第23話 天皇賞秋

「圭一郎、飯行こうぜ晩飯」


「師匠、お金持ってないんでしょ?」


「ああ。すっからかんのオケラだよ」


「俺の奢りってことですか……居酒屋でいいですよね」


「ゴチになります!」

 ということで師匠と2人明日の作戦を練るということで居酒屋に向かう。


 今日は終始ぬめっとした展開で最後一発逆転を狙った師匠はすっからかんのオケラになってしまった。俺は3000円ぐらいのプラスだったのだが、師匠に奢ることになったので結局マイナスになりそう。


「とりあえず生2つで」

 店に入るなり師匠が自分の金で飲むかのように注文をする。


 そしてカウンター席に二人座る。


 座るなり師匠が口を開く。

「明日は天皇賞秋だな」


「……天皇賞秋?」


「え? おまえ知らねぇの?」

 師匠はさも知ってて当たり前というような感じで言い放った。


「知らないのが当たり前ですよ……」


「まあいいや。先週菊花賞ってG1のレースがあっただろ? 今週は天皇賞秋ってG1のレースがあんの」


「えG1って毎週あるんですか? それじゃありがたみないというか……」


「競馬界は春と秋がG1シーズンなの。あと走る距離が違ったり歳や性別が違ったりするから同じレースじゃねぇんだわ」


「そうなんですね」


 そんな会話をしているとビールとおつまみが運ばれてくる。


 師匠はビールのジョッキを俺の前に出す。

「明日は勝つぞ」


「負けたの師匠で俺は負けてませんけどね」

 そう言ってビールのジョッキをもちあげ師匠のジョッキに近づける。


「「乾杯」」

 と二人で同時に言ってからビールをグイっと飲む。


 ある程度飲み食いが終わると遠慮なくビール4杯も飲んだ師匠が赤ら顔で口を開く。


「明日の天皇賞は面白いぞ。最強馬決定戦と言ってもいい」


「へぇぇそうなんですね」


「無敗の三冠馬のクラウドプレーン、3歳世代最強とも言われるジークアドラル。そして歴史に名を連ねるであろうマイラー、グレンアルテッツァこの3つ巴の戦いだ」


「それじゃその3頭で決まるんですかね?」


 そう言うとドンとジョッキをテーブルに置き不機嫌そうに師匠は口を開く。


「決まるんですかね? じゃねぇぇよ! この3頭に割って入る馬がいるのか! それともこの3頭で決まるのか! それをお前の力で見極めんだろうが!」


「そ、そうでした」


 師匠は興奮気味に話を続ける。


「しかもこの3頭、完璧じゃないだなこれが。つけ入る隙ってのがあるんだよ。例えばクラウドプレーン。3冠馬なんだがまあ3冠馬といっても圭一郎には分からないだろ? まあ平たく言えば4歳世代の間では一番強かった馬だといっていいな…… だがなこの4歳世代の2番手の馬の成績が振るわない。4歳世代の成績そのものが良くないんだよ! そしてこの馬自体春に3着と負けてしまった」



「もしかしたら弱いかもしれないってことですか?」


「そう! そういうことだ! そして3歳最強の一角ジークアドラルだが、3歳で天皇賞秋を勝った馬はここ20年で2頭だけ内1頭は中山開催」


「3歳で勝つのは難しいってことですか?」


「そういうことだ! そしてグレンアルテッツァはマイルまで滅茶苦茶強いが2000メートルのこの天皇賞距離が持つか否か! 大阪杯で2000メートルに挑戦したが、この時は重馬場で参考外! 良馬場になったときに本当に距離が持つかどうか!」


「なるほど三者三様に不安要素があるんですね」


「そう! だからつけ入る隙があるんだよ! この3頭で決まったら馬券的には美味しくないだろ」


 そういうと師匠はビールをグイっと飲み干し店員を呼び5杯目の生ビールを注文している。自分の金で注文するかのように。


 注文したビールを待つ間赤ら顔の師匠が話を続ける。

「もしこの3頭に割って入れる馬がいなければ、3連単1点で勝負しようと思う」


「なるほど……でも師匠、軍資金のほうは? 今日で全財産0になったんじゃ……」


「甘いなあ圭一郎くん。マックスコーヒーよりもずっと甘いよ」


 や、ヤバいこれは俺にお金を借りるつもりじゃ……


「お、俺はお金は貸しませんよ!」


「人から借金してギャンブルとかやっちゃダメっしょ」

 そう言って師匠は笑う。


「そ、そうですよね……」

 師匠は意外とまともな考えもっててよかった……


「この前、600万勝ったときに10万だけ入れたから枠が10万円分空いたんよ。その10万を突っ込むわ」


「そ、それは借金では……」


「キャッシングだから。借金じゃないよ」

 師匠は真顔でそう言っていた。

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