第22話 ぬめっと
――菊花賞から6日後、土曜日の朝。
「師匠まだかな……」
東京競馬場の正門前で師匠を待つ。
師匠を待っている間、1週間前のことを思い出す。
大金を賭けてたということもあってか、当たった後のことはフワフワした感じであんまり覚えてないのだが師匠と一緒に高額支払い窓口というところに行って帯封のついたお金をもらった
結局、師匠の600万超えの現金、自分は200万の現金を手に入れてた。
晩御飯は焼肉? なんてことを考えていたような気もする。
異世界馬券師のアカウントはというといいねが500を超えるぐらいついて、フォロワーが一気に100人近く増えた。
その日にのうちに東京に帰ってきて師匠と別れてそして今に至る。
年収の半分ほどの現金を手に入れたから今週は競馬場にいくこともなくのんびりと穏やかに家でゴロゴロしてた。
そして師匠から昨日ここに集合と連絡を受けたのだが……その師匠がまだ来ないんだけど……
5分ほど待っているといつものカジュアルスタイルの師匠が見えた
少し大きめの声で師匠に挨拶をする。
「おはようございます!」
ちょっと眉をひそめた師匠が口を開く。
「朝からハイテンションだな……いいことでもあったの?」
「そりゃ先週200万になったら1週間ハイテンションですよ」
「ふーん……」
「師匠、今日は300万ぐらい単勝にぶち込んで3000万ぐらいにしちゃいますか?」
俺が笑うと師匠は師匠は頭をポリポリと掻きながらばつが悪そうにこう言った。
「今の全財産……3万なんだ……」
へ……言葉を失って目を丸くしていると師匠が続けて口を開く。
「……すった……600万すっちゃった」
「すっ……た?」
「うん……競艇で……」
……600万を1週間で負けるって……
「な、なんで他のギャンブルするんですか! せっかく600万も勝ったのに!」
「……あれは堅いレースのはずだったのにな……三重がさあ……」
そういって師匠は遠くの空を見ている。
掛ける言葉も見つからないとはこのことだろう……
「ボートのステータスって見えねぇかな圭一郎くん」
「見えるわけでないでしょ!」
「そうだよなあ……ということで俺には競馬しかねぇ! この3万を今日300万にする!」
そう言うと師匠はずんずんと勢いよく競馬場に入っていく。
入っていくとちょうど1Rのパドックが始まろうとしている。
その馬のステータスを見てPCに記入し、その値を元に師匠が予想をする。
それを繰り返す。
◆◇◆
「なんだよ! このぬめっとした感じは!」
7R目が終わったときに師匠がそう言った。
「そんなこと俺に言われても……」
7R中4R的中してるからそんなに成績は悪くはない悪くはないのだが……
しかしその的中レースは単勝2倍や1倍台の馬が来た時だけ当たっている。配当が高かったレースはステータスが低い馬が1着になったりしてて当てることができなかった。
師匠がボソッと呟く。
「今日は人気薄でステータスが高い馬がいねぇんだよ……」
「ですね……」
師匠はさっききたSNSのリプライが気になってるようだ。6Rの予想に対して『人気どころばっか予想してんじゃねぇよ! そんなんなら俺でも予想できるわ!』というリプライが飛んできて「なら自分で予想しろよ」とスマホに向かって怒鳴ってた。
しかし……この日は終始ぬめっとした感じで12R中6Rほど的中で終わってしまった……
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