それは、私のための一歩
神奈川県人
第1話
いきなりだが一歩、前に出してみてほしい。
人によってその幅は違うがその一歩があなたの人生を変えて、夢が叶うとしたら犠牲を伴ってでも踏み出すだろうか。
それも人によって違うだろう。
これは、それでもと一歩を踏み出した青年のはなし。
入相高校二年の夏に出会った彼女、
僕はこの学校で唯一の屋上に通う常連だった。もっともこの時期には、わざわざ日照りを浴びる生徒も少なく、いつも一人で暇な時間を過ごしている。だが、ある日のこと。ドアノブをひねり一瞬目が眩んだ後、普段とは違う光景を目にした。
それは見たことのない人が熱いコンクリートの上で熱い陽を浴び、見ているだけで暑い状況のなか大の字で寝転んでいたから。
何も言わず、何も考えずに後ろに下がり鉄の、少し重いドアを真顔で閉めた。
気持ちを切り替えながら記憶を削除しようとしつつ、初心の気持ちになりながら階段を降りようと、一歩分片足を出しながら正直な感想を言い放った。
「......昼飯、どこで食べよう」
結局、気持ちは切り替わりきらずに真顔のまま階段を三段ほど降りたところで急に背中が暑くなった。
ガチャ ギィ~ ガコン ガタン バキッ 「あっ」
どうやらオノマトペがドアを開けたらしい。擬音語にこれといった姿形は無いはずだが、果たしてどんな見た目をしているのだろうか......。
「居なくなんじゃ無いよ! 待ってた私は暑いよ! 焼かれそうで生きてたとしても成仏しちゃうよ!」
恐ろしい言葉が聞こえた、一応耳を疑ってみるが間違いない。確かに耳に入ってきた「待っていた」という部分が。誰に対しても待たれるような用もないし、そもそも面識もないのに待っていたなんてストーカーか不審者の一択じゃないか。
「あの、まずお名前は? あと、その上履きの色は三年生ってことですか?」
逆光のせいで顔がギリギリ認識できる程度の影になりながら、その影はハキハキと流暢に自己紹介をしてきたのだった。
「けほん、そう! 我が名は
影でありながらスラッとした立ち姿、決して細いだけじゃないし筋肉質というわけでもない、スタイルの良いスレンダーで「おい! これはいわゆる美人だぞ、めったに居ないだろ!」そう野生の勘が訴えていた。
「とりあえずこの私と一緒に話さないかい? まだ名前も知らないしさ」
いまいち正体に謎が残る美人と一緒にとりあえず屋上で雑談をすることにしたが、分かったことは少なかった。
「あの、
「屋上の常連か~いいね常連として誇れるところを持っているなんて私にはないからうらやましいよ」
「まあ、うれしい理由でここにいるわけじゃないんですけど......。」
「それで? 屋上の常連的に面白いことは起きたりしたの?」
「トンビにお弁当のおかず持ってかれたりガリレオにあこがれて鉄球を落としてみたり、あと写真部に所属してるのでここで雲の写真撮ってます」
「雲の写真! いいねぇ結構センスがある趣味してるじゃん」
彼女は自分のことは語らず、自分ばかりが話してしまっていた事だけが記憶に残っている。彼女の話し方が上手かったことに他ならない。
陽に照らされながら体感的には短かったがしっかりと時間は過ぎていった。彼女はこの夏に日焼けをもう気にする必要がないと思う。
六階の屋上から一緒に階段を降りてきて四階、まず最初に三年生のフロアが現れる。僕のクラスはこの南棟じゃない、だから別れ際に何組か聞こうと思っていたけど横を見たらそこにはもう霞美の姿はなかった。
「あれ? 居ないのか、消えたみたいだな」
別れる前に一目顔を見たかっただけにすこし寂しくもなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます