記録家の憂鬱

リアス

第1話記録家としての憂鬱

カランコロンという鈴の良い音と

「すいませーん」という声が聞こえてきた。

「はーい!今行きます!」

と奥の書斎で作業をしていた私は慌ててカウンターに向かう。

5歳ぐらいの小さな女の子とお父さんが入ってきた。どうやら家族連れのようだ。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「えっとね!あの、病院にいるママがね!

好きだった所をもう一回見せてあげたいの!」

「えっと、お母さんに見せたい景色を記録してそれの提供ですね分かりました。

では場所がどこか教えて貰えますか。」

カウンターから地図を取り出しお父さんに見せる。

「はい、えっとこの山のここにちょうど座れるぐらいの大きさの岩があってここから見るのが妻の趣味でしたので。

今度妻の誕生日もありますので、病院の中だと暇だと思いますしそのプレゼントをと思いましてね。」

「パパまだー?」

「ルイ、ちょっと待ってね。」

女の子ルイちゃんが退屈そうなので、急いで地図に場所を印をつける。


「では今から取って参りますので、明日午後ごろには仕立て上がると思いますので、

そのぐらいになったら再度いらっしゃってください。」


そういうとお父さんと女の子はありがとうございます。と言って帰っていった。


「では、早速行きますか!」

そう言って店の奥の魔法陣に乗り、指定した場所を意識する。


すると後ろから風が吹き、草が揺れる音がする。

「うっ、眩しい!」

ゆっくりと開けた目には万年雪の積もる

美しく巨大な山脈が目に飛び込んできた。

足元の谷はそこが見えず落ちてしまえば生き残る事は不可能だろう。


「これは、まさに圧巻ですね。」

早速紙に記録を始め、景色から読み取れる情報を書き記し続ける。

そして1時間ぐらいが経ち記録が完了し、

固まった身体を伸ばす。


「んー疲れた!岩に座ってのんびり見る山の景色が見たいって要望の時はピクニックも出来るしいいんだよね。

それにこの場所、結構気に入っちゃったなー私も今度ここ来よっと!」


あの女の子のためにも書き込んだ紙を瓶に詰めてせっせと荷物を片付けて、帰る準備をする。

記録家には世界中の美しい景色を保存し、その景色を売ったりする仕事だ。

たまに遠くに住んでいる家族を見たいという依頼などで終わった後にみんなが喜んでくれる顔がとても嬉しい。


すると「ねーこれからどうする?」

若そうな女性の声が少し遠くから聞こえて来て私は急いで移動用の魔法陣に入りお店へと帰る。


「あーびっくりした!まさかあんな山奥まで人が入ってくることなんてあるんだー

今度行くときは気をつけないとな。」


分かっている人もいると思いますけど私はそう。めちゃくちゃ人見知りなんです!

仕事なら仕事として割り切れるので平気ですが、普段になってしまったらそれはもうお顔真っ赤になっちゃいます!


まぁ、そんなことを考えていながら作業していたら予定より早くに完成したので暇を持て余していると、カランコロンという鈴の音と共に小さな女の子が入ってた。


「おねーちゃん、お願いした奴どうなったの?」

そう言って記録をお願いしに来たルイちゃんが取りに来たようだ。


「うん、出来たよ。じゃあよく聞いててね。この瓶を開けたらお姉ちゃんが入れた見れるから見たい時に開けてね。じゃあお代は銀貨

3枚ね。」


私がそういうと小さなポケットから3枚の銀貨を私に渡し、瓶を大切そうに受け取った。


「ありがとう!おねーちゃん!これで病院のママにまた見せてあげられる!」

「そっかぁ、じゃあ早く行ってお母さんに見せてあげなきゃね!ほら、お父さんが待ってくれてるよ。」


私が言うと彼女は扉の前で待っているお父さんに走って行った。

バイバイ!と手を振ってくれたので

私もバイバイと手を振って扉の外までお見送りをした。


後日に彼女のお母さんからのお手紙が届き、

(足を怪我してしまったので、もう見る事は出来ないと思っていました。それでもまたこの景色が見られて幸せです。本当にありがとうございました。)

そう書かれている手紙を見るとこの仕事をしていて良かったなと思う。


「…仕事頑張るかぁ!」

そう言って私はまた机に向かった。

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