親孝行

@kanzakiyato

親孝行

ある日、機械音痴の母がデジカメを買ってきた。

母はどうやら嬉しいらしく、はしゃぎながら色んなものを写していた。


何日かして、メモリがいっぱいになったらしく、

「写せないんだけどどうすればいいの?」

と僕に聞いてきた。


「今忙しいの見てわかんないの?分からないなら説明書読めば?」

「つまらないものばかり写してるからだろ?」

と母に強く当たってしまった。

母からはごめんね、と一言だけの謝罪だった。

今思えば、その声は少し暗く、悲しげな声だった。


それからしばらく経った日。母が亡くなった。

葬儀も一通り終わり遺品整理をしていたら、

生前母が使っていたデジカメがでてきた。

もう随分と使われていないソレは埃をかぶっていた。

僕はふと、何を撮っていたのか気になりメモリを覗いてみた。


そこにはたくさんの写真があった。

どれだけ下にスクロールしても、どれも似たような写真ばかりだった。

そんな写真の被写体は、僕の寝顔だった。


母が生きていた頃の何気ない日常や風景が、

フラッシュバックするかの様に次々と脳裏に思い起こされる。


母の手料理を美味しそうに頬張る僕を

暖かく、柔らかな瞳で嬉しそうに見つめる母の姿。


僕の参観日に当の本人よりも楽しそう支度をする母の姿。


母と大喧嘩して自室に閉じこもっても、

夕飯を作って部屋の前まで持ってきてくれる母の姿。


次々と思い起こされる思い出に僕は涙が止まらなかった。

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