第2話 奇声魔術師、帰還
その後、俺は意気揚々とダンジョンの外へと脱出した。
「んんー!! いつもは眩しいとしか思えない
そんな恥ずかしい独り言を口にしてしまうほどに、俺のテンションは上がっていた。
え? お前さっき、ドラゴンにビビって漏らしていただろって? 大丈夫、汚れたズボンは美化魔法でとっくに綺麗サッパリだ。
「よっしゃあ、さっそく家に帰るぞ!」
腰元に
その途中、鞄の中にしまったジュエル財布が気になって、何度も何度も確認してしまう。なにしろこの中には今、俺の全財産が入っているのだ。絶対に失くすわけにはいかない。
「へへっ。金に余裕があると、こんなにも気分が上がるなんてな!」
ちなみにだが、この財布はジュエルだけを異空間に収納することができる。だからどれだけ詰め込もうとも、感じる重さは変わらない。だけど今だけは、普段よりもズッシリと重く感じられた。
「ふぅ。今日は日が暮れる前に帰って来れたぜ」
ルンルン気分だったせいか、いつもより早くファースヘイムへと戻って来れた。
いや、ファイアドラゴンを倒したことでレベルが上がり、身体の性能が上がったのかも? あとで冒険者ギルドへ行って、レベルの確認をしてこよう。
街の門番に挨拶をし、中へと入る。まだ明るいせいか、街を歩く住人の数が多い。中には屋台で買ったと思われる串焼きを、ハフハフと美味しそうに食べながら歩く人の姿も見掛けられた。
――ぐぐぅ。
「おっと、そういえば昼飯を食べてなかったっけ。さすがにお腹が減ったな」
鳴りやまぬ腹を
たしか今日は、促成魔法で生み出した雑草のサラダだったはず。草の青臭い味しかしない料理だが無料だし、僅かな整腸作用と満腹感を得られるので俺は重宝している。
だが、今日は事情が違う。財布の中身には余裕があるのだから、家に帰って雑草を食べる必要はないだろう。
「久しぶりに定食屋の“フェニックスの巣”へ行くのもいいな。あそこの煮込みハンバーグは美味しかったしなぁ。店員のミラちゃん、俺のことをまだ覚えてくれているだろうか……」
あそこはボリュームがあって、値段も手頃。貧乏な駆け出しの冒険者にはありがたい存在だった。看板娘のミラちゃんも初々しくて可愛かったんだよなぁ。
昔は通い詰めていた定食屋も、今じゃめっきり足が遠のいた。最後に訪れたのがいつだったかも思い出せない。
「――よし、久しぶりに行ってみるか」
急遽、行き先を俺の家があるスラム街から飲食街へと変える。せっかくの臨時収入だ、今日は贅沢にいこう。
その途中で裏路地へと入った。ここはスラム街に近い場所で治安が悪いが、腹が減っていた俺は一刻も早く店に行きたかった。
「ん? なんだ、あいつらは?」
裏路地を見慣れぬ集団が占拠していた。全部で5人。道を塞ぐように横に並んでいる。全員が反対を向いているため顔は見えないが、体格からして男だろう。身長は高く、190センチ近くはあると思われる。
「あの格好は魔術ギルドの魔術師か……? こんな所で何を……」
てっきりゴロツキかスリかと思ったが、そうではないようだ。
この国にはジョブごとにギルドがあり、大抵の奴らはどこかのギルドに所属して働いている。
その中でも、魔術ギルドの奴らは特に目立つ。ギルド員はみな、目の前に居る連中のように趣味の悪い黒のローブをまとっているからだ。
「はぁ……勘弁してくれよ、まったく」
明らかに厄介ごとが起きている。連中の足元に、誰かが座り込んでいるのが見えてしまった。
「さて、どうするか……」
普段の自分なら、通行を諦めて別の道を行く。巻き込まれたくないしな。
だが今の俺は違う。何て言ったって、俺はファイアドラゴンを倒した男だ。ただでさえ空腹で苛立っている上に、研究ばっかりでひ弱な魔術ギルドの連中相手に遠慮なんてしたくない。――よし。
「おいお前ら! どけよ、邪魔だろ!!」
俺は5人組の背中に向かって怒鳴った。だが誰も振り向かない。
「……」
「聞こえてないのか!? 早くそこを通せって言ってんだよ!」
今度は真ん中にいた奴の肩を掴んで、強引に揺すってみた。するとソイツはこちらを振り向き、俺の顔を見るなりニヤリと笑みを浮かべた。
「ほおぉ~? いい度胸じゃねぇか、てめぇ。スラムのガキが、オレたちに喧嘩を売るとはな」
「お、お前は……!」
声は低くて渋く、ダンディズムを感じるイケボだった。顔には古い傷痕があり、見た目はまるで闇ギルドの暗殺者みたいだが……
「ま、魔術ギルドのトップがどうしてここに……」
俺は、その正体を知っている。
この男は魔術師ギルドの支部長。そしてこのファースヘイムで最強の魔術師、ヒキョンだった。
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