大事なうちの子
藍染 迅@「🍚🥢飯屋」コミカライズ進行中
隣人
「お隣、入居したみたいね」
新築マンションの8階に我が家は入居した。お隣は2か月ほど空いていたが、昨日引っ越し業者が来ているのが目に入った。
「変な人じゃなければいいけど」
もともと近所付き合いが負担になるので、戸建て住宅から分譲マンションに引っ越してきた。隣人との付き合いは薄いほど好ましい。
「小さい子供がいると、騒がしいかもな」
夫はスマホを弄りながら、ぽつりと呟いた。夫は自分の娘以外、世間の子供に関心がない。嫌いなわけではないが、子供の理不尽さや執着の強さに晒されるのが苦痛なようだ。
お互いに顔の見えない存在であるのが一番良い。それが我が家の隣人関係に対する認識だった。
「おはようございます」
数日後はじめて廊下で出くわした隣人は、ごく普通の主婦に見えた。年齢は50過ぎくらいか? 化粧っ気のない顔だが、髪はきれいに整えていた。全体に清潔な印象だった。
「おはようございます」
互いに会釈をして別れた。
会えば挨拶をする。それくらいの距離感が一番心地よい。こちらの生活に踏み込んで来るような人でなくて良かったと、胸を撫でおろした。
暫く暮らしていれば、隣人の生活振りはなんとなく伝わってくる。どうやら一人で暮らしているようだった。
昼間仕事に出ている様子もない。買い物以外は部屋にいる時間が多いようだ。車には乗らず、外出は徒歩。
出かけるときは幼稚園児が被るような黄色いハットを頭に載せている。何か意味があるのだろうか?
「あら?」
娘を幼稚園に送った後、8階のベランダから何気なく外を見下ろすと、目の前の公園に黄色い帽子が見えた。
「お隣さんよね。お散歩かしら」
公園の中をゆっくりした足取りで散策していた。時折すれ違う人に黄色い帽子が会釈する。犬を連れた人と出会うと、長いこと足を停めていた。座り込んで犬を撫でている。
「動物好きなのね」
このマンションはペット禁止で部屋では動物を飼えない。世話をする大変さを思うと、もともと動物を飼おうという気持ちにならないのだが。
「Kwaaaa!」
隣のベランダでカラスが鳴いた。思わぬ近さで鳴かれたもので、不意を突かれてびっくりする。
「嫌だ。カラスが来るの? このマンション」
逃げるように部屋に戻り、わたしは窓をしっかり施錠した。
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