、青空だからね」


「そうそう、自由に見て良いよ」


「品質は保証はしないけど、気に入ったのが居たらお得だよ…まぁ難しいかも知れないけど」



言っていた意味が解った。


どうみても病気を患っていそうな者、隻腕の者。


確かに商品価値は低い者しかいない。


しかも見た感じ全員男しか居ない様に見える。


半分暇つぶしに見ていたら…


一つの檻にシートが掛けられているのを見つけた。


『何でこの檻にだけシートが被せてあるんだ』


好奇心からめくってみた。


「嘘だろう…この世界にはこれ程の美少女が居るのか…」


その檻の中にいた少女は、綺麗な長い黒髪に透き通るような黒み掛ったグリーンアイ。見つめていると吸い込まれる様な錯覚を覚える程澄んでいる。

体はスレンダーで手足がすらっとしている。


前世の記憶の中にもこんな美少女は居ない。


そして、今この世界…エルフやダークエルフが居る此の世界でもこんな美少女は見たことが無い。


まるで物語の主人公が…アニメやマンガライトノベルのヒロインにしか見えない。


奴隷なので話さない様に言われているのか…話してこない。


この子はどう考えても売れ残りじゃないな…一体幾らするんだ…確か、ガイアが昔、凄く綺麗なエルフが金貨5000枚(5億円)で買われたなんて話があった。人族だからそこ迄いかなくても、流石に金貨20枚じゃ駄目だろうな...態々シートで隠していたんだ、もしかしたらすでに売約済みかも知れない。


無理なのは解る…だけど、諦めきれない。


自分の人生で二度とこんな美少女には絶対に逢えない。


聞くだけ聞いてみよう。


もし足りなかったら何とか分割に出来ないか交渉しよう。


「すみません、この子幾らですか?」


店主は他のお客と話しをしていた、だからこちらを見ないでぞんざいに答えた。



「此処に居るのは市場におろせないレベルの奴隷だから、欲しいならどれでも銀貨3枚で譲るよ」


嘘だろう。


多分、他の奴隷との間違いだ。


「このシートの掛かっている子の事だよ」


「すまないねー、奴隷は銀貨3枚以下にはならないんだよ…だから銀貨3枚だ」


聞き間違いじゃ無いようだ。


このまるで二次元から現れた様な美少女が銀貨3枚。


ちゃんと、確認はした。間違っていたとしても向こうのせいだ。


「だったら、この子買います、買いますから直ぐに手続きして下さい!」


横槍が入ったら大変だ。


僕は大きな声で叫んだ。


「購入されるのですね! はい…それですね…解りました直ぐに手続きします。まぁ女ではあるから..掘り出し者なのかな…あはははっ」


「ちょっと待て女が居たのか」


ヤバイ、向こうの男もこっちに来た。


「すみません、もう購入の意思を示した後です。」


「うるせーな! ちょっと見せろ…あっ悪い邪魔したな」


そう言うと、男はそそくさと立ち去った。どうかしたのか?


「すみません、奴隷の方は銀貨3枚これが奴隷の最低価格です。此処は奴隷市場内でないので生体保証はつきません。あと、この奴隷に限り、買い戻しはありません」


「別に構いません」


僕が欲しいのは彼女であって、他の奴隷じゃない。


彼女を見てしまった今、伝説のハイエルフだって霞んで見える。


「有難うございます、あと奴隷は銀貨3枚ですが、奴隷紋、契約に銀貨3枚掛かります。まぁ今回はこちらでサービスします。こちらを銀貨2枚にしますので、合計銀貨5枚になりますが宜しいですか?」


「宜しくお願い致します」


「畏まりました、それでは手続きさせて頂きますので、テントの方へどうぞ」


よく見ると、少し離れた所にテントがあった。


そこで契約するようだ。


奴隷商の用意した書類にサインして、血が必要と言う事で剣で右手の親指を傷つけて、奴隷商が彼女の背中につけた印に言われるまま、その指の血を擦り付けた。


無事に紋様が浮かび上がり奴隷紋が刻まれた。


「これで手続きは終わりです…この度は有難うございました」


僕は銀貨5枚を払った。


「話ししても良いですか?」


「もう契約も終わりましたし、その奴隷は貴方の者です。ご自由にどうぞ! あと少しで今日は終わりですから、それまでテントを使って頂いて構いません」


「あの…買って頂き有難うございました…」


声まで凄く可愛い…ヒノキボイスと鋲宮ボイスを足したような…声優の様な澄んだ声だ。


「こっちこそ…その君みたいな凄く可愛い人にでうわわえて(噛んじゃったじゃないか)幸せだふ。 名前を教えてくれまふか。」


見れば見る程綺麗で可愛い。


汗がさっきから止まらない。


こんなに緊張したのは火竜に遭遇した時以来だ。


「…自分でも解っていますから、気を使わなくても平気ですよ…私気持ち悪いですよね…奴隷としても価値が無いから…真面に扱ってもらっていません…実の母親からも気持ち悪いって…頭すら撫でて貰ったことも無いんですよ…村でも良く石をぶつけられていましたから…別にお金に困って無いのに、私の事を気持ち悪いって..見たくないって…ううっ実の母親に売られたんですよ…正確にはお金払えないという女衒に「無料で良いから」って」


僕には彼女は凄い美少女にしか見えない。


「あのさぁ、転生者って知っている?」


「転生者ですか…別の世界の記憶があるっていう、あれですか?」


「そう、それ、僕は転生者だ」


「そうですか…転生者なんですね…」


う~ん、どう伝えれば良いのか。


「転生者には前の世界の記憶があるのは知っているよね?」


「はい…」


「その前の世界なら、君は間違いなく美少女、だから僕には、綺麗な女性にしか見えない」


「私が美少女で可愛い…嘘でもそんな事言ってくれたのはご主人様だけです」


「何と言おうと僕には君が美少女にしか見えない。僕の名前は聖夜、宜しく」


「嘘でも嬉しいです…私の名前はイクミと申します。宜しくお願い致します..」


2次元から現れた様な理想のイクミ…それが何でここ迄自信がないのか…僕には本当に解らない。







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